第11話 姉弟仲

 ねえねえ、猗綺子さん!


「どうしたの、美弦くん。また嬉しそうだね。お気に入りのオレンジペコーでも新しく開けたの?」


 違いますよ。

 僕にまた、話題募集のご応募が届いたんです。


「えっ、すごい! 前回のご依頼からそんなに経ってないのに?」


 しかも、猗綺子さんがへばっていたから、もっとずっと前にいただいていたんですよ! 


「うわぁあ、申し訳ないことでございます。大変すみません!」


 はい。

 雛葵さまからのご依頼です。

「雛葵さま、ありがとうございます。とてもとても嬉しいです! 美弦ともども、精一杯お答えさせていただきます」


 じゃあ、今回のご依頼内容ですね。

「美弦くんは綺音ちゃんのことをどう思っているのか……」


 ううん。改めて訊かれると、なんだろう。ぱっと思いつきません。

「そんなもんかもよ、きょーだいって」

 うん……可愛くて大事な姉です。ちょっとお間抜けなところが放っておけないんですよね。我儘ですけど、僕のことはそれなりに尊重してくれます。


「けっこう我儘だよね」

 そうですね。自分のやりたいことには忠実です。

「巻き込まれること、多いんだ?」

 ああ……音楽が関わると、僕も駆り出されますね。それも、事前にお願いされるんじゃなくて、突然に言われることばかりなのは困っちゃいますけど。


「あの、朝の伴奏ね。前日に決めていたなら、早めにお願いされたいよね。奏くんも、一言、言ってくれればいいのに」

 まあ、珍しくもないですよ。奏は綺音に逆らえないですから。

「逆らえないんだ……」


 結局は、僕も逆らえないんですけど。

「えー、なんで、なんで?」

 言い出したら聞かなくて。

 それこそ、断れば、「なんでー?」の嵐ですよ。

「……大変だね」


 そう思ってくれます?

「思うよー。でも、綺音って、なんか憎めないね」

 ええ、まあ。

 我儘ですけど、望みどおりにしてあげると、すっごく喜ぶので。

「可愛いと思っちゃうんだ?」

 そうですね。

「姉なのにね」

 そうなんですよね。

 普通、女の子のほうが精神年齢が高いっていうじゃないですか。実際の年齢も上なのに、あんまり年上に思えないんですよね。無邪気で。

「それは美弦くんが老成してるからじゃないの?」

 そうですか?

「だって小学生らしくないよ。“老成”の意味も解るなんて」

 えへぇっ。

「笑って誤魔化してるけど、きみは本当は幾つなんだ」

 やだなぁ。小学6年生ですって。

「……怪しい」

 創作家がそれを言っちゃ、いけませんよ。

「それはそうだけどさ。ときどき私は心配になるよ。読者さまがたに、ちゃんと血の通った人間として読みとっていただけているだろうかと」

 猗綺子さん……。自信がないんですね。

「まあね」


 話がそれましたけど。

「そうだね」

 つまりは、姉ですけど妹みたいなものです。

「言いきったな。それ、綺音の前で言えるかな?」

 言えますよ。というか、言ったことありますよ。

「そうなの? 綺音、なんだって?」

 『美弦、容赦ないー。でも、頼りにしてるよ♡』

だそうです。

「そりゃまあ……頑張ってくれたまへ」

 他人事みたいに言ってますけど、一番頑張らないといけないのは猗綺子さんですからね?

「うっ……」

 早く書き進めてくださいね。


「ええっと……うん。そういえば、きみたち2人は誘拐されかけたことがあるんだよねー、別々に」

 あれ?

 猗綺子さん、いいんですか、それ言っちゃって。

「うん、本編で出そうと思ってたけど、いつになるか分からないから。もーいいやって」

 そうなんです。僕も綺音も、危うく誘拐されかけました。

 僕なんか、家でですよ。怖かったです。

「だから、綺音は家の中ではレッスン以外で美弦から目を離さないようにしてるんだよね。本当は同じ部屋で過ごしたいと思っているみたいだよ。そういうところはお姉さんだね」

 心配しすぎですよ。

 もう、そんなに小さくもないし、それに、あれは侵入者じゃなかったし。ここまでは、言ってもいいですか。

「いいよー」

 綺音は僕のこと、まだまだ弱いと思ってるんです。でも、僕だって、努力してますよ。

「ほう。どんな?」


 筋トレしてます!


(そんな、きらきら言われると……)


 本当は、中学生になったら、僕は柔道部に入りたいんです。そうしたら、綺音のことも守れるでしょう? でも、綺音は猛反対してます。

「そりゃあ、そうだろうね。柔道だったら突き指なんて日常茶飯事になるだろうし、ピアノのことを考えれば」

 いえ、そうじゃなくて。

 僕がムキムキになるのが厭なんだそうです。僕には筋肉は最低限でいいんですって。

「……。」

 どういう意味でしょうね?

「どーいう意味だろーねー?」

 えっ。何か解るんですか、猗綺子さん。

「イヤ、わっかんないなー」

 怪しいです。

 何か知ってそうです。

 何ですか?

「いやいや、よくは解らないよ。ただ、筋肉ムキムキの美弦くんを想い描いたら、キモチ悪くなっちゃって。ホラ、仔猫の身体がゴリラだったらイヤでしょ?」

 僕って仔猫のように見えるんですか……。

「あの、それは譬えだから!」

 筋トレが足りないんだ……。

「美弦くん?」


 筋トレしてくるっ!


「ええっ、おい、おーい、おおーいい……行っちゃった。

 申し訳ないです、雛葵さま、皆さま。これにて今回は失礼いたします」


 


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