第13.5話 二〇二号室の住人
俺は鹿嶋 哲哉。男。23だ。
特技は特になく、趣味も特にない。ただ、どちらかと言うとアウトドア派だからその時思い立った事をやって大抵過ごす。
仕事も安月給だが今のところ文句はない。
プライベートでも仕事でもそれ自体にはなんら不満はないが、個人的な事で言うと悩みは尽きない。
筆頭はこの顔。俺が名付けた訳じゃないが生来の"威嚇顔"でとことん人間関係が上手くいかない。
そんなに器用な方じゃないから上手く繕って表現も出来ない。
一度笑顔が人との距離を縮めると聞いて努力してみたが、顔つきも目付きも笑うことで必要以上に不敵になって蜘蛛の子が散るように人は遠ざかった。
殺笑能力があるとも言われたな。ナイーブな方ではないがあれはダメージ食らったな。
だから私生活で人との交わることはほぼほぼ無い。
仕事は幸いなことに生産加工工場に入れたから、帽子とかマスクで顔は隠せて仕事自体は支障なくやれている。
この顔のせいで就職も出来ないってなってたら悲惨だからそこは救いだな。
救いと言えばこのアパートにもそれは言える。
不動産屋に出向いても下見に行っても基本よく思われないのがあからさまに多かった。
自分でも断ったり相手から断られたりで最終的にここに辿り着いた訳だけど、大家さんが俺の顔に全然抵抗感みたいなのを感じてなくて、驚くぐらいフラットに接してくれたのがここに住む決め手だった。
他の住人はまだ少し固さがあるのは否めないけど、過敏な反応とかせず普通に挨拶もしてくれるから助かってる。
そんなんでここは俺にとっては住んで都な訳なんだが、最近違う悩みが出来た。
隣がうるさい。確かお隣は作家だとかやってるヤツと聞いていて、実際今までは静かだった。
ただ、なんか飛び込みで来たヤツと一緒に住み始めてから事あるごとにうるさくなりやがった。
現に今も壁を強めに叩かれた。
聞くと飛び込みのヤツは女子中高生って話じゃねぇか。
経緯は知らねーし人様の家の事だからホントはどうでもいいはずなんだが、なんかむしゃくしゃしてならない。
俺がこんなにも人間関係で頭を悩まされてるのに、お隣は若い女とキャッキャッウフフとしてやがるのかと思うとコンチクショーとやっかみたくなるもなる。
何だかんだ考えてたらまた隣から騒ぎ声が。
そこまで壁が薄い訳でもないからその気になれば無視できるレベルではあるけど、やっぱりむしゃくしゃする。
これは身勝手な八つ当たりだ。それは分かってる。この顔で自分の器までも小さいなんてヤバイとは思うけど、文句でも苦言でも一言ぐらい言ってもバチは当たらないだろ。
俺も好き好んでご近所トラブルなんてのは御免だ。
だからこの一回きりだ。それで気も済むと思うし。
それでもいざ物申す相手の部屋の前に立つと少し緊張はあるな。
この顔だけど自分から人に突っ掛かる事なんてほとんどした事ねぇし。
まぁ勢いで行くしかないだろ。じゃないと揺らぎそうだ。
不用心にも鍵は掛かっていないみたいだしこのままいくか。
1、2、の3
「おい!さっきから何やってんだ!」
『うるさい黙れ!』
「えぇー!?」
部屋に3人。男と少女と女。
和美人みたいな女とポニーテールの可愛めの少女がまるで獲物を仕留めるかのように同時に俺の方へ振り向き、一切の遠慮も躊躇もなく切れ味ある言葉を浴びせてくる。
何なんだコイツら……?初対面だろ?第一声で放つ言葉じゃないだろ普通?
でもなんだ……?妙に悪い気がしない。むしろ充足感がある気さえする。
なぜかもっとその言葉がほしいような今までにない初めての感覚だ。これは一体なんなんだ?
なんとも言いがたい胸の高鳴り。
戸惑いも覚えると同時に俺はそこに立ち尽くしてしまった。
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