第8話 はじめてのアガサホテル、ご案内

「さて。どこから案内しようかな。アガサホテルは初めてなんだよな?」

「うん、そうなの。というか楽園島自体もはじめて」

「うーん。そしたら今度時間あるときにでも周りも案内したほうがいいな、お客様から1日に10回は必ず質問があるし…だけどまあ、今日は施設見学っていうことにしておこうか」


というわけで、アガサホテルの施設館内をされることになった。

客室は4階から10階まで。ワンフロアにはだいたい10室程度。各客室ごとにコンセプトがあるのは有名だが、それは清掃のタイミングなどのときにそれぞれ見たほうがいいだろうということで今回はコンセプトの説明については割愛。ちなみに蓮くんが一番気に入ってるのはジム製品が勢ぞろいしたルーム「strong」らしい。蓮くんは一見華奢だが実は脱ぐとすごいのかもしれない。

10階はスイートルームが3室のみ。アガサホテルのスイートルームといえば、上客中の上客しか泊まれないという噂だったが、それは本当のことらしい。セレブのトップクラスや政治家でも一見では泊まることはできない。アガサホテルに何年も通いつめ、ようやく泊まれることができるということらしい。内装はどんなものなのかと聞くと、「王様と、女王様と、王子と姫の部屋」と返ってきた。城だ。

そしてもちろん実際に、常に予約でいっぱいのアガサホテルに何シーズンも泊まれるようなお客様というものは、すべからくただものではない。確かに王族レベルかもしれない。


3階はレストランに貸し出し用の室内ホール。レストランは宿泊者優先だが一般の観光客でも使えるようになっている。ただし宿泊者用の席は確保してあり、一般者向けには席が限られて用意されてるとのこと。クリスマスなどイベント日には争奪戦の席となるらしい。

「でもアガサホテルの食事を食べながらプロポーズなんてされたら美味しさに目がくらんでうなずいちゃいますよね」というと、実際「それを狙ってやってきてるひとも少なくない」らしい。さすが天上の食べ物、アガサホテルの料理である。催眠作用まであるというのか。

室内ホールは主に一流企業などがセレモニーなどに使われるとのこと。ただ予約は1年前から決まっているし、部屋が取れるわけではないから利用はしても他のホテルに宿泊するらしい。が、それでもアガサホテルで催しを行うことがステータスのひとつになるため、各企業とも躍起になって予約を入れようとする。気持ちはわかる。もしあたしも新卒で会社にはいってアガサホテルで歓迎会なんてされたら一生の自慢にするだろう。


2階もホール会場だが、基本的にはブライダル用である。土日の人気はすさまじくこちらは2年前から予約しないととれないらしい。が、やはりあのアガサホテルで結婚式を!と燃える人たちはいるらしく、平日でもかまわずほぼ一年間通しで満員予約らしい。6月の密度はウェディング担当がバックで白目をむくほど忙しいらしい。いまは4月なので、あと2ヶ月したらその姿を拝むことになるのか。南無。ちなみにコンシェルジュも案内などでもちろん関わるとのこと。ということはあたしも白目をむくことになるのか。なんと。あたし南無。

ちなみに中のホールから美しい白亜の階段を使用し、屋外の中庭に抜けられるようになっていて、アガサホテルのパステルカラーの建物と、1年中咲く用に品質改良された種々のバラ園をバックに写真を撮ると、一生幸せでいられるというジンクスがあるらしい。男っけのないあたしとは確実に無縁のジンクスだ。


1階にはレストランヴュッフェ、カフェバー、館内ショッピングセンターと普通のホテルと同じような中身だが、屋内・屋外ともにップールが設置されている。特に屋外プールはそのままホテルのプライベートビーチまでいけるようなつくりになっていて、贅沢に遊べる仕様だ。プライベートビーチはエメラルドグリーンの海の色と、白い砂浜を少ない宿泊者しか利用できないようになっているため、それこそ楽園を独り占めしたような気持ちになるだろう。

地下1階はバーとミニカジノだ。楽園島ではトーキョー島内区域と違い、ギャンブルも可能となっている。もちろん娯楽街へいけばホテルより大きなカジノはあるが、アガサホテルは昔ながらのトランプやルーレットを使ったゲームのほか、ボードゲームなど賭博性に富んだものというよりも牧歌的で紳士的な娯楽性を追求している。

現代的だがクラシックさを大事にしているホテル。それが誰もが憧れるアガサホテルなのである。

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