第17話 美人秘書の証言

「聞きたいことって何かな?」

「事件の日に来た人は一人だけだったんですか?」

「ええ。サングラスをかけていたから声と背丈からして男の人だな、って事しかわからなかったわ」

「その人もしかして燕舞の人じゃないですか?」

 なんだか探偵みたいだな俺。

「燕舞の人だったら担当者がいるわ。今まで3人ほど訪れていたから」

 三人か。だったら覚えやすいな。

「『朱雀先生とお話がしたい』と受付から私に連絡があって、すぐに入り口まで駆けつけてその人を案内したの。案内しているときに『どちら様ですか』って聞いたら『以前、先生にお世話になった者です』って言っていたの」

 『世話になった人』か。親父は二十年近くデザイナーをやっているからな、そういう人は多い。

「先生の部屋の中まで案内したら先生が私に『部屋から出て欲しい』って言われて出て行ったの」

「そういう事ってあるんですか?」

「ええ、たまにだけど。だから違和感を覚えたりはしなかったわ」

 そこを狙われたか。

「案内が終わったから隣の部屋で仕事をしたの。しばらくしたら先生の部屋から大きな音がして、部屋のドアを開けたら……」

 架谷崎さんは言葉を詰まらせた。どうやらそこで事件が発覚したようだ。

「大きな音は銃声だった、ということですか?」

「ええ。初めて聞いたから最初はわからなかったわ」

 日本じゃ聞きなれない音だからからな。

「犯人は部屋にはいなかったんですか?」

「そうなのよ! 閉まっていた窓が開いていたからそこから逃げ出したと真っ先に思ったの。だから指紋が残っていないか調べてもらったけど見つからなかったわ」

「事務所は一階しかありませんからね。逃げるのも簡単だったのでしょう」

 しかし気になる事がある。

「どうして世話になった人が親父を殺さなくちゃいけないんでしょう。もしかして嘘だったとか」

「それも考えられたけどどうやら可能性は低いみたい。簡単に自分の部屋に入らせたのだから」

 それもそうか。自分から知らない人と二人きりになんてならない。

「やっぱり親父が知っている人ですか?」

「ええ。よほど大切なお客さんだった、って思ったわ」

「どうしてですか?」

「先生が私に『部屋を出て欲しい』と頼むときは先生にとって大切なお客様だから」

「そうですか」

 よほど大切な客だったという事はわかった。

 だったら余計に親父を殺した動機がわからなくなってきた。

 ……一体何のために?

 ピリリリリリリリリリリリリ

 俺の思考を遮るかのように突然、携帯が鳴り出した。

「すみません」

「かまわないわよ」

 架谷崎さんに一言言って、バックからスマホを取り出して見た。

 哀來か。迷惑な奴だな。

 『電話に出る』をタッチして耳にあてた。

「もしもし?」

『うぅ……小夜様助けてください……怖いです……』

「怖い? 泣いたりしてどうしたんですか?」

『お父様が……家に着いた途端……何者かに狙撃されて……』

「な!?」

 狙撃された!? 哀來の父親……正確には叔父が!

「か、柏野さんは?」

『一緒にいます……早く帰ってきてください……』

「そんな危険な状態じゃ帰りたくありませんよ!」

『青龍先生どうかお帰りになってください。警備は万全ですので安心して帰ってきてください』

 通話の相手が柏野さんになった。

「柏野さん……わかりました。今すぐ帰ります」

 通話を切ってスマホをバックの中に入れた。

「柏野さん? 今、柏野さんって言ったよね?」

「はい。そうですが、どうかしました?」

 どうしたんだ? いきなり柏野さんの事を聞いて。

「その……何だか聞いた事があるような名前だったから」

「そうですか。すみません、急用が入ったので今日は失礼します」

「そう、残念だわ。そうだ! 何か聞きたいことがあったら私に連絡して」

「わかりました。今日はありがとうございました」

 架谷崎さんにさよならを言ってバス停に向かった。

 バスに乗ってしばらくすると雨が降ってきた。

 傘を忘れた事よりも燕家で起こった事件の方が気がかりでたまらなかった。

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