第10話 四六時中エロで脳回路を焼き切ってるリョータ先輩

 今日何度目かの空気が凍る瞬間。氷河期は近いぞ。


れるとこないだろ?」

 何言ってんだこいつは。

「やりたくても、できないんだよ、それが」

 何の話だ。

「え、お前知らないの?つまり、携帯端末には、ヴァギナがないんだよ」

「ヴァっ!バっ、ばか!」目の前の猛獣を止めようとしたが、激しくせた。俺は思いっきりラーメンの汁を気管に入れちまったよ。

「お、お、お前、公共の場で何言ってんだよ!!!」

「お前が言わせたんだろうが。物分かりの悪い。てか、知らなかったなんて驚きだぜ。どんだけウブなんだ」

「え、いやだって…」と俺はサンを振り返る。俺が知らないのは、ウブとかいう問題ではない。

「お前、そんなこと言わなかったろ?」

「そ、そんな恥ずかしいこというわけないっしょ!」サンは眉毛を釣り上げていった。怒っても可愛いな。口は憎いが。

 でも否定はされない。やっぱそうなんだ…

「まあ、家にでも帰って見てみなよ。付いてないから」ユーキはさらっととんでもセクハラ発言をした。医学部のやつは身体の話にデリカシーがなくて嫌だ。

「見るって、そんな簡単にいうなよ…」

「いや、簡単だよ。携帯端末は命じれば何でもするから。だってそういうものじゃん」

 まじかよ。

 そんなとこ見るの初…だけどついてないならノーカン…0.5点…?

 俺は無駄な思考を巡らせた。


「がっかりした?」

 サンが横から質問に入った。

「がっかりって…何に?」

「その…そういうことできないこと」

「いや、がっかりなんて、してないけど」

 してないけど。

「まあ、そんな勇気ないと思ってたよ」

 うるせー。


「四六時中エロで脳回路を焼き切ってるリョータ先輩パイセンはご察しだと思うが、」

 誠に遺憾な切り出し方でユーキが語る。

「昔は普通についてたわけよ。ついてたというか、あったというか。それが。ただ、そういった目的でばっか使うやつが急増してね。早急に対策されちまった」

 さっきサンの話も聞いて思ったが、ここの「人間」って奴ずいぶんエグくねーか?

「おかげで、今業者から販売されているのは、サオなしかアナなしだ」

 ゲスいんだよ、お前。

「といっても、男性らしさ、女性らしさは演出されるようになってる。テストステロンとかエストロゲンとかを使ってな。そのホルモンを分泌するために、生殖器はなくしても、精巣と卵巣はついてるんだな、これが」

「お、おい!!」

 食堂でなんて言葉を発しやがる。

「言葉を慎め、言葉を」

「ははっ、大学生にもなってそんな単語ぐらいで興奮しやしないさ。保健体育の授業の中学生じゃないんだぜ」

 そうであることを祈るよ。

「しかし、そんなんで、溜まらないのか?」俺は疑問を素直に口にした。

「何が?」

「性欲」

「あー、んー、どうなの?」

 ユーキはリンに話を振った。かわいそうだろ。

「え、えーと、性欲っていう機能はないんで…」

 リンちゃんはおずおずと答えた。機能?

「確かにホルモンバランスが一定量高まる時期はあります。特定のイベントが発生した後であるとか。ただ、そうですね…例えば、人間の皆さんは、疲れたら寝て回復されるでしょう? その際、眠気だけではなくて、疲労や、ストレスも解消され、記憶も整理されますよね。すなわち、睡眠という手段で、眠気のみならず、他の生命維持行動を行われているわけです。我々端末はそのように、1日に溜まった性欲については、ストレスとして睡眠により解消してしまいます。そもそも、我々にとっては、性欲はそれそのものとしては知覚できず、おそらく人間の皆さんのいう「疲れ」とか「眠気」に相当するものとして感得されます。ですから、性欲を感じると、ああ、すみません、正確に言いますと、人間の皆さんが性欲を感じるような場面に我々が遭遇しますと、我々は、眠くなるのです。そして、睡眠が許される場面であれば、しばし睡眠して、そうでない場合は夜に就寝しまして、性欲が解消された形で朝起動します」

 は、はあ。

 としか言えない。

「そう、進化したわけよ」なぜかユーキはドヤ顔だ。

「進化?」

「退化ともいうことはできるぜ。理論的にはな」

「言葉遊びはいらん」

「昔の人はすげえよなあ」ユーキは食堂の天井を見上げて、慨嘆した。

「すげえ、のか、それ?」

 俺にはこいつの頭がよくわからん。

「どーしても、ヤりたかったら」

 ユーキは一転して身を乗りだして、こそこそ声で言った。

「闇市場では、流れているらしいぞ。でも、非合法に発展途上国で作られたやつだ。高くて質が悪いと聞く」

どこでそんなこと聞くんだよ。

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