第2話 飛行機の中の風景

それはまだ、七十年代に社会現象になった、テクノという言葉が生まれる前の時代である。ジルタメイツはそのテクノバンドの先駆けだった。ジルタメイツのメンバーはアメリカ公演行きの飛行機の中に乗っていた。じめじめした雨が飛行機の外を流れていた。


 田山は、アメリカ行きの飛行機の中で、思っていた。「僕は体力もないから、こんな海外公演本当は嫌なんだよね。」席の隣では、先ほどから興奮した様子のドラマーの西崎トリオが、何やら目を輝かせて、ノートに何か記していた。


「トリオ、何書いてるの僕にも見せてよ」

「田山さん、ちょっと待ってください、これはまだ秘密の内緒のことなんです」

「トリオは内緒が多いな、僕眠いよ、出来たら教えてね、内緒でも何でも教えてね」


トリオは出来上がる頃には田山がそれを忘れているだろうと思った。


田山とトリオの席の前の座席では、お互いキーボーディストの凪原涼一と磯崎陽子が談笑していた。何やら凪原はピカソの良さを説いているらしい。もともと、弱視で絵がよく見えない陽子は、凪原にそのことを説明するのだが、凪原は「いや、弱視でもピカソの良さはわかるはずだ」と譲らない。そんな子供っぽい凪原を陽子は面白く思って、結果的に談笑になっているのだ。


「田山さん、ネイティブアメリカンの思想って知ってます?」と突然トリオが田山に聞いた。

「ほら、田山さんは西洋の思想にとらわれない考えを昔から持ってるじゃないですか、それで興味あるかなーと思いまして、これから行くのもアメリカですし。」

「うん、僕もともとヒッピーみたいなもんだし、東洋思想とかにも興味あるしね。インディアンの考えにも関心あるよ」

「田山さん、最近はインディアンじゃなくてネイティブアメリカンっていうんですよ、インディアンてインド人てことでしょ、それ自体西洋の押し付けじゃないですか」

「そうかな?昔はアメリカのテレビドラマでインディアンっていうのが普通だったけどな」

「昔は昔、今は今ですよ。それより、話はネイティブアメリカンの思想ですよ。あ、さっきメモしてたこと知りたいですか?僕内緒にするのが出来ないタチなんですよねー」

「そんなことあったっけ、僕忘れた!」


そのやり取りを見ていた、シンセサイザーマニュピュレーターの岡山太郎とギタリストの針城エイジは大笑いしていた。


そろそろ飛行機はロサンゼルスに到着しようとしていた。


第三話に続く…

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