第15話 ウサギ狩猟依頼

 結局、引きずられたまま、連れていかれた俺はカウンターに着くとカウンターの上に置かれ、正座をさせられる。


「お早うございます。それでどうしてトールさんをカウンターの上で正座させているのですか?」

「目を離すといらないことばかりするから、しょうがないの」


 ルナの憤慨する様子を見て、シーナさんは「じゃ、仕方がないですね」とあっさりと言う。



 じゃ、って何! なんで疑問に思わないの!?


 少し高い所で正座してるから冒険者達からの熱い視線と嘲笑と反対側からはギルド職員からの冷たい視線とお怒りに挟まれてる俺の気持ちになってっ!


 うん、分かった。


 俺が悪かった。断オッパイするからもう許して、徹ちゃん嘘吐かないっ!



 懺悔する俺を無視して2人の話は進行する。


「で、今日はどのような御用件で?」

「今日は狩猟依頼の突撃ウサギをやってみようと思うの」


 依頼書を受け取りながら、初めに受ける冒険者らしい依頼では良いチョイスですね、とシーナさんが呟く。


「突撃ウサギは、毛皮、肉の両方共、銅貨5枚になっております。損傷が酷い場合、買い取り額が下がったり、買い取れない事がありますので気を付けてくださいね?」


 損傷を気にしないといけないのはちょっと面倒だな、と思ってるとルナが、


「確か、ゴブリンは耳を剥いでくるだけで、銅貨10枚だったよね? 突撃ウサギも薬草のように集まり難そうなの」

「ええ、その通りで、こうやって受けてくれる方がいないと冒険者に直接交渉しないと肉の供給が滞る事になりますので……」


 申し訳なさそうに言うシーナさん曰く、これでも利益がほとんど出ないところまで報酬にしてるらしい。


「そう言う事だからトールさんも頑張ってね?」


 笑みを浮かべて言ってくるシーナさんの優しさにホロリときた優しさに飢えていた俺は、シーナさんに抱きつく。


「お、俺、頑張ってくるよっ! 沢山、掴まえてくるからっ!」


 腕を廻すと顔がドンドン沈んでいく、左右を柔らかいモノで押さえられている。




 今は……


 考えるな、感じろっ!




 そして、柔らかいモノに挟まれながら俺の意識はブラックアウトした。







「はっ、知らない天井、というか天井がないっ!」


 澄み渡る空をずるずると引きずられる俺は眺めていた。


 色々、事情が分からないが、とりあえず、俺、引きずられ過ぎじゃねぇ?


「あっ、起きたの? じゃ、自分の足で歩いて欲しいの」


 そう言う声の発生源に目を向けるとルナがいた。


 何故か俺はルナを直視できなかった。


 俺をゴミを見るような目で見てるからとはないはずである。


 ポイッと捨てるように手を離された事にも傷ついた事実も確認されてない。


 半泣きの俺は目元を袖で拭いながら立ち上がる。


「そろそろ、起こそうと思ってたの。徹が薬草取ってた場所はどこなの?」

「えっ、なんで?」


 俺が寝てた? 間にシーナさんに聞いたところ、俺が採取に行ってたちょっと奥に池があって、そこに突撃ウサギが住処にしてるらしいと聞いたそうだ。


 へぇ、あの奥に池なんてあったんだ、と思いながらも薬草採取してた林を指差す。


 ルナとそちらに視線を向けていると思い出す。


「そういや、初日に俺が薬草採取に行って帰りの話なんだけどさ」


 俺が林の出口で出会ったお姉さんの話をルナに振る。


 なんか分からんけど、占いをされて、北西にある山に同郷の人に出会うとか、その後に東にある神殿跡に行くとかを言われた事を説明する。


 ルナは、ふ――んと言いながらどんな人だったかと聞いてくる。


「20歳ぐらいで愛嬌のある美人って感じだったかな? ちょっとルナと似てたかもしれない」

「きっと良い人なの。キッカケがあったら、その占いの真偽を確かめに行くのもいいと思うのっ!!」


 えへへっ、笑みを隠さないルナは、俺が美人と褒めて、似てたと言われたのが嬉しくてしょうがないようだ。


「後、ルナとそっくりな場所がもう一つあって……」

「うんうん」


 前のめりになるルナ。


 俺の胸の前で真っ平らである事を手で示す。


「絶壁だった、ルナと一緒で!」


 ルナの消えるサウスポーが俺の頬を抉ると街道の外の草むらに吹っ飛ばされる。


 ガバッと起き上がる俺は頬を押さえながらルナに叫ぶ。


「ひい婆ちゃんにも殴られた事ないのにっ!」


 物心付いた頃には御存命ではなかったので知らないだけだが、少なくともそれ以降で親族で叩かれてない人はいない!



 しかし、ルナに殴られてもすぐに起き上がれるようになってる俺って打たれ強くなってきてるぜっ!



 打たれ強さ 108


 ステータスがあるならきっとこんな感じだろう。



 なんて馬鹿な事を考えて立ち上がると、ルナの瞳の色にビクつく。



 あ、あかん、あれは危険色だ!


 な、ナウ○カはおらんかっ! ナ○シカはいないのかぁ!


 ゆっくりと近寄ってくるルナを静かに見つめて俺は地面に額を付ける。


「ごめんなさいなの~」


 可愛らしくルナの真似をしてみたが、静かに頭を踏み抜けれた。



 ルナにしては軽い罰で許して貰えた俺は、林の入口に到着した。


「多分、池があるならこっちだと思う」


 俺のなんとなくの先導で歩くとあっさりと池は見つかる。


 ついた辺りを見渡すとウサギぽい生き物で目がやさぐれ具合が酷い感じのがいた。


「キャァ! 可愛いのぉ~!」


 俺はルナの感性とは相成れない気がする。


 それとも女とはこういうものなのか?


 あのカトリーヌの時から何かを学び始めそうな俺がそこにいた。


「可愛いって言ってられないぞ? これから狩るんだからな!」

「むぅ、しょうがないの。ご飯の為にごめんなの!」


 女って良く分からねぇ、と思いながら俺はショートソードを抜き、ルナは拳を固めて身構えた。

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