第32話 面会

 ネットで調べると逮捕から四日経つと面会ができるみたいだ。

 俺と哀來は柏野さんに早く会いたい一心で四日目の午前中に留置所に向かった。

 看守に案内されて面会室に入り、しばらくすると容疑者側の方から柏野さんが出てきた。

「柏野!」

 哀來は一番先に柏野さんに話しかけに行った。

「お嬢様……本当に申し訳ございません」

「どうして……どうして!」

「君! 落ち着きなさい!」

 俺達側の看守がアクリル仕切りにしがみつく哀來を止めに行った。

 本人を目の前にして声を荒げない訳にはいかないだろう。

 俺は落ち着いているが気持ちは哀來と同じだ。

「柏野さん、お久しぶりです。……全部話してくれませんか」

 柏野さんは少しうつむいた後、顔を上げた。

「はい。すべてお話します」

 柏野さんの言葉に哀來は落ち着き、止めに入った看守も離れた。

 俺と哀來は用意された二つのパイプ椅子に座った。

「私は大光様を拳銃で狙撃しました。使った拳銃は大光様が密かに密輸していた物です」

「そんな! そんな事、聞いていないわ!」

「お嬢様は知らなくて当然です。屋敷内でも知っていたのは大光様と私だけでしたから」

 大光の奴、銃の密輸もやっていたのかよ。本当にロクな事していないな。

「拳銃なんて触った事すらなかったのですから。狙いは少し外れましたけど」

 それでもちょっと当たった、って事だよな。

 すごいな。褒めたら駄目だけど。

「これで私の復讐は終わった、と思いました。しかし心は満たされませんでした」

「それで俺に復讐計画を持ち掛けたんですか?」

「はい。本来は小夜様が直接手を出す前に片付けておきたかったのです。もし手を出されてしまうと私だけでなく小夜様も逮捕されてしまいますから」

「柏野さん。そこまで俺の事を思ってくれていたなんて……ありがとうございます!」

「彩彦様と色素様の願いを叶える為に当然の事をしたまでです」

 感動した!

「小夜様と一緒に計画を立てて完成した時は『これなら成功するだろう!』と思いました。そして式当日、お嬢様と小夜様が車にご乗車になられて『計画は成功した!』と、とても嬉しく思いました」

 柏野さんは初めて俺に笑顔を見せてくれた。

 約一ヶ月間、寝る間を惜しんで考えた日もあったくらいだからな。

 俺も車に乗り込んだ時、今までの疲れがいっきにきたからな。

「柏野、小夜様。わたくしを自由にしてくれて本当にありがとうございました」

「お嬢様の願いなら何でも叶えて差し上げます」

「でも『自由にして』なんて願い頼んだかしら?」

「お嬢様が大光様に対して隠れて愚痴を呟いておられていたのは知っていましたから」

「柏野ったら聞いていたの!?」

「はい。何度も」

「柏野ったら!」

 さっきまでショックな顔だった哀來も笑顔になった。

 まるで屋敷にいたときの様な雰囲気だ。

「ところで裁判はいつなの? そこで柏野の刑が決まって、それが終わるとまた一緒に暮らせるのよね」

「はい。捜査はまだ続きますし、裁判も長くかかるので今年中に決まるのは難しいかと」

 来年か、遠いな。約一年なのにまるで三年も五年も先に感じる。

「かなりかかるのね。捜査も裁判も」

「はい。わたくしより前から裁判の順番を待ってる方もいらっしゃいますから」

 そうか。裁判所にも数があって一気にできる訳じゃないからな。

「もしかしたらお嬢様と小夜様は裁判で証言台に立たされるかもしれません」

「俺達がですか!?」

「小夜様よりわたくしの方が立たされる可能性が高いですよ」

 哀來、辛いだろうな。

 裁判なんて見たことないけど、会った事も無い人達の前で洗いざらい言わなくちゃいけないからな。

「お嬢様、小夜様。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「いいえ、柏野さんが逮捕されてから俺達決めたんです。柏野さんの裁判は傍聴できる裁判なら全部傍聴しよう、って」

「柏野は悪い人じゃないもの。柏野の事を聞かれたってちゃんと答えられるわ」

「お嬢様……そうおっしゃってくれて感激です」

 柏野さんの泣いている姿、初めて見た。

「柏野泣かないで。わたくしも出来る限り貴方の刑を軽くするように努めるわ」

「俺も協力します!」

 柏野さんには沢山世話になった。その恩を返さないと!

「お嬢様、小夜様。あなた方に出会えて私は幸せです」

「柏野さん。それは俺達も同じです」

「私のおかげ?」

「ええ。わたくしがこうして小夜様と一緒に朱雀家で幸せに暮らしているのも柏野のおかげよ」

 哀來の言う通りだ。

 柏野さんの協力が無かったら俺は今頃何をしているかわからない。

 でも、今ほど幸せになっていないのは想像できる。

「そうおっしゃっていただけるとは……お嬢様の執事になった私は本当に幸せ者です」

「そろそろ時間だ」

 看守が空気を読まずに冷静な声で知らせてきた。

「柏野、また明日来ていい?」

「俺も来ます!」

「ありがとうございます。いつでもお待ちしております」

 こうして久しぶりに会った柏野さんとの面会は終わった。

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