第8話 謝罪会見童貞はこれで卒業
もうちょっと操作が楽なゲームで遊びたいな。テトリスとか。
「テトリス?」サンは首を傾げた。知らないのか。
ふーむ、という顔をした後、5秒ほどして、サンは俺の方に向き直った。
っと、俺の視界に大きなスクリーンが現れた。
で、でか!
「今回は没入式じゃなくて、スクリーン式にしてるわ」
どうも。
「で、コントローラは?」
「コントローラ?」サンはまた首を傾げる。
「あー、操作用インターフェイスのことね。リョータの指」
指?
「人差し指を下げると右回転、左右に動かせば1列ずつずれるわ」
早速やってみる。が、空中で指を動かすのは、ふわふわしていて、なんだか間抜けだ。
「こ、これ慣れないとムズくねーか?」
「そう? 私にはわからない。でも一般的には、モーションセンサーの方が、さっきのダイレクトイメージングよりも初心者向けの操作方法だとされているわ」
ダイ…
あー、そうかい。(よく、わからん)
「でもなんか、何かに触ってないとゲームしてる感覚がないんだけど」
「注文が多い人間だなあ…」
文句が多い携帯だなあ…
サンは俺が空中に掲げている人差し指をとって、ちゃぶ台の上に置いた。
「この机の上でさっきみたく指を動かしてみて」
あ、これだとノートパソコンのマウスパッドみたいな感覚だ。随分とこっちの方が馴染みやすい。
※※※
2時間後。俺は大学の第2食堂の券売機前にいた。
友人ユーキに会うためである。ユーキは高校からの同級生で、同じ大学に入った。同じ大学といっても、向こうは医学部なので偏差値は5ぐらい違う。俺の狭い人脈の中で、一番頭の良い人間である。
俺は、この事態をより理解するため、ユーキの知恵を借りようと思ったのだ。
しかし。
学校への道のりも、気が気じゃなかった。
電車に乗っている最中も、乗客の持ち物のどれが携帯なのか気になって仕方がなかった。というか、持ち物じゃなくて隣に座っている人が携帯で、更にその隣の人間と無言で通信してるかもしれない。座席の向かいには親子連れが座っていたけれど、どっちかが携帯でどっちかが人間かも、と思うと妙な気持ちになった。子供が携帯なのも気色が悪い。かといって、子供が、大人の形のスマホを連れて街を歩いていると想像するのもキツかった。情愛ある親子に見えるが、実際には人間が、スマホを見つめているだけなのかもしれない。
ああ…
金属板はどこへ行ったんだろう…。
と、思っていると。
大学の最寄り駅に降り立ったところで、ある女の子を発見した。見れば、見慣れた
俺はすごいものを見たような気になって、女の子に駆け寄った。
「やっぱり!! この金属が!! いいですよね!!」
俺はつい興奮気味に言ってしまった。
とっさに身を縮める女の子。小鹿のように怯えている。やばい。
「何ですか? あなた! いきなり!!」
「あ、いやいや、そんなんじゃない。そんなんじゃないんです」
弁解にならない弁解を並べ、小鹿を落ち着かせる。
「久しぶりに見たからさ、つい懐かしくなっちゃって」これは本当だ。
だが、逆効果だった。
「最低。見ず知らずの人にいきなり、そんなこと失礼ですよ。バカにしてるんだったら、あっち行ってください。警察呼びますよ? 今、今呼びますよ?」
女の子はキレていた。完全に旗色が悪い。なんだか、周りからの冷ややかな視線が刺さっていた。今なら10万本くらい矢が集まりそうだ。
「ご、ごご、ごめんなさい、そ、そんなつもりじゃなくて」
やれやれ、俺は陳謝した。人生初の謝罪会見。謝罪会見童貞はこれで卒業だ。ははは。
女の子はいかり肩でそそくさ立ち去っていった。
振り返ると、サンが腹を抱えて笑っていた。
「あっはは!あは、あははー。く、ぐるしい。呼吸困難なるーぅ」
ふざけんな。
「あんた、何やってのさ。変態だね。まあ、知ってたけどさ」
誤解だ。おれは、ちょっとテンションの加速が強すぎて、富士急のドドンパみたいになってしまっただけだ。
「金属板の携帯なんて、いっちばんダサいからねえ。わざわざ大声で言うなんて、ほんっと趣味が悪いよ」
え、そうなの?
「たぶん、そんなにお金がない子か、親が通信機能
「いやいや、何も恥ずかしがることないだろ? 携帯を持ってるだけじゃないか」
「あんな、いかにも携帯持ってまーす、って全世界にアピールしてる姿がかい? ほら、見なよ。あの子、今コンコースの下に隠れてるよ。携帯を隠すように持ってるでしょ? 携帯は、携帯だとわからないように持つものさ」
確かに、家からここに来るまで、携帯という物体を見ることはなかった。
皆、何かしらの持ち物に携帯をインストールしていたのか。
携帯を持っていることが恥ずかしいなんて。そんなことがあるものだろうか。
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