第18話 不安な夜の始まり
「小夜様! 怖かったですー!」
「哀來さん! 濡れますよ!」
扉を開けると、びしょ濡れで帰ってきた俺に向かって哀來は一目散に駆け寄って抱きついてきた。
またあの柔らかい感触が襲ってきた。俺の服が濡れてるから前とは少し違うけど。
「お帰りなさいませ青龍先生」
「柏野さん。ただいま帰りました」
「哀來様はずっとここでお待ちしておりました。よほど先生が恋しかったのでしょう」
電話してからって事は……三十分以上も待っていたのかよ。
「小夜様、わたくしはとても怖かったです。柏野とずっと一緒にいましたが……やっぱり貴方がいないと安心して夜も眠れない」
「そんな大袈裟な……」
哀來の両手が俺の頬にあててきた。
「キスしてもいいですか?」
「何でそうなるんですか!?」
誰が仇の娘と! 絶対するか!
「お互いの無事を確かめ合うためです!」
「こうやって抱きつくだけで十分だと思いますが」
「まだです! キスをしてこそお互いの愛と無事を確かめ合うんです!」
愛が優先かよ!
「とにかく、何があったのか詳しく聞かせてください」
「わかりました」
柏野さんは詳しく説明してくれた。
燕大光は社交ダンスの先生と話をするために執事が運手している車で向かっている途中で狙撃された。
執事の方は怪我がないが主人を守れなかったショックで気を失い、屋敷の医務室で休んでいる。狙撃された大光さんは病院に運ばれた。
犯人は不明。当時、屋敷の関係者で外にいた人物はいなかったため、侵入者の痕跡を現在捜索中。
「屋敷の中は調べないんですか?」
「はい。なんせ外での犯行ですから」
「そうですか」
狙撃って事は銃、なんだよな。
親父も彩彦さんも銃で殺された。
「お父様……どうして……」
哀來は産みの父親と思っているからな。ショックは大きい。
「小夜様、今日はずっとわたくしと一緒にいてください。とっても怖いです」
「私からもお願いします。どうかお嬢様を安心させてください」
「……わかりました」
父親が銃で狙われた怖さを俺も知っているからからか、断れない気持ちになった。
俺は哀來を連れて二階へ続く階段を上った。
「シャワー浴びて着替えたいんですけどいいですか?」
「はい。では小夜様のお部屋に行きましょう」
二人で俺の部屋に向かって歩いた。
部屋に入るとすぐに着替えが入っているタンスの中から下着から服までの一式を取り出した。
「シャワーを浴びるという事は、わたくしを一人にするのですか?」
そうか。そういう事になるんだよな。
「そんな事ありませんよね! 一緒にシャワーを……」
「扉の前で待っててください」
哀來どこか寂しそうな目をした。
「どうして一緒に浴びせてくれないのですか?」
「異性だからです」
答えなくてもわかるだろ。
「いづれ夫婦になるのですからその為の練習として一緒に入りましょう!」
「結構です」
「それから二人きりのときは丁寧語でお話せず、わたくしのことは『哀來』と呼んで下さい」
「無理です」
「うぅ……そんなキッパリと断らなくても……」
哀來がしょんぼりとした隙に俺は洗面所に入った。
着ているもの全て脱ぎ、風呂場に入って扉を閉めて鍵をかけた。
すると扉に黒い人影が現れた。
「哀來さんですか?」
「はい、ここで待っています。一秒でも長く小夜様と一緒にいたいですから」
それならいい。
俺はシャワーを手に取って浴び始めた。
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