第29話 復讐終了

「ごめんなさい小夜様。取り乱してしまって」

「仕方ないですよ」

「これでわたくしは燕家の人間ではありません。この結婚も破談ですね」

 笑顔で話している。解放されて嬉しいみたいだ。

「でもどうしましょう。行く所がありません……」

 寂しそうにする哀來を見て、俺は思いついた。

「……実は、親父と彩彦さんはある事を決めていたんです」

「お父様が?」

「はい。その夢、叶えてみませんか? 二人の為にも」

「できるなら叶えたいです! 一つ聞いていいですか……」

 哀來がモジモジしながら聞いてきた。 

「それは……小夜様と一緒にやるのですか?」

「はい」

「でしたらやります! 何でもします!」

「そんなに俺がいいんですか?」

「はい……愛していますから」

 顔を赤くして哀來は答えた。

「だったら今教えて上げますよ」

 俺は哀來の体を両手で強引に引っ張って俺に近づけた。

「!! ……」

「……」

 勢いよくキスした。

 哀來は最初は驚いていたが、目を瞑って受け入れてくれた。

「俺の家に来てくれ。そしていつか……結婚してくれ!」

「はい!」

 哀來は今まで見た中で一番デレた顔になった。

 スゲェ可愛い! ずっと見ていたい!

 だがそんな時間は無いので、俺は哀來の右手を掴んだ。

「行くぞ! 哀來!」

「はい! どこまでもついて行きます!」

 ウエディングドレスで階段を降りる哀來に手を貸しながら急いで出演者用の出口へ向かった。

「……やっと着いた」

「あの車は……柏野?」

 ドアを開けると黒のハイヤーの様な高級車があり、運転席に座っていた柏野さんが降りた。

 良かった。打ち合わせ通り待っていてくれた。

「お嬢様、小夜様。どうぞお乗りください」

 柏野さんが後部席のドアを開けた。

 哀來が乗った後に俺が乗ると、柏野さんはドアを閉めて運転席に戻り、車を出発させた。

 窓から会場の入り口を沢山の警察達が包囲している様子が見えた。


 これで……これで俺の復讐が終わったんだ。

 無計画で始まった復讐。

 何が起こるかわからなかった復讐生活。

 このような結果で終わるとは当然、思いもしなかった。

 『復讐』というのは悲しい結末で終わるのがほとんどだ。殺人に対しての復讐なんて特にそうだ。

 万が一のときの事も考えていたが、それは杞憂だった。

 仇が逮捕される、という良い方法で成功して本当に良かった。

「お嬢様。申し訳ありません」

「いいの柏野。あの男から解放されただけでも嬉しいわ」

 哀來は安堵の溜息をついた。

「これでわたくしは自由なのね」

「はい。もう燕家の事は考えなくても良いのです」

 ミラーから柏野さんの笑顔が見えた。

「ねぇ、これから小夜様の家で暮らすのだけど柏野も一緒に暮らさない? これからも柏野が必要なの」

「それはいい! 柏野さんがいれば心強いです!」


「いえ、それはできません。お嬢様は小夜様とお幸せになってください」

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