37話「お昼」
「慈愛満ちたる聖なる福音よ……光となり生命の息吹なり……
「って……! お、おま! 俺を殺す気かよ! レベルが上がってなかったら即死レベルだったんだぞ! そもそも俺が死んだら、アリスだって無事で、すまねぇんだろ?」
「だ、だって……」
俺とアリスも再度、樹をよじ登った。
無論、俺が先である。
「まあまあ、ハジメ殿。これはエルフ族に伝わる秘伝の茶だ」
リシュアが満面の笑みで茶を勧めてくれた。
「う、うまい!」
「――ごめんね……ハジメ」
アリスはしゅんと肩を落とすと、ボソっと小声で呟いた。
なんだろ?
やけに素直だ。
いつもならもっと、噛みついてくるのに……。
何となく最近のアリスは、あまり元気がないような気がする。
「……わ、悪かったなアリス。俺も脳内で計画通りなんて、不純なこと考えていた」
「ううん。大丈夫だよ。ハジメ、本当にごめんね」
「まあ、とりあえずンンが作ってくれた弁当で昼食としようぜ!」
俺は背にしょっていたバックパックから弁当を取りだす。
「こ、これは……」
全員が目を丸くした。
弁当箱がぐしゃりと潰れている。
恐る恐る中身を確認。
「ああ……なんてこった……」
俺はため息を漏らす。
木登り時、背中から落ちたのが原因だ。
中身までがぐしゃりとつぶれている。
「わ、我の……海老サンドが……」
マリリンが海老フライを挟んだサンドイッチを、物ほしげな表情で見つめ呟く。
「まあまあ、形はどうであれ味は変わらないと思うぞ!」
リシュアが海老サンドを手に取ろうとした時。
アリスが回復魔法を詠唱した。
「慈愛満ちたる聖なる福音よ……光となり生命の息吹なり……
途端、サンドイッチの中で何かがうごめく。
サンドイッチを手にしようとしたリシュアは、小さく悲鳴を上げた。
パンに挟まれていた海老がアリスの回復魔法で、蘇生されたようだ。
ど、どんだけ……なんだ……アリスの回復魔法って……。
新鮮そうな海老がピチャピチャと跳ねまわる。
ぐちゃぐちゃになったサンドイッチは元通りにならなかったが、まあ……面白いと俺は思う。
えびの踊り食いになった。
「まっ、まあ……新鮮な海老も悪くないぞ! 割とイケるぞ!」
そう言いながらリシュアは海老をつまみ口に運ぶ。
マリリンは潰れたパンを口に挟んでいる。
「うわーん。みんなごめんなさーいっ!」
泣きわめくアリスだった。
昼食を済ませ、寝転んでるとマリリンが叫んだ。
「ハジメ氏、ここから見渡せる景色、とても綺麗ですよ!」
マリリンが見渡しながら感嘆の声をあげた。
「アリス、そう暗く落ち込むな、俺達もみてみようぜ!」
「う、うん……」
遠くの山脈がうっすらと浮かび、大きな湖が視界に入った。
俺達の住まいでもある魔城も小さく見えた。
気がつくとリシュアが隣に立っていた。
「ハジメ殿。あの山脈の麓には、ドワーフ族の炭鉱があるのだ」
「なるほどな。エルフや獣族もいる世界だ。きっとそうだろうと思ってたけど、ドワーフもいるんだな」
「我々、エルフ族とドワーフ族は犬猿の仲ではあるものの、長き年月の末、お互いを認め合ってる部分もあるのだ。あたしにも知り合いのドワーフがいる。そのうち紹介したいと思う。彼らは武具作成が得意であるから、ハジメ殿を初め、皆の装備もオーダーメイドしてくれる。良質な武具は冒険には欠かせないからな」
「ああ、たしかにリシュアの言う通りだ。魔城温泉の経営が軌道に乗ったら、ドワーフ族の炭鉱を訪れてみようぜ」
景色を眺めてると、小鳥たちが慌ただしく逃げるように飛び出した。
「もしかしたら、あの辺に狼がいるのかもしれないな」
俺の言葉に三人が頷く。
「よし、腹ごしらえもしたし、あの近辺の捜索をしてみようぜ!」
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