第39話 歩を進める場所

 俺は女の子、美紅を光の柱から連れ出すのに成功するとルナに外に出る道を開いてくれと頼む。


 ルナが何もない空間に念じるようにして目を瞑り、ブツブツ言ってる横で俺は光の柱を見つめて美紅に問う。


「この光の柱、美紅がこの空間から出たら消えるのかな?」

「えっと、良く分かりませんが、私が死んだら消えると言ってたので生きてる限りあるのではないでしょうか? 私がここにいなくなったら結界としての効力はないと思いますが……」


 美紅も把握してないようだが、予測を教えてくれる。


 何せ、美紅も詳しく知らないらしい。


 美紅のように勇者として召喚されたのは美紅の前に10人以上いるらしい。だが、今回のような事は前代未聞のようだからサンプルがない。



 まあ、魔神の欠片はもうないのだから、美紅がいる理由は皆無だしな。



 と俺が思っていると意気消沈した美紅が言ってくる。


「私がここから出たら魔神の欠片の封印はどうなるんでしょうか?」

「そういや言うの忘れてたけど、魔神の欠片は俺とルナで次元の狭間にポイしたから問題ないと思うぞ?」


 えっ? と固まる美紅にここに来てからの顛末を教えてやる。


 説明が進めば進むほど円らな瞳を大きくしていく美紅。


「という訳で、砂漠で米粒、海でビー玉見つける方が楽勝なミッションと化してます。というより不可能だろ?」

「魔神の欠片の扱いの雑さにもビックリですが、魔神の加護を受けし者に勝ったんですかっ!」


 まあ、勝ったと言えば勝ったが、あれは勝ったと言っていいのだろうかと今更ながら思えてくるが否定すると余計にややこしそうな予感がしたので頷いておく。


「かなり馬鹿なヤツだったのが運が良かった」

「伝承で残る記録で言われる強さを考えると頭の善し悪しで勝てるような相手じゃないと思うんですが……」



 そんなにヤバいヤツだったの?


 無知とは時として最強だな!


 うん、分かってる軽率すぎた事はな……



 今更、危ない橋を渡った事を実感してきた俺は頬を掻いて誤魔化す。


 どうやって美紅の疑わしそうな目をかわすかと考えていると救いの女神の声がする。


「徹、美紅! 空間を開けたの。あんまり長い時間維持できないから抜けてしまおうなの」

「グッジョブだ、ルナ。さあ、抜けてしまおう!」

「えっ? あ、はい」


 勢いで押して美紅の疑いを棚上げさせた俺は美紅の背を押して空間の裂け目抜けて出る。


 ルナが最後に出て、振り返ると一言何か言うと空間は自動修復するように収束していき消える。


 出ると入った時と同じぐらいのところに太陽があるのを見た俺が呟く。


「あれ、結構中にいたと思ったけど、そうでもない?」

「ううん、中の時間の流れが遅くて、外では3日経ってるの」



 あぶねぇ! まさか異世界で浦島体験するとは思ってもなかった!


 まあ、ある意味、浦島も竜宮城という異世界かもしれんが……



 そう思うと昔話には異世界から帰った人達の話が多いのかもしれないと俺は顎に手を添え、学者ぶる。


 とりあえず3日で良かったと安堵の溜息を吐くとルナを見た後に美紅を見つめる。


「俺達は今、クラウドで住んでるんだが、美紅もくるだろ? 行く前にどうしても行きたい場所があるなら、遠い場所じゃなければ先に向かうけど?」


 遠い場所なら一旦戻ってからな? と聞く俺に迷いもなく首を横に振る。


 行きたい場所があるなら閉じ籠ろうとはしないだろうし、おっさんの話を聞く限り、美紅の安住の地はなさそうだ。


「じゃ、俺達が住んでる宿に向かおう。宿の店主が変態だが、部屋は落ち着くし、飯も美味い……しかも安いときた最高で最低の場所に案内するよ」


 変態の部分にビクッとする美紅にルナが笑いかける。


「大丈夫なの。被害があるのは徹だけで私達には、とても優しくて良い人なの」


 びっくりするだろうけど、慣れたら面白い、と美紅に笑いかけるルナに安心させられた様子の美紅はぎこちない微笑を浮かべる。


「まあ、ここで立ち話しててもしょうがないから、とりあえず行こうか?」


 そう言う俺にルナと美紅が頷いてくる。


 俺達は、封印があった山を降りて行った。





 降りて、しばらくすると街道に出る。


 それまで何やら俺達の様子を窺うようにしてた美紅が思い切った様子で口を開く。


「あ、あの色々、お聞きしていいですか? 本当に質問ばかりで申し訳ないのですけど……」

「ううん、美紅はずっとあそこにいたから聞きたい事が一杯あるのはしょうがないの。知ってる事は何でも答えるの」


 ルナに有難うございます、というと何から聞こうかと吟味するような仕草をする美紅が口を開く。


「トオル君はどうしてアローラに? 服装を見る限り、この1年以内に来てますよね? そんなトオル君がルナさんと知り合ったのですか?」


 美紅は良く見てるな、と感心して自分が履いてるジーパンを見つめる。上着のシャツこそ、この世界の物だが、今日はズボンは転移した時に履いていたものであった。


 困った顔をするルナが申し訳なさそうに美紅に言う。


「ちなみに私は知らないの。徹の話だと水晶のようなモノの中で眠る私を発見したらしいのだけど、目を覚ました時には湖の上で徹に抱き抱えられてたの」

「す、水晶の中!?」


 ルナの順序を考えない説明で美紅が目を白黒させる。


 それに頭を抱える俺が美紅に話しかける。


「俺も理屈は分かってない事ばかりだけど、あった事をそのまま説明する。嘘は言わないから素直に受け止めてくれると助かる。よく考えたらルナにもちゃんとした説明はしてなかったし、丁度良かったかもな」


 そう言う俺に2人は口を閉ざして聞く体勢になり俺と並走するように歩き出す。



 本屋に行った俺は近道をしたら人通りななくなったところで光の玉に襲われた事を話す。

 必死に逃げ隠れた場所で追ってきた光の玉のようなモノがあり、その弱々しい輝きに惹かれるように近づいて触った瞬間に飛ばされた。



「私の時とは違いますね。私の時は足元に突然、魔法陣が生まれて飛ばされました」


 美紅はどうやら、俺も美紅と同じ方法で召喚されたと思っていたようだが、違う方法で来る術がある事に驚いていた様子であった。



 飛ばされた場所、どこか分からないダンジョンの石畳で寝ていた、と伝え、そこの階段を昇ったら水晶があって、その中にルナが眠るようにいた、と伝える。


 そして、それに触れた瞬間、湖の上空を飛んでいて、溺れて沈んでいくルナを抱えて泳ぎ、足が着く所にきたらルナが目を覚まして、俺をノックダウンさせた。



 俺をノックダウンさせたという件でルナは顔を真っ赤にしてそっぽ向きながら「そこは伏せても問題ないところだったの!」と文句を垂れてくる。


「そうそう、ちなみにそのダンジョンを昇ったらルナがいたけど、下に降りたらクソデカイ蛇がいて肝が冷えたぜ。逃げたけど追いかけてこなかったから良かったけど」


 過去の俺の事なのに2人がホッとした様子を見せるのが俺には面白くて笑ってしまう。


「笑い事じゃないの!」

「そうだな、悪い」


 純粋に心配してくれる2人に失礼な事をしたと思った俺は素直に詫びる。


「それから、ずっとルナさんと行動を共にされてるのですか?」

「ああ、ルナも俺もこの世界の事はさっぱりだった。ルナは目を覚ます前の事を何も覚えてなかったみたいだし、協力し合っていこうと意気投合したところまでは良かったんだが、いきなり座礁して大変だった」

「本当なの、ダンさんに出会わなかったら野垂れ死にしてたの!」


 それからルナと協力しあって、冒険者ギルドで仕事をしながら、美紅の話を聞いた俺が同郷かもしれないと思ってやってきた、という流れを伝える。


 なるほど、と頷く美紅が聞いてくる。


「今後はどうされるつもりなんですか?」

「それなんだが、根拠を問われると困るが良い指針があるんだ。美紅のルーツを知る為、どこまで信じていいか分からないが魔神の加護を受ける者がルナを女神と間違った、そして、元の世界に帰る手段のヒントがあるかもしれない」

「そんな都合のいい話があるの?」


 そう聞いてくるルナを震える指で指してパクパクさせる美紅に、「気持ちは分かるが落ち着け」と言いながら肩を優しく叩いてやる。


「ああ、多分な。俺のカンが調べろと言ってる」


 そう言うと足を止めた俺より先を歩いてしまった2人が振り返ってくる。


「俺達3人で初代勇者の伝承を追ってみないか?」

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