第11話 捜査本部
「パパー?おーい。パーパー」
「ん……?んん……は!」
雪音ちゃんの顔が逆さまに見える。
いや違うなこれ。俺が倒れてるからそう見えてるだけだ。
完全に意識を奪われたんだな俺。
まだ体自体は動かなくて確認は出来ないが部屋の前で大の字で倒れてるなこれ。
うん。スゴイ近所迷惑でしょう。騒ぎになっていなさそうだから雪音ちゃんが俺の第一発見者かな?
「パパ。こんなとこで何してるの?」
「よくぞ聞いてくれたね。ここで誤解が生んだ悲惨な事件が起きたんだよ」
「そうなんだ。パパは被害者?」
「そうだと言い張りたいんだがそうとも言えない。難しい立場かな」
「ふーん。そっか」
「そうなんだ」
「……」
「……」
「とりあえず部屋入る?」
「……頼める?」
若干口角が上がったようにも見えたけど何か察してくれたのかな。
完全に引きずって色んなとこが擦れて削れてる感じはするけど、大の大人の両足を抱えて部屋に連れてってくれるとは……頼もしい子だよ全く。
部屋が狭いのもあるけど至る所に体がぶつかっているが、とりあえずスペースある所まで運んでくれるとは……頼もしい子だな全く。
背面中心の擦り傷と青痣は大目にみようと思う。
「ふー。男の人ってやっぱり重いね」
「ご苦労おかけしたね」
「で?何があったの?」
「あ、聞いてくれる?いやね。帰ってきたらさ、部屋の前に女性の下着が落ちててさ」
「部屋の前に下着?なにそれ?」
「いや俺も何それだったけど、最初ハンカチかと思って手に取ったらそれでさ。ヤバイと思って戻そうとした直後に大家さんと鉢合わせちゃって。怪しまれないようにその場から離脱しようと試みたら事故的に下着を見られてね。しかもそれがまさかの大家さんの物だったらしくて、そのまま渾身の一撃を頂きました」
「パパ。溜まってても人様の物を盗っちゃダメだよ」
「そうなんだよ。つい出来心で……って違うよ?話聞いてた?」
「言ってくれれば私の貸すのに」
「いやーかたじけないね……ってそうじゃないよ?話伝わってますかね?」
「でも大丈夫。たとえパパが刑に服しても私はちゃんと待ってるから」
「果報者だな俺は……ってバッドエンドまでキレイに来ちゃったよ!?わたくしの言分受け取ってもらえてますかね!?」
「ん?パパが切羽詰まって絞り出した珍プレーが大家さんのスイッチを押しちゃったって事?」
聞いてるじゃないっすか……つーかなぜ俺が珍プレーをしたと分かるんだ。エスパーか君は。
……面白がって一部始終見てたわけじゃないよね?そうじゃないよね?信じるよ?
「大家さんに謝りに行く?」
「そうしたいのは山々なんだけど、たぶん取り合ってもらえないだろうな」
「そんなに怒らせちゃったんだ。じゃあどうするの?」
「……どうしよっか……」
そもそも大の字のまま天井に向かって喋ってる奴にどんな説得力があると言うのだろうかね?
自分で言うのもあれだけどこんな体たらく無いよ?動物だったら単なる降伏の姿ですよ。
いや、このままほとぼりが冷めるまでなんてのは流石に思わないよ?だって冷めないもん。見事な下着ハンターの称号が与えられたままなんだもの。遅かれ早かれ再度討伐されるのは容易に想像できるもの。
DEAD or DEAD。
棺に片足どころかもう半身浴してる勢いだねこりゃ。
「んー。捜査でもする?」
「え?捜査?」
「そ。私だってさすがにパパが下着ドロとは思ってないし、要らない不名誉は返上しとかないとね」
「なんて……なんて頼もしい子なんだ」
「当ー然♪パパの身の潔白を証明しましょ」
「うん。でもホント助かる。俺一人ならもう心折れてたから。男で大人だけど泣いてたから」
「泣くときはいつでも私の胸を貸すよ。今貸す?」
「痛み入る気遣いだけど、あらぬ誤解が生まれそうだから涙腺しっかりと閉めるよ」
「遠慮しなくていいのにー」
「また機会があったら前向きに検討させて頂きます……。それで?捜査って言っても具体的に何か案あったりするの?」
「もちろん捜査と言えば鉄板の張・り・込・みだよ!」
なんだろう?妙に雪音ちゃんがウキウキしているというか、嬉々としているとういうのか。
これは、こういうミステリー感が好きなのか、はたまた俺の不運に蜜の味を感じているのか。
うーん……よし。深く考えないようにしよう。
「張り込みか。なにゆえ?」
「楽しそうだから」
「なんですと!?」
「冗談冗談。楽しそうって言うのも半分あるけどちゃんと意図はあるよ」
「半分あるんだ……まぁいいや。それで?どんな?」
「最近この辺りで不審者の噂が出てるでしょ?落ちたて下着がもし盗まれたものとかだったらまだ出没する可能性あるんじゃないかと思うんだよねー」
「え?不審者の噂あるの!?」
「うん。回覧板に載ってたよ?」
「……マジで?」
なんてこった。それ、ちゃんと目通してれば違う結果に繋げれたかもしれないじゃねーの……。
今度からはノールックで回さずちゃんと読みます。
「不審者か。確かにそれならそいつが変質行為をしたっていう線も有力か?」
「でしょ?張り込んで現場押さえて逮捕だよ」
「逮捕って……俺らにどんだけの実力行使が出来るかは分からんけど、まぁ試す価値はありそうだな」
「決まりだね。早速張り込もうか!」
「え?もう張り込むの?まだ夕方のワイドショー真っ盛りの時間帯だけど、さすがに不審者も活動時間じゃないんじゃない?」
「鉄は熱いうちに打てだよ」
「いや、でもさー」
「パパ。相手は不審者だよ?常識の人間じゃないから不審者なんだよ?私たちの物差しで測ったらダメだよ」
「うっ……それは、仰る通りで……」
ぐうの音も出ないほどの正論だった。
ここで不審者の行動心理を掌握出来ちゃったら俺も漏れなくそっち側の人になるじゃないですか。類友でズッ友って事になっちまうじゃねぇですか。
危ない危ない。雪音ちゃんに救われたね。
善良な一市民として行動を起こさねばいけなかったね。
「よし。何時間でも何十時間でも張り込んでやりますとも!」
「それでこそパパ!」
「ところで、どこでどうやって張り込むの?」
「そこは大丈夫。もう呼んでるから」
「え?呼んでる?何を?」
「あ、来たみたい。行こっか」
「ちょっ、雪音ちゃん?」
言われるがまま一緒に部屋出てきたけど、呼んだってなに?なに呼んだの?
ん?なんか向かってる先に黒の乗用車が一台停まってるけど……って、んん!?
なんか見覚えのある顔が見えるんだけど……?
「せ、先生?」
「あ、先日はどうも。その節は色々ご迷惑をおかけしました」
「いや、こちらこそなんですが……なぜここに?」
「紹介します。今回張り込み車を提供して頂けます花井センセーです♪」
「へ?」
「え?」
『えぇ~~~~!?』
先生とふたり、思いもしないハモりですっとんきょうに驚嘆の声を上げてしまった。
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