第11話 変人、再び
「マイスウィートハニー! その男はさっき一緒にいた奴じゃないか! どうしてそんな庶民と!」
「
「はじめまして。燕哀來です」
柏野さんが紹介すると哀來は綾峰という男に挨拶した。
が、また俺に抱き、同時に軟らかい感触も再び襲ってきた。
……悪くないな、これも。
「ちょ、哀來さん!」
「くっ……」
綾峰さんは結構傷ついている。
俺も礼儀として挨拶しようと思った。
「はじめまして。青龍小夜です」
「ふん! 哀來ちゃんに気に入られているからって調子に乗るなよ。クソ餓鬼」
クソ餓鬼? 確かにアンタは俺より年上みたいだが。
男にしては前髪が多く、金髪なのでチャラく見える。
服装は紫色のワイシャツの上に白のスーツジャケットとスーツズボン、先が尖がった白いローファーを履いている。
まるでホストだ。
「もしかして、さっき四期劇場の前で歌っていた人ですか?」
「そうだ! 哀來ちゃんは四期劇場にいるという使用人からの通報を受けて真っ直ぐ飛んできた。執事と一緒にいるかと思ったらお前がいた! 一体お前は哀來ちゃんの何だというのだ」
「未来のお婿さんです」
「哀來さん!」
俺が答える前に哀來が勝手な事を言ってきた。
「な、何だと! 僕以外の婚約者がいるなんて聞いていないぞ!」
「家庭教師です!」
俺は必死になって答えた。
「家庭教師? ああ、そういえば最近音楽の先生を雇ったっていう話を聞いたな。もしかして劇場に行ったのも授業の一環で?」
「はい」
「そうだったのか。デートかと思ってショックを隠せなかったから思わず歌ってしまったよ。哀來ちゃんはミュージカルが好きかと思ってね。歌で伝えるなんて僕の人生二十五年間で初めてだったよ。結局失敗したけど」
あんな歌大勢の前で歌うな! いい大人が!
「綾峰様。今日はどういったご用件で?」
「その男について詳しく聞きたかっただけだ。家庭教師だと聞いて安心したよ」
こんな変人に目をつけられるのはこれから先あってほしくない。
「僕の未来の妻が他の男と遊んでいるかと思ったらいてもたってもいられないからね。かわりに新事実がわかったけど」
当の哀來は綾峰さんの事なんて文字通り、眼中に無いみたいだ。
「いままでの女の子はどんな男といても僕を見た途端に離れていくのに……。こんな屈辱も人生初だ……」
綾峰さんはさらに落ち込んでしまった。
「どうしてだい哀來ちゃん! 僕のどこがいけないというのだい?」
すると哀來は顔だけ綾峰さんの方を向いた。
哀來が綾峰さんを気に入らない理由か……なんとなくわかるな。
「……わたくしは大勢の人の前であんな恥ずかしい歌を歌うような目立ちたがり屋の人は嫌いです」
やっぱりな。
マイスウィートハニーから『嫌い』とはっきり言われた綾峰さんは石のように固まって倒れてしまった。
「綾峰様! お気を確かに!」
綾峰さんは目を瞑ったまましゃべらない。気絶をしてしまったようだ。
柏野さんはすぐに介抱し、両腕を担いでどこかへ運んで行ってしまった。
俺はその一部始終を美女に抱きつかれながら、ただただ黙って見ていた。
最低だな俺。
柏野さんに「倒れている人よりも美女に抱きつかれている状況が大事な人」って思われただろうな。まぁ、別にいいけど。
相変わらず哀來は離れる気配は無い。
なんせ俺の体に頬ずりなんてしてきたからだ!
これは……間違いない。
「今日から甘えてもいいですか? マイスウィートダーリン!」
はぁ……。
俺の復讐計画はいつの間にか明後日の方向に進んでいた。
本当にどうなってしまうんだコレ。
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