第28話 もう一つの真実
「皆様よく聞いてください。今から話す事は本当の事です」
俺の声がマイク越しで響く。
「実は……哀來さんは燕大光の本当の子ではないのです」
「えぇ!? 小夜様! 何を言い出すのですか!?」
俺はとっさにマイクを後ろに隠したので哀來の声はマイクに入らなかった。
下の会場からすごいざわめきが聞こえている。
「おい誰だ! そんなデタラメを言う奴は!」
この大声は……。
「大光様、私はもう限界です。警察には全て伝えました」
柏野さんはマイク越しで大光をなだめた。
「燕大光さん。アンタは自分の娘……いや、姪をいつまで騙し続けるのですか?」
「め、姪って、どういうことですか!」
哀來の顔が青ざめてきた。
「哀來さん。今からあなたにとってとてもショックな事を言います。よろしいですね?」
「どうして……どうしてそんな事をするのですか! せっかくの結婚式なのに……」
「……」
泣いていない。
おそらくあまりのショックで涙すら流せないのだろう。俺の勝手な考えだけど。
「それは……許せないからですよ」
俺はマイク越しで大光にも聞こえるように言い放った。
「哀來と俺の父親を殺害した燕大光をね!」
「え……小夜様のお父様?」
「はい。燕大光は俺の父親、朱雀色素を殺しました」
大光にも聞こえるようにマイク越しで話した。
「そんな……」
哀來は涙を流し始めた。
「朱雀! 親子揃って目障りな奴だ!」
マイク越しで大光の叫び声が響いている。
「その言い方だと認める、という事ですね」
「……そうだ。彩彦と朱雀色素は私が殺した」
認めたか。
会場がさっきよりザワつき始めた。
「『面倒だから』という理由で社長の座を嫌々引き受けた挙句、人の妻を勝手に妊娠させた! 縁を切らせると今度はデザイナーの立場を使ってやって来た!」
当然だ。自分の娘を置いて出て行くわけない。
「三人で逃げ出すつもりだったみたいだが、逃げ出した日に見つけて連れ戻した」
「……その場で殺したのか?」
「ああ、銃でな。ショックで寝込んだ妻は、うわ言で『彩彦』『彩彦』と何度も呼び続ける。『そんなに会いたいのか』と聞いたら『会いたい』と答えてな……夫として叶えさせてやった」
「……まさか!」
「そうだ! 奴と同じく銃殺した!」
コイツは三人も銃殺したのか!
「そんな! 奥様は病死したのではないのですか!?」
柏野さんがマイク越しで叫んだ。
「医者を買収して知らせた。私が殺した事にしない為にな」
「なんて事を! 貴方の奥様でしょ!」
柏野さんの言う通りだ。
夫のする事じゃない!
「独身のお前はわからなくていい」
「お父……いえ叔父様」
「哀來」
哀來は俺が持っているマイクに顔を近づけて大光に話しかけた。
「哀來か」
「はい」
「さっきの話を聞いていただろ。お前の両親は私を裏切っていった」
「……そう、みたいですね」
哀來は静かに答えている。
俺はマイクを哀來に渡した。
「本当だ! 奴らは私を裏切った! 人の恩を仇で返した最低な奴らだ!」
「……貴方の話を聞いてようやくわかりました」
「何?」
大光が大人しくなった。
「お母様が生きいておられた時、わたくしと話している時はとても嬉しそうでした。しかし貴方が帰ってくるとすごく嫌そうな顔をなさっておりました」
「知っていたさ。知らなかったのはお前だけだ」
「……貴方はお母様から愛されなくて寂しくなかったのですか? 自分から『愛そう』とは思わなかったのですか」
「『愛する』? なぜ?」
「ではどうしてお母様を妻にしたのですか!?」
「天下の燕家がそこらの地位の無い女と結婚する訳がないだろ。奴は名家の娘で美人だ。燕家、会社の顔でもある私を華やかにさせる」
「……やっとわかりました」
哀來は一度、マイクから離れた。
「貴方はお母様を『自分と身の回りを華やかにさせる道具』としか見ていなかったのですね!」
「そうだ。道具に愛を捧げるバカはいないからな」
……コイツは『愛する心』を持っていないんだな。
だから道具も人も愛せない。
「そして哀來! お前も私を華やかにさせる道具だ! 道具の娘は道具だ! これかからもずっと燕家を華やかにさせる道具だ!」
「わたくしは燕家や貴方の道具ではありません!」
「じゃあ出て行け! お前はもう燕家の人間ではない。失せろ!」
「……わかりました」
哀來はマイクを俺に渡した。
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