第9話 異国のおもひで
はあぁあ。ひまわりさん、お留守だったみたい……。
「ええっ、そうなの? 残念……」
でも、ギフトはマンマに手配してもらったよ。
ちゃんと届くかなぁ。
「……うん。届くといいね。ほんとにね」
──次のご質問は?
「思い出深い街とか、旅のエピソードだって」
思い出深い……。
ロンドンは楽しかったなぁ。
紅茶がいっぱいあって、二階建てバスの乗ってみた視点の高さがすごくて、料理がまずくて。
「あはは。やっぱり?」
味が薄いんですよね。皆、自分で好みにお塩を振ったりソースをかけたりするから。親切と言えば親切なんでしょうけど……味覚が幅広すぎて、ついていけません。
ドイツのどこだっけ。
……バンベルクだったかなぁ。パーパの仕事についていったときなんだけど。
「ふんふん」
毎時間に一回、凄い教会は15分ごとに鐘を鳴らしてくれましてね。夜中も。
「夜中も!?」
僕たち、全然、眠れませんでした。
パーパはそこでは何度目かのお仕事だったらしいので、ぐっすり眠っていましたけど、僕と綺音はわんわん泣きだして、マンマも一睡もできなかったみたいです。
「気の毒に……」
それはもう、がーん、がーん、がららん、がららん、がらんごんがらんごんと。
「それは大変だったね」
いまとなっては懐かしい思い出です。
「町の人は、慣れてるんだろうね」
はい。僕たちの泣き声のほうが五月蠅いって、苦情が来ましたから。
「まじか」
あとは……ぼく、フランスって苦手だなぁ。
「おや? なにか理由でも?」
パリにマルセイユ、リヨンに行きましたけど、水が……。
「ああ、硬水が口に合わないのかな」
リヨンだけは、よかったんですけどね。
紅茶って、水の硬度が高すぎても低すぎても美味しくないんですよ。
「硬度って、あれでしょ。カルシウムやマグネシウムの含有量の数値でしょ」
はい。硬度が高いのが硬水、低いのが軟水です。
フランスの水って、結構、硬度が高いんです。だから、紅茶がドロリと重たくなって。
「へぇえ。そうなんだ」
軟水の地域もありますけど、あんまりないですね。ヨーロッパ自体がそうですけど。だから、僕は日本が好きです。
「でも、イタリアには結構行ったでしょ?」
パーパの後援財団がありますからね。
トリーノには、よく行きましたよ。
知ってます? トリーノに、エジプト博物館があるんです。
「エジプト博物館?」
本国のカイロにあるエジプト考古学博物館に次ぐ規模の美術品を収蔵している、すごいところです。創設は世界最古なんですよ。1824年……だったかな。
「それは、凄い」
面白かったですよ。
ミイラとか、ミイラとか、ミイラとか。
「美弦くんは遺体が好きなのかね。ハイドンの首やらアインシュタインの脳やら、ガリレオの指やら……」
たまたま知っているだけです。
だって、エジプト文明と言ったら、ミイラですもん。
「そうかな」
そうです、たぶん。
まあ、ピラミッドも、凄いですけど。さすがにそれは博物館に入らないですから。でも、オベリスクや彫像はありましたよ。迫力でした。
「イタリアでエジプト博物館か。世界第2位の規模だって知らなければ、スルーだろうなぁ」
長くなりましたね。
今回は、そろそろ。
「おや、もう眠たいの?」
猗綺子さんがですよね。
今日、久しぶりに仕事に行ったんでしょう。
「そうです。でも、まだ眠れないよ」
なんでですか?
「それは、後で。今から お礼状を皆さまに書くからね」
お礼状?
「じゃ、ちょっと失礼するよっ!」
あれ、猗綺子さーんっ……行っちゃった……。
では、皆さま、また、後程?
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