第19話 扉越しの会話

 まずは体から洗い始めることにした。

「小夜様」

「はい?」

「小夜様は女性の裸に興味が無いのですか?」

 ……断られたことまだ気にしていたのか。

「無い、と言えば嘘になります」

「男性の性欲はどれくらいなのですか?」

「……食欲並と聞いたことがありますが、ってなんでそんな事聞くんですか!?」

「もちろん、これから小夜様とお付き合いするのに必要な知識ですから」

 本当にやめてくれ。

「認めた覚えはありませんよ」

「認められるように頑張ります!」

 またしつこく攻めてくるのか。美女でもさすがにうんざりする。

「もしかして小夜様の恋愛対象は女性ではなく男性なのですか?」

「違いますよ! ゲイじゃありませんから!」

 これは必死に弁解した!

「それではわたくしにもチャンスがありますね!」

 さすがに嘘でも言っておくべきだったか? 

 いや、それは俺のプライドが許さない。

「話を戻しますね。男性は誰でも性欲が食欲並なのですか?」

 やっぱり気になるのか?

「人によりますけど大抵はそうですよ」

「そうなのですか!? ではわたくしが抱きついたときもドキドキしたりしませんでした?」

「……本当の事を言ってもいいのですか?」

「はい。小夜様の気持ち、知りたいです」

 別に俺じゃなくても……そうか。惚れた男の気持ちは知りたいか。

 そう思うと気分が良くなってきた。

「……しましたよ。女性に抱きつかれたのは初めてだったので」

「嬉しいです!」

「ただ、『哀來さんに抱きつかれたから』というわけではないです」

「そうですか……」

 声に元気が無くなった。

「小夜様はとても素敵な男性なのにどうして女性に抱きつかれた事が無いのですか?」

「……好きになってくれた女性がいなかったからですよ」

 言うのも腹が立つ。

「他の女性は見る目がないのですね」

「そうですか? 今まで告った人は全員、学校でモテている男が好きな人でしたよ」

 自分で言うのもうんざりする。

「うーん。それだと厳しいですね」

 こいつにわかるのか? 俺のこの虚しい気持が。

「わたくしも去年、好きな人に告白しましたが振られてしまいました」

 嘘だろ!?

「哀來さんが振られたんですか?」

「はい。初めての恋でしたが見事に振られてしまいました」

 初恋は大抵振られて終わるからな。

「告白した方からは『おとなしい人より元気な人が好きだから』と言われました。告白した後その人は人気があって明るい人と付き合っている、という話を耳にしました」

 それで俺の気持ちがわかるような事を言ったのか。

「やっぱり小夜様も含めて男の人は元気で明るい女の子が好きなのですよね! わたくしみたいなおとなしいのは好みではないですよね!」

 声を少し高くして言っている。

 納得しようと自分に言い聞かせているのか?

「ごめんなさい小夜様。わたくし思い違いしていました。今まで優しく接してくださったのは先生という立場からですよね。それなのに勝手に恋人みたいに思ってしまって、ごめんなさい」

「い、いいえ。気にしていませんから」

「それに今日はあまり楽しくしてはいけない日なのに。小夜様と話していたらつい……」

 そうだった、すっかり忘れてた。

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