2-2.人狼事件
――り、…ル…。――……カ…。
遠くから誰かの声。
深く、深く、深く眠る。
聞えず、聞える。分からず、分かる。底冷えの腸に静まり返るオレ、俺。
――リカ…ド。
近くなる。光差し、濃くなる影。
腕を掴まれた。引き上げられるように浮上。
――リカルド!
耳元に響いた俺の名前。
――目覚め。
●
瞼を開くと、目の前には兄が居た。
顔面を蒼白にして、俺を見る兄、ユリアン・クラレッド。俺はその光景を前にも見た気がする。あの時も――。
俺は寒さで身震いした。見渡すと、俺はあの中庭に居たのだ。バリア・ダットネルと会話をしたあの――。
中庭にいることを認識すると同時に、俺の周りに人が集ってきていたことにも気付いた。
兄、カート、級友たち。そしてあのジョンの姿も見て取れた。皆が俺を見て、顔をこわばらせている。
過去の回想のようで、俺は顔を顰めた。まんま、あの時と同じだ。
俺が呆けていると、兄は声を震わせながら言った。
「お前が、やったのか……?」
その言葉に、俺は疑問符を浮かべる。「なにを?」俺は呟いた。
兄は首を振る。震える声を確かにして、兄ははっきりと俺に言ったのだ。
「お前が、バリアを、バリアを殺したのか?」
人だかりが割れた。男のすすり泣き声。その先に居たのは、シルド・ダットネルと、頭から血を流して倒れているバリア・ダットネルだった。
その光景を見た瞬間、意識ははっきりとした。
「違う。兄さん、俺じゃない!」そう言って俺は兄の肩を揺すろうと両手を前に差し出すと、その手が血で汚れていることを知ってしまった。
俺の両手は血に染まり、見ると礼服の上にも赤黒い血は見て取れた。
「お前が、バリアの上に覆いかぶさるようにして倒れているのをシルドが見つけたんだ。その後、カートも来て、お前をどかすのを手伝った」
俺の耳には兄の話は聞えてこない。ただ、真っ赤な両手を眺めていた。
「お前が、お前がやったのか……?」兄は言った。
記憶に無い。嘗てもそうだった。だから俺の頭で自問が頭を駆け巡る。
これは俺の両手なのか? 俺の意思で動くことの出来る両手なのか? 俺は一体何者だ。
ヒソヒソとされる話声。その言葉端が俺の耳に微かに届いた。
――人狼。
俺は人狼なのか? 綺麗に赤に染まる両手を眺めて、俺は――。
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