29話「あつまれくん」

 リシュアが顔を赤くし怒りに震えていると俺は瞬時に察した。


「まあ、リシュア。気にするな」

「し、しかし……」

「単なるやっかみだ。美少女で実力者のリシュアが俺なんかのパーティに、いることが気に入らないのさ」

「ハジメ殿……あたしを褒めてくれるのは嬉しいが、ハジメ殿が軽く見られるのは我慢できませぬ」

「俺の方こそリシュアが憤りを感じてくれるのは嬉しいよ。でも、喧嘩になったら魔城の経営に差し支えるかもしれねぇだろ? 今は我慢してくれ、頼むよリシュア」

「ハジメ殿がそう言うのであれば……」

「とりあえず求人だしたら旨い飯でも食いにいこうぜ!」


 俺はリシュアの生真面目なところに、好感を抱いている。


「えーと報酬はどうしよっかな? リシュアこの世界って一月の生活費って、どれぐらい必要なんだ?」

「うーん。人によってまちまちだから、なんともいえぬが……ハーベスト村の面々なら銀貨1枚でも十分にお釣りがくると思う」

「じゃあ、銀貨30枚にしておくか?」

「!……30枚ですと?」

「部屋が満室なら日に300枚は硬いんだぜ? 今でも日に10名そこらは泊り客があんだろ? それに我が社は常人の三倍は働いてもらう事になる訳だしな」

「それでも破格の報酬だな」

「ああ、最初はちょっと大変だけどな」


 とりあえず俺は記入を済ませた。

 

 仕事内容:魔城温泉運営に関わる仕事全般。

 主な仕事:接客、掃除、調理、食材確保。

 報酬:月払いで銀貨30枚。

 

「あ~らハジメちゃん! やっぱり儲かってるのね!」


 冒険者ギルドのお姉さんが募集の用紙を見ると、恋人のように腕を組んできた。


「ハジメちゃんはそんなに稼いでどうするの? それに、これはなあに?」


 俺は募集と同時に宣伝のチラシの作製も申しでていた。

 そのチラシには温泉の他にも『回復魔法で怪我や病気を治療します』との一文も付け加えられている。


「アリスちゃんの回復魔法も商売にしちゃうのね?」

「あ、いえ……それは無料でやろうかと……」

「お、おい、いいのかハジメ殿。アリス殿には話してるんだろうな?」


 リシュアの真剣な眼差しに俺は平然と答えた。


「いいや……いま思いついた。心配すんなって、これはアリスの為なんだ」

「アリス殿の……?」

「ああ、一応、一日に3人までと書き加えておくか」


 リシュアはハテ? と、考え込んだが、深く言及はしてこなかった。


 求人もだした。

 後は求人を見て応募にきてくれる人を待つだけだ。


「安全そうな仕事で銀貨30枚だし、すぐに求人はくると思うわよ」


 冒険者ギルドのお姉さんに俺は満足な笑みを浮かべると、リシュアの手を引いて冒険者ギルドを後にした




 ◇◇◇




 その頃、魔城温泉ではアリスとマリリンの二人は応援スキルなしで頑張っている。

 ところが、相変わらず二人は部屋のシーツを交換しながら、不満を垂れてもいた。


「我もハジメ氏とともに王都へ向かいたかったのでございます」

「アリスもだよ~。そもそもアリスは労働には向いてないんだよ」


 くたくたの二人は並んでベットに腰を落とす。


「アリス殿はハジメ氏の世界に行ったことがあるんですよね?」

「うん」

「ハジメ氏の世界ってどんなところなんです?」


 マリリンは瞳をきらめかしアリスに訊いたのだが、アリスはハジメの世界で外に出歩いたことがない。

 知ってることと言えばハジメの家族や家の中のことだけである。


「ハジメの世界にはパソコンってのがあるんだ」

「ぱ、ぱそこん……? で、ございますか」

「でね……あの時のハジメの顔ときたらプププなんだよ」

「――はて?」


 アリスはあからさまに笑いを堪える。


 血相かえて『バ、バカッ! ふ、封印を解くんじゃない』って、ハジメが慌てたんだ。でね……アリスが封印を解いたら……」

「な、なるほど……」

「アリスのほうがびっくりしちゃったんだよ」

「まさかハジメ氏にそんな趣味があったとは……驚きました。我もハジメ氏の世界に行ってみたいです。行く方法があればなんですが……」

「ハジメが帰るまでもうちょい頑張ろうか、マリリン」

「そうでございますね。アリス氏」


 二人の仲が深まりつつあるのであった。

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