第5話 林で出会ったのはクマではなくお姉さん
俺は南門を抜けて街道沿いに歩いていた。
ちなみに俺は一人だ。
ダンさんはルナの働く先に案内する為に着いて行った。
まあ、俺もルナもクラウドの地理はさっぱりだから当然の処置だと分かるし、俺の依頼は結構アバウトの説明で足りるのは分かるがちょっと心細かったりする。
何故なら冒険者ギルドを出た時にダンさんに、
「南門を出た街道を歩いていけば林に入る道がある。そこで街道沿いから余り離れない位置で薬草が見つかる。だが、気をつけろよ? ちょっと奥に行き過ぎると運が悪いとゴブリンと遭遇する事があるからな」
と言われた。
改めて、言われて気付いたのである。
そう、モンスターの存在である。
ルナと出会った場所でも巨大な蛇とご対面していたが、生活基盤をどうしようと悩んでいて少し忘れていたのである。
まあ、今回は、余りゲームをしない俺でも知ってる雑魚中の雑魚のゴブリン。だが、今の俺にはゴブリンでも魔王でもたいして違いなのない。
何故なら、遭遇して戦いになったら死ぬ事になるだろうからである。
戦った事は勿論ないし、せいぜい喧嘩レベルである。
武器も木の枝を持ってマントを……おっと! 開けてはいけないフタが開くところだったぜ、
なんて馬鹿な事を考えながら歩いているとダンさんが言ってたと思われる林が見えてくる。
着いた俺は言われた通り、街道沿いの草むらを漁ると三又みたいな葉っぱがアチコチに生えている。
「おお、本当に結構生えてる」
早速とばかりに毟ろうとするが受付のエルフの女性にあの後に言われた言葉を思い出す。
「そういや、状態が良ければ査定にプラスが付くって言ってたな」
思い出した俺は根元から掴み、優しく引っ張り根っこが残るように意識して、無心に採取を開始した。
それからたいした時間はかからずに10束の薬草が揃う。
「これ以上取っても買い取ってくれないしな」
そう言って紐で縛った薬草を持ち上げると意外と重くて指に食い込む。
切実にカバンとか欲しい。
そうそう、冒険者ギルドで聞いたのだが、貨幣の種類と価値を聞いた。異国の人設定が上手くかみ合ったようで、知ってる訳ないよな? と疑いもなく教えて貰えた。
銅貨、銀貨、金貨と価値が上がっていき、100単位で次の貨幣の1枚に替わるらしい。
貨幣価値もあってるか若干の不安はあるが銅貨1枚で100円ぐらいの価値のようだ。10円の価値のものとかはどうするのだろうと聞いてみたら、要約するなら100円分買わされるらしい。
つまり、薬草採取10束で3000円という事になる。1時間ぐらいであっさり集まったし割がいいように思えるがそうでもないらしく、ほとんどの者がやらないそうである。
何故なら、ゴブリン討伐が1匹、銅貨10枚で耳を剥いでくるだけでいいらしい。
戦う事を忌避しないのであれば、武器を持った子供を相手にするようなものらしく、戦い慣れしたものなら、そっちを選ぶからだそうだ。
ゴブリンは繁殖力が高いそうで、数を狩るのも困らないという側面もあるらしい。
だからと言って薬草は必需品な為、受付嬢が相手の機嫌や普段の会話で仲良くなっておいて、薬草のストックが干上がらないようにお願いしているようである。
その説明をダンさんにされた時に俺の直感が訴えたので素直に聞いてみた。
「俺に薬草採取を勧めた理由にペイさんに対するゴマすりはなかったって言える?」
そう言うとダンさんは男らしく目を逸らした。
まあ、戦う事もできないし、武器もない俺には必要な知識になるのは間違いないから文句言う筋合いはないのだけどね。
ペイさんに完全に尻に敷かれているダンさんもそうだが家の親父もと思うと……今更ながら、今頃、家では俺がいないと大騒ぎになってるのかな? と凄く心配になってくる。
それに気付くと帰る方法を探す、というより帰る手段があるのだろうかと不安に駆られながら街道に戻ってくると突然声をかけられる。
「やあ、薬草採取?」
突然、声をかけられた事と考え事をしてた事で変な声を上げて驚いた俺に虚を突かれたようで女性は俺を見つめて笑う。
青い髪、ルナと違い、ルナは紺に近い青に対して、彼女は水色に近い青の髪をポニーテールにしたスレンダーな20代になりたてといった活発さを感じさせるシーフといった格好をした人がいた。
向こうからすれば突然、森から出てきた不審者と思っても仕方がない状態なのに関わらず、にっこりと人懐っこい顔を俺に向けていた。
「ごめんねぇ、そんなに驚くとは思ってなかったの」
「いえいえ、俺も考え事してたから、ちょっと余計にビックリしてしまっただけなんで」
やってもーたっ!!!
かなり無様なところを見せた俺は恥ずかしくて頬が赤くなってるのを自覚してしまい、余計に恥ずかしくなるという悪循環に陥る。
クスクスと笑うお姉さんに俺は誤魔化すように質問する。
「お姉さんはこんな所に何をしに? 旅をしてるようには見えないし、依頼中にも見えないけど? それとも俺と同じで薬草採取?」
カバンも何も持ってないし、まるで散歩をしに来たようにしか見えない。
「しいて言うなら散歩?」
本当に散歩だよっ!
「まあ、きっかけはお姉さんの占いで、ここに来たら面白いモノが見れると出たからなんだけど……ここまで楽しいモノが見れるとは思ってなかった」
クスクス笑うお姉さんに俺は落ち着きかけてた頬の熱が再燃させられる。
笑われて、ちょっと拗ねかけた俺に気付いたお姉さんが必死に笑いを抑えて謝ってくる。
「ごめん、ごめん。気を悪くしないで? お詫びにお姉さんがタダで占いしてあげるから」
「それは嬉しいですね。どうやら的中率が高そうですし?」
自分でもへそを曲げて大人げないなとは思うが恥ずかしかを誤魔化すので精一杯で唇を尖らせてしまう。
「もう、いつまでも拗ねないの! じゃ、掌を見せてね?」
そう言われて手に触れられて、ちょっとときめく俺、やっすいなぁ――!
しかし、急激に恥ずかしくなってきた俺はその手を振り払う。
「いや、気にしてないんで、大丈夫ですよ」
「待って、ちょっと占うだけなんだから、いいじゃない?」
そう言ってくるお姉さんだが、後ろ髪を引かれる思いを振りきって、「それじゃぁ?」と言ってお辞儀をする。
この場を去ろうと後ろを向くと、お姉さんが俺の背後に忍び寄り、スリーパーホールドをかけてくるがたいした力はかけられてない。
「お姉さん、あたってます。あたってるって!」
「ほれほれ、そんなに遠慮せずに素直に占われなさいな」
「だから、あたってるって!……骨が」
バッとお姉さんが離れると俺の後頭部を打ち抜く拳があった。これはデジャブか、何時間か前にルナに殴られた記憶が駆け巡る。HPが尽きる……
危うく、依頼の薬草を自分の手当てのために使いそうになった俺は身の安全のためにお姉さんに占ってもらう事にする。
「そうそう、素直に見られたらいいの!」
ニコニコしたお姉さんに掌を見つめられる。
「うーん、近いうちにあの山に君は向かうね」
お姉さんが指差す方向にはクラウドの港から西側に移動した所にある山のようだ。
「そこで同郷の人に出会いがあるはず。その出会いがあったら次の行き先を東にある街の近くの廃墟になってる神殿に向かうと君の運命を切り開く助力してくれるモノと出会う事になる、と占いに出ているよ」
同郷? つまり日本人がこの世界に来てるという事なのか? それが本当なら是非、会わないと思う俺はお姉さんに聞く。
「その同郷の人に会う為にあの山のどこにいけば?」
「う―ん、そこまでは分からないよ。ただ、会うべき時がくれば兆しがくる、と出てるね」
そう言うとお姉さんは俺から距離を取る。
「お姉さんの占いは良く当たるから忘れないでね? またどこかで会いましょう、徹」
そう言うとお姉さんは俺の下から小走りしながらクラウドを目指して走り出した。
アレ? 俺、お姉さんに名前言ったか? 向こうは知ってるのにこっちはお姉さんの名前分からない。なのに、不思議に不快感はない。
これが不思議なお姉さんとの初めての出会いであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます