行き先は選べない

「ちなみに、クーリングオフないから」


「そう言われると少し不安になるのですが……」


「なーに大丈夫大丈夫、普通の個体より頑丈にしておくからね。6、7メートルから落ちても怪我ないようにしとくから……保証はないけど」


決定したはいいものの段々と不安になる言動が増える。ちょい悪の遊びに付き合わされて、そのセカンドチャンスとやらでも結局また、つまらない死を迎えるのではないか。顔を引きつらせてそう思う竜翔。そんな竜翔を尻目に、ちょい悪は話を進めていく。


「えっと……今回の送り先は……私のお気に入りのひとつで……魔法元素と物質元素で構成されてて、規模は地球よりいくらか大きいぐらい?亜人種多様で野性動物に俗称、魔物、モンスターもいると……文化面も地球に似た部分多く……文明レベルは少し幅があるな……通貨は金銀銅を元にした貨幣。成人の基本年齢は16歳……どう?楽しそうでだろ?」


「そこで生活する身からしたら、不安の方が多いのですが……」


お気に入りの世界と言われても、聞いた感じは現代人である竜翔からしたら、言うように不安が増すばかりの説明である。魔物にモンスターと聞けば、何の武道を習ったことのない竜翔にとって、生きていける気がしない。その様子にちょい悪は気づいているがこう言う。


「ふふ、案ずるよりなんとやら……それにおまえは色々なものを本当は既に持ってると思うがね?」


「ただの人間ですよ俺?」


「ああただの地球と星の現代人だね?けどそれだけでも特別だよ。それから、さっき言った通り頑丈にするのと私からのサービスつけるから」


案ずるものに案ずるよりと言われてもであるが、ちょい悪は竜翔はすでにものを持っていると語る。そう語るが、26才独身からしたらやはり何もないとしかか思えない。竜翔は振り返ってみても、やはりないことを再確認する。再確認するが、ちょい悪はそんな彼をみて笑い存在が特別なのだよと返し、手をかざす。かざされれば足元に光が浮かび竜翔の身を包む。何が起きてるかわからなかったが、光は日と違う暖かさで蛍火のような光が体へ入っていくのを感じた。


「君は私を楽しませてくれる何かをする。それは君のこれから行く世界を変えるだろうな。君は持ってないのでなく分からないだけなのだ。分かるものからしたら、多いものだろうがね。早く気づくといいが」


「けど?……えっと……?ってなんかこのまま?」


ちょい悪は、足元から上がる光に包まれた竜翔に、真面目な表情、真っ直ぐと見据えて言葉を掛ける。竜翔は事を成すと気づかないだけで多くを持っていると断言する。その言葉に竜翔は言葉を返そうとした。が、光の強さが増すのを感じ立ち上がっては、自分を包む光と足元の魔法陣を見る。魔法陣の隙間がガラス床のように底を写し出していた。雲の白、大地の黄と緑、海の青が流れていくのが見えた。そして、ちょい悪はこの日一番の最高の笑顔を見せた。


「あれ?バレた?さあ……新たな人生を……もうひとつサービスつけたから」


「ま、まだ心のじゅ……!?」


ちょい悪は悪びれる様子もなく、指をパチリと鳴らす。待ってくれと手を伸ばし、止めようとする竜翔にちょい悪は手を振り、指を鳴らした途端に、竜翔を包む光は足元へと吸い込まれていく。声を発したときには、肉体は光へと変換され、魔法陣へと次々吸い込まれてなくなった。残されたのは彼の手の付けなかったティーカップのみ。赤い水色の水面には何者も写らず波紋のみが浮かんでいた。ちょい悪は一人静かに、自分のティーカップを傾けた。その表情は明るく口許は緩み笑っていた。





雲間をすり抜け、避けれなかった雲を突き破り、海や大地が迫る。いや自分が迫っている。耳に聞こえる風の声、抵抗されるような空気の壁を突き進み視界が真っ白になった。


再びどれぐらい経ったのか。彼はやっと目覚めた。日が眩しく、土の匂いがする。手を日にかざす。どうやら実体、肉体はちゃんとあり日に少し透けて血管が見えた。どうやら生きてもいるようではある。体を起こし回りを見渡してみる。草むら、草原と言う感じで、木々が疎らに立ち、遠くに森が見えた。さっきまで見た、居た場所とも記憶にある最後の悪夢とも違う光景が広がっていた。ゆっくりと立ち上がった


回りには人家ひとつ、電線もない。より遠くには丘に、山々の連なる姿があり、何かが飛翔し舞っている。風の轟音に空を見上げれば太陽を隠す何かが空を覆う翼を羽ばたかせていた。


「マジか……」

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