38話「化け物」
昼食を済ませた俺達は警戒しながら、更に森の奥へと歩を進める。
本来はリシュアの精霊召喚は魔物探知機にもなるとの話なのだが、魔剣の呪いで、やはり上手く召喚できないらしい。
突如、オオーンと狼の遠吠えが聞こえた。
身の毛のよだつ思いだ。
「ハジメ殿、小鳥どもが何かに恐れて飛び立った場所は……恐らくこの辺……」
そう言いながらリシュアが俺に振り向いた途端。
俺の眼前からリシュアが消えた。
リシュアは言葉途中で、激しい衝撃音とともに、吹っ飛んだのだ。
警戒する間もなくその直後。
陽射しが遮られ、俺の眼前に巨大な影が姿を現した。
「で、でかい……な、なんだ……この化けものは……」
眼前に5メートルは超えそうな巨人が佇んでいた。
緑色の肌。
顔の半分を占める巨大な一つ眼。
その眼がぎょろりと俺を睨んだ。
あまりにも異様な存在で、思考が追い付かない。
唖然としてる俺にマリリンが叫んだ。
「あわわ……ハ……ハジメ氏。こ、これは……キュクロプスです!」
「キュ……キュクロプス?」
「数多の巨人族の中でも闇の勢力に属す、凶悪な巨人族なのです!」
「ハ、ハジメ……リ、リシュアが……」
アリスとマリリンが眼前のキュクロプスを恐れ、俺にすり寄る。
キュクロプスの右手には、巨大なこん棒が力強く握られている。
その、こん棒は朱に染まっていた。
瞬時に血の意味を理解した俺は、叫ばずにはいられない。
「リシュアァァァァァァァァァァ!!!」
視線の先にリシュアを捉えた。
「――う、嘘だろ……」
リシュアは樹木に激突し、やつれたように項垂れている。
その姿は思わず目を逸らしたくなるほど無残で、残酷なものだった。
瞳には精気が感じられない。
だが、リシュアは生きていた。
苦痛に顔を歪め、せき込みながら吐血し、左腕は不自然な方角に折れていた。
俺が悲痛な想いに駆られていると、背後のアリスが叫んだ。
「か、回復するんだ!!!」
「ま、まてっ! アリス!」
アリスが必死に駆けだした。
――その瞬間。
イヤな予感が過ぎった。
「ア、アリス氏!」
マリリンがアリスの肩を掴もうとした。
しかし手は届くことなく空を切る。
アリスは一心不乱にキュクロプスの脇を抜けようとした。
――――その刹那。
キュクロプスが振り下ろしたこん棒はアリスを掠め、地面を激しく殴打。
アリスは幸い直撃を免れた。
しかしその直後、激しい衝撃波がアリスを襲う。
アリスは咄嗟に腕で顔を覆うものの、地面が隆起した反動で、足を取られ前のめりに転倒。
その後も勢いよくゴロゴロと転がり、動かなくなった。
キュクロプスの眼光は完全にアリスを捉えた。
キュクロプスはアリスにトドメを刺さんとばかりに、再度こん棒を振りあげた。
い、いかん! アリスが危ない!
俺は背にあるブロードソードを両手で握りしめ、巨大なキュクロプスの足に打撃を入れる。
硬い。
なんてもんじゃない。
打撃を加えるが刀身が軽くはじかれる。
それでも倒れて動かないアリスから、キュクロプスのヘイトを奪うため打撃を繰り返す。
「アリス!!!」
何度、叫ぼうがアリスはピクリとも反応しない。
だが、俺が生きてるってことはアリスも生きている。
アリスさえ無事ならパーティは瞬時に全開できる。
深手を負ってるようには見えないが、思いのほか衝撃が強かったのかもしれない。
ク、クッソ!
これじゃまるで、ねずみとゾウの対決だ。
「マリリンっ! こいつを眠らせてくれ!」
俺は後方のマリリンに叫んだ。
しかし返事がない。
防戦一方で剣を振るいながら、マリリンへチラッと視線を飛ばす。
「……な、なにしてるの? マ、マリリン!」
マリリンはガタガタと内股で震えていた。
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