第40話 スカウトされる美紅

「初代勇者の伝承ですか?」


 小動物のように少し怯えながらも首を傾げる美紅の頭を撫でたくなるがグッと堪えて話を進める。


「ああ、他にも指針にできるようなモノがあるかもしれないが、これが一番だと俺のカンが言ってる」


 根拠らしい根拠もないのに自信がある自分がおかしいのは分かるが、どうしてもそれを調べた方がいい、と俺の背中を押す力を感じる。


 そう言う俺にどう接すればいいのか分からない美紅はルナを見つめると肩を竦められて首を横に振られる。


「徹、私はだいぶ慣れたけど、美紅はその突発性の病気のような発言についていけないの?」

「ちょ、ちょっと待った! 今まで俺の言葉をそういう風に受け止めてたの!?」



 ショックやわ~ないわ~これは~



 おやつ時を過ぎた頃のせいか、若干、夕日が赤くなってきており、それを見つめたせいで目がシバシバしてきて少し涙が流れる。



 決してルナに泣かされたという事実はないったらない!



「そういう意味ではなくて、徹は過程を無視して結果を言う時が多いの。後でそれが正しいと分かるから私は信じてるけど美紅は慣れてないと言いたいの!」



 ルナさんや、最初にそう言ってくれないと今晩、枕を濡らすハメになりかけたじゃないか……


 俺は、ヘッ、と強がるように笑うと目尻にある涙を袖で拭う。



 立ち直りつつある俺にルナが、「出来る範囲だけでも説明するの!」と言ってくる。



 OK~ 任せてくれ、完璧に説明してみせるぜ?



 調子に乗ったガキのように鼻息を荒くする15歳の少年がいる。もしかしたら、俺かもしれない。


「なあ、美紅、初代勇者のおとぎ話を知ってるか?」

「い、いいえ、私が最後の勇者とは言われてはいましたが先代や初代の方の話は初めてです」

「えっ? 美紅が最後って言われたの?」


 ルナが驚くように俺も驚いていた。


 おとぎ話を信じるなら、勇者の力がないと封印もままらないのに、あっさりと美紅を手放し、封印の触媒にしたエコ帝国が何を考えているか恐ろしくなる。


 何か考えがあった場合、逆になかった場合でも末恐ろしい国のようだ。


「まあ、俺達が魔神の一部を次元の狭間に捨てたから復活は無理だろうからいいのかもしれない。それぐらい馬鹿だったりネジが飛んでる奴等なら美紅の消息を調べようとしないだろうしな」

「まあ、関わらない限り、そう考えてる方がいいかもなの」


 美紅は微妙な表情を浮かべるが、今は考えてもしょうがない事だけは本当なので黙る事にしたようだ。


「まあ、話を戻すけど、俺達も又聞きだから、違った所が後で分かっても勘弁な?」







 今から、約500年前、突如、どこからとなく現れた狂った神、魔神が現れた。


 人々は魔神の狂気に犯されたモンスターが凶暴になって、それを相手にするだけで精一杯で、魔神に抗う術がありませんでした。


 そんな時、アローラの女神がある国の王に神託を与えます。


 神託の内容は、魔神に抗う為にある場所に女神の力により魔法陣が作られた事を知らせるものであった。


 指定された場所に行くと本当にあり、神託を信じた王は伝えられたままに魔法陣を起動させる。


 起動した魔法陣から、眩しい光を放ち、そこに現れた少年、後に初代勇者と呼ばれる。


 初代勇者は、モンスターの群れを押し返し、人々を救った。


 最強の魔法使いエルフの少女やドラゴンすら仲間として従え、数々の仲間と共に魔神に挑む。


 初代勇者は大きな犠牲を払いながらも、魔神との戦いに辛くも勝利を治める。


 さすがの初代勇者も魔神を完全消滅はできなく、体をいくつかに分け、封印に成功し、アローラは平和になりました。







「という話を俺達は聞いたんだ」


 俺がそう話終えると美紅は考え込み、今、俺が言ったおとぎ話を反芻しているようだ。


 顔を上げた美紅は少し困った顔をしながら俺に言ってくる。


「確かにキーワードは揃ってるように思いますが、少し強引ではありませんか?」

「さすが美紅! ルナと違うな。聞き直してもまだ分かってない顔してる駄目な子とは違う」

「誰が駄目な子なの!? 私は得意分野を持つ人に任せられる子なの!」


 そう言ってくる駄目な子を見つめる俺は嘆息する。



 お前の得意分野を説明してくれ、駄々捏ねて泣く事か?



 そう言ってしまえれば、すっきりするだろうな、と思うがルナが俺の目の訴えで考えを読んだようでイヤイヤするのように小刻みに首を振ってくる。



 ふむ、自分をこき下ろされる瞬間を見抜くのは得意らしい。



「駄目ルナは置いておくとして、俺達が求めるモノが全部、含まれてる。召喚、勇者、女神、後、ついでにいうなら魔神絡みも調べられるだろう」

「確かに全部バラバラに調べていってもキリがないでしょうし……調べるスタートラインとしてはアリでしょうか?」


 おずおずと意見を述べてくる美紅に笑いかける俺と地面に両手、両膝を地面に付けてショックを受けるルナ。


 笑いかけた俺ではあるが、少し美紅に言い難い事を言わなければならない。


「ああ~、魔神とかがいるぐらいだから頭の回転のいい美紅なら察してると思うけど、このアローラは元の世界のように安全に街の中もそうだが、外は間違いなく無理だ」

「……なるほど」


 美紅は自分の腰に挿しているボロイ剣、よく折れずに形を維持してるな、と思えるような長剣を見つめて微妙そうな表情をする。


「だいたいの事は察してくれたようだけど、色々、調べ物をしようとすると戦うのが苦手そうな美紅もそれなりに慣れて貰わないと駄目なんだ。俺達と一緒の冒険者になって生活の糧を稼ぎながら慣れていかないか?」


 少し、沈黙と共に何かを考える素振りを見せる美紅が俺を見上げてくる。


「もし、私が強くなってもなれなくても見捨てたりしませんか?」

「んん……強くなり過ぎるのは困るかな? さすがに魔神をデコピンで倒せるぐらい強くなられたらヒクかもしれん。その手前で止まってくれるなら問題ないぞ?」


 俺は笑いながら中指を撓らせてデコピンをする仕草を見せると虚を突かれた顔をした美紅が少し怒ったような顔をして食い付いてくる。


「私は本気で言ってるんですよ! それを……」

「美紅こそ、俺の本気を疑わないでくれ。俺はその辺りの事を込みで手を差し出して一緒にいこうと誘ったんだ。見縊らないでくれ、約束しただろ? 楽しいを見つけてやるって?」


 美紅の言葉を被せてマジな顔、少し俺は怒っていたかもしれない。その感情が出ていたかもしれないが、どうしてもそれだけは言わずには居れなかった。


 息を飲むように黙った美紅は目尻に涙を浮かべるが、ぎごちない笑みを浮かべると「有難うございます」と言ってきた。


「ゆっくり慣れていこう。時間制限が厳しい話じゃないんだ」

「……はいっ!」


 俺達は笑みを浮かべ合い、クラウドを目指して街道を意気揚々と歩いていると俺の服を後ろから引っ張られて足を止められる。


 何事だ? と後ろを振り返ると涙でクシャクチャになってるルナがいてビクついて慄く。


「わたし、だめなこじゃないのぉ!」


 涙声でしゃくりあげながらグイグイと俺の服を引っ張るルナに呆れ顔全開の俺とどうしたらいいか右往左往する美紅が見つめる。


「お前、まだその事でショック受けてたのかよ……」


 泣くルナの頭をグリグリと犬を撫でるようにして落ち着くまでしながら帰り道を歩く。


 その隣を出会って一番の楽しそうな笑みを浮かべる美紅を横目にルナを見つめて思う。



 ルナ、お前の得意分野は誰かに楽しいと思わせて笑わせてあげられる事だな。



 そう思いつつ、頭を撫でていると俺に抱きつくようにしたルナが俺の服で鼻を噛む。


「チ―ンなの!」

「いやぁ~それだけは止めてぇ~」


 それを見て美紅は笑みを弾けさせる。



 ルナ、俺だけは笑えねぇーよぉ!!







 しばらく他愛のない会話をしながらクラウドを目指しているとクラウドの門が視認できる距離に来ると前方から檻を引いた馬車がやってくる。


 その後方には見覚えがあり過ぎるデブ鳥と頭の上に装着されたロリっ子メイドのメルさんの姿が見える。


 なんとなく嫌な予感が過り、辺りを見渡すがスワンさんの姿がない。



 おかしい、あの1人と1匹がいるところにいない訳がないのに!



 頑なに檻の中を見ようとしない俺の袖を引っ張るルナ。


「ねぇ、ねぇ、徹。あの檻にいる人、見覚えがあるような気がするの……」

「気のせいだ」


 俺は頑なに現実を否定する。


 否定していたのに俺達に近づいてきた馬車の後ろの檻の中から声をかけられる。


「あぁ~はっはは、そこにいるのは貧乏人君ではないか?」

「えっと……そこで何をされてるのですか?」


 必死に否定していたモノから声をかけられて仕方なくそちらに目を向けると、汚れてはいるがいつもの白いスーツを着ているスワンさんが高らかに笑っていた。

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