第2話 自由都市 クラウド

 目を覚ますと青い髪の少女が申し訳なさそうな顔をして俺を覗きこんでいた。


 俺が目を覚ましたと分かり、パァ、と表情を明るくするが、その原因を作ったのが自分である事を思い出したのかシュンとする。


 日の位置がまだ高い所から考えて、気を失ってからそんなに時間が経ってないようである。


 1日で2度も気絶とか……


 とほほ、と嘆きたいが心配そうに見つめる青い髪の少女を放置するのも頂けないのでとりあえず起き上がる。

 起き上がる時に気付いたが、湖に落ちて濡れてたはずの服が渇いてる事に気付く。


「あれ? 濡れてた服が渇いてる」

「あっ、それだったら私が魔法で乾かしておいたの」


 はい、重要キーワード頂きました、『魔法』です。


 ないからね? 俺が住んでた近所には……あっ、ご近所のオジサンが「そろそろ俺は魔法使いになるかもしれん」と言ってる人は除外でね?

 まあ、世界規模で魔法と認められるような現象はなかったはずである。


 外気の温度からして春ぐらいの気温だから、丸一日気絶してない限り、乾いてる事はなさそうである。


 やはり、異世界転移しちゃったぽい。


 考え込む、俺に何やら聞きたそうにしてる青い髪の少女に、言いたい事があるならどうぞ、と言おうとしたが名前を知らない事に気付く。


「あっ、俺は徹。まだ確定じゃないと思いたいけど、帰る事もできないレベルの迷子かもしれないんで、そこのところ、よろしく」

「あぅ……私はルナ。聞きたい事が沢山あったけど、今のやり取りで一気に減っちゃったの……聞いても無駄という意味で」


 俺も状況を整理したいから、聞きたい事を聞いてくれていいと言うとルナは顎下に指を当てながら、聞こうと思ってた順番が一気に崩れたから組み直し始めたようだ。


「まず、私は何で湖にいたの?」

「推測も混じる事は理解してくれな?」


 そう言うとルナは引き気味に頷く。思ってたより厄介そうだと思ったからであろう。



 俺が最初に目を覚ましたらダンジョンのような場所であって、そこから昇る階段を昇った先に青い光を発するクリスタルがあって、その中にルナがいた事を伝える。


 そう言った時のルナは本当に驚いていたので、どうやら本人も何故あそこにいたのか知らない、もしくは覚えてないのであろう。


 そこで俺はそのクリスタルを触った事でおそらくルナの封印解除か起動スイッチ的なものを押してしまったんじゃないか、と伝える


 そして、急上昇するような感覚に襲われて目を開けたら空を飛んでて湖に落ちて隣を見たらルナもいた事を伝える。


「それでルナを背中から抱き締めるようにして泳いで足が着くところまで来て引っ張ろうとしたらルナが目を覚まして、後は分かるだろ?」

「ごめんなさいなの」


 顔を真っ赤にして俯く。


「引き上げようとしてただけで、イヤラシイ事をしようという気はなかったから安心してくれ、俺はオッパイが大きい人以外には紳士で有名だからな!」


 歯を輝かしてカッコ良く笑みを決める。


 体を震わせて俯くルナはどうやら、俺のカッコ良さに震えてるようである。罪な俺。


「最初に失礼な事したのはこっち、こっちだから我慢なの!」


 照れた発言にしてはえらく先進的なセリフでそこに萌えを見出すのは俺にはレベルが高すぎで理解できなかったが聞かなかった事にした。


 荒い息を落ち着かせたルナは、疲れた顔をしてこちらに顔を向ける。


「それで徹もここがどこか分からない?」

「ああ、分からないというより、初めてしかない場所の可能性が90%の色々大変な状態なんだ」


 俺の返事を聞いて、駄目だこりゃ、と思ったようで嘆息すると立ち上がる。


「とりあえず、ここから見える街に向かってみるの」


 ルナが指差す方向を見る為に俺も立ち上がる。


 そこから見える景色、城壁に囲まれた場所の中に家が建っているのが遠目に見えるが、近代建築には見えなかった。


「なぁ、ルナ」

「なあに?」


 俺の声に反応してこちらに顔を向けてくるルナに最高に良い笑顔を向けた俺はサムズアップしてみせる。


「もう99%、俺が知ってる世界じゃないぜっ!」

「あっ、そう」


 そう言ってくるルナの目が、こいつ使えねぇ、と言ってる気がしたのはきっと気のせいと俺は自分に言い聞かせながらルナが指差した先にある街を目指して歩き出した。





 しばらく歩くと城壁で囲まれた街に到着する。


 潮風がするところから、どうやら港町であるようである。


 門を通ろうと思った時、通行料とかあったらどうしようとドキドキしながら歩いていると若い門兵に声をかけられる。


「ようこそ、自由都市クラウドへ。おのぼりさんで緊張するのは分かるけど、背筋伸ばして歩いてないとチャンスを見逃すぜ?」


 そういうと背中をバンと叩く。


 どうやら通行料はないらしい。ただの気の良い門兵が緊張してる理由を履き違えて励ましてくれているようであった。


 俺は、「有難う」と門兵に感謝を告げるとルナと共に自由都市クラウドに入る。


 そこを見渡すと項垂れる。


「100%だわ、違和感しかない。ここが俺が住んでた世界じゃない」

「それは残念なの。私は違和感は感じないけど、自由都市クラウドと言われてもピンとこないの」


 街中をエルフやドワーフが普通に歩き、良く見ると動物型の耳や尻尾があるのもいるから獣人もいるようである。探したら天使もいるかもしれないな、と乾いた笑いを浮かべる。


 どうやら2人揃って激しく人生の迷子確定がしたようである。

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