第4話 さっきから俺はオウム状態
夢にしては奇怪な夢と付き合わされて3時間ほど。
喉も渇いてきたので、コンビニに行くことにした。
「じゃ、わたしも行くね」
え?
「いや、お前は部屋にいろよ」
「は? 携帯持って出かけないの?」
それもそうだが。
「持って、っていうかお前がついてくるわけだろ?」
部屋から女の子と2人で出かけて、コンビニで買い物して、2人で帰ってくる。
なんか、
なんか俺大人になったなあ。
でも、なんだか思ってたのと違う。
面倒ごとは嫌いなので、俺はやんわりと同行を拒否する。
「何言ってのさ。持ってないと不安になるくせに。はい、早く行くよ」
サンに促されるまま、俺はサンダルをひっかけてコンビニに向かった。
「おい、サン」
「何よ、おい、って。エラそーに」
あ、いや…
「ご、ごめん。サン様」
「わかればよろしい」
傲岸な携帯だ。
「他の人たちの携帯ってどうなってるわけ?」
俺としては、全携帯が人型化しちまって、世の中は2人組の人たちが
「ハハ、ウケる」
ウケねーよ。
「そんなの、勝手に設定してるに決まってんじゃん。ある人はカバンが携帯だし、ある人は時計だし、ある人は洋服だよ」
「は?」
「は?」
「そんなことできんの?」
「何でできないの?」
サンは、なんでお空は上にあるの?と小さい子に聞かれたお母さんみたいな顔を見せた。
でも、
できないだろ、常識的に考えて。
「いや、
「あんたねえ、そんなの工業製品だからでしょ?」
「コーギョー……」
「物体化して、指を動かすからそうやって形が問題になるんじゃない。今こうやって脳とダイレクトに通信してるんだから、形なんてどうだっていいのよ。別に。君って、前時代的。そのうち、ありをりはべり、いまそかり、って喋りだすんじゃないかしら」
そんなに古かねーよ。
「そんな自由なのかよ。じゃあ、お前、例えば割り…」
「お前、ヤメロ」
女の子に睨まれると心が折れる。
「はい、サン様」
「よろしい」
「例えば、割り箸に化体したりもできるわけ?」
「あんたがインストールして、クラウドに保存してる私のログデータと同期させてくれればね。割り箸だからって間違えて捨てないでよね」
捨てねえよ。
「でも、割り箸はなんだか窮屈そうでやだなー。記憶チップも大して積めないじゃない。あと、電池容量が少なそう。ってか充電回数やばいよね。それに食事のときに使われたら汚れるし、それでアンテナに影響出て通信品質に影響が出るじゃん。さいあくー。まあ、持ち運びは楽かも知れないけどさ……」
サンは勝手にぼやいている。
「そんな…なんでも携帯になるわけ?」
「まあ、物体にはそれぞれ固有振動があるから。その振動を利用してで電力を生成して、通信するわけ。もちろん向き、不向きはあるけど大抵のものはいけるんじゃないかしら」
あ、そう…
相変わらずよく
コンビニはもうそこだ。
…
……
いや、
まてよ。
待て待て待て。
俺はここで超重大な疑問にぶち当たった。
物体にインストールして、データを同期して携帯として使う?
てことは…
「サン、」
「何?」
「その身体……誰のだ?」
サンはキョトンとした顔でこちらを見つめた。
キョトンとしたいのは俺の方だ。割と長めに尺を取ってキョトンとさせてもらいたい。
「誰の、ってわたしのに決まってんじゃん」
「いや、お前は携帯じゃないか。もし携帯機能をアンインストールしたらどうなるの?」
「そりゃ、無理だね」
「さっきの話からすると、無理じゃなさそうだろ」
「いやいや、規制があるからさ」
「規制?」
「人体に携帯をインストールした場合は、裁判所に申し立てしないと
「裁判所?」
「あ、てかそもそも人体へのインストール自体、情報通信産業省の完全監督下で行われるものだし」
「情報通信産業省?」
さっきから俺はオウム状態だ…。
「そもそもの話として、携帯通信用
「どうやって?」
「どうやって? 質問の意味がわからない」
「どうやって人体を作るのさ」
「細胞分裂させればできるじゃない」
あ!学校の生物で習ったやつだー……ってならねーな、これ。
どうも、こいつの話はわからん。
「昔はもっと自由だったんだけどね。記憶チップ自体はどんどん小型化されて…スクリーンの大きさは
はあ…
「でも、そうすると、アフリカとか東南アジアから女の子を買って来て、携帯機能をインストールする人たちが現れたわ」
「え?」
「だから、生身の、つまり人間から生まれた人間を携帯にしちゃったってことよ」
「えええ?」
「人間の欲望ってのはキリがないのよ。で、その人身売買を止めるために開発されたのが、人体栽培技術」
「栽培…」
「でもその後、過剰な生産を抑制するため、国際基準ができて、その後各国で即効立法がされたわ。だから、今はどの国でも、人体の生産、供給は国が一元化して、流通ルートは全て掌握することになっているわ。そして、加盟国同士の相互監察」
「監察?」
「まあ、昔は栽培された人体が兵器利用されていたから。それを防ぐため、国家間で手打ちしたの」
「…。なんか、戦場は無人化するとかなら、聞いたことがあるけど…」
「だって、無人機より壊しづらいじゃない。無人機と違って、通信越しに狙撃した相手が、やっぱり人間を殺しちゃったと思って、PTSDになるケースが多かったわ」
俺は唖然とした。俺の知ってる世界史と随分違う。
「正確には、『戦場に投入されたことがある』と言われている、ね」
「…」
「まあ、国家機密として運用されていたから、今でも正確な情報が開示されているわけではないわ…」
コンビニ駐車場のアスファルトが、嫌なほどに暑さを照り返していた。
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