第四章

28話「賞金首」

 翌日。


 俺はリシュアを伴って王都の冒険者ギルドに久々に顔をだした。

 アリスとマリリンは人手として魔城に残してきている。


「あら、ハジメちゃんじゃない? それにリシュアちゃん……?」


 俺に愛想よく声をかけて来たのは、厳しい誓約書を突き付けて来た冒険者ギルドのお姉さんだ。


「聞いたわよ、魔城の地下に温泉があるんだって? お姉さんをご招待してくれないかしら?」

「もちろん、いいですよ」


 冒険者ギルドのお姉さんの耳まで評判が届いてるのは嬉しい。

 俺は笑顔で答えた。

 

「リシュアちゃんも、相変わらずハジメちゃんと行動を共にしてるのね。魔剣を使う事を禁じるお達しを伝えたけど、わたしの本意じゃないから勘違いしないでね」


 周囲の冒険者がリシュアが来訪していることに、気がついたようだ。

 自然と冒険者が集まってくる。

 凄い人気だ。

 S級冒険者ってのもあるが、エルフの少女ってのも一役買っているのだろう。

 俺の存在など、一瞬で霞んでしまった。

 リシュアも仲の良かった冒険者達と、久々の会話を愉しんでるようだ。


 その間、俺も久々に冒険者ギルドの掲示板へ目を通した。

 すると。――ん?

 冒険者ギルドの通常クエストは別に、見慣れないものが張り出されていた。


・白竜姫ミーシャ 金貨1000枚

・竜軍司令雪狼フェリエル 金貨80枚

・竜軍参謀ドロシー 金貨70枚

・竜王の台所ゴブゴブ 銀貨80枚

・亡国の骨王子ホネホネ 金貨2枚

・石頭のガーゴ 銀貨80枚

・安眠枕のライム 銅貨3枚


 これは賞金首なのか?

 人相書きのような挿絵も描かれている。

 白竜ってのはホワイトドラゴンのことじゃないんだろうか? どう見ても少女にしか見えん。

 しかも随分と賞金が高いんだな。

 ティモの借金など一発で返済できるじゃないか。

 でも……悪人って感じじゃないんだよな。

 安眠枕のライムってスライムなのか?

 後から知ったけど、この世界じゃ玉ねぎ型のスライムが主流らしい。

 あのドロドロしたのはスライムのよりも凶悪なアメーバーというらしかった。


「ハジメちゃん何見てるの?」


 冒険者ギルドのお姉さんが気がつくと隣にいた。


「この賞金首ってなんなんですか?」

「あ~これね、竜王軍の敗残兵よ」

「……竜王?」

「あら? ハジメちゃん達は知らなかったの? 王国軍は竜王軍に戦を仕掛けたのよ?」

「悪い人達なんですか? あんまりそんな風には見えなくて……賞金首ってことは犯罪者なんですよね?」

「王国が犯罪者として賞金を懸けたのは事実だよね。王国と竜王の間柄は今までずっと、友好的だったのに……どうしたのかしらね」


 冒険者ギルドのお姉さんは、張り紙を見ながら何やら考え込んでいる。

 無論、俺も気になったが、王都まで足を運んだ目的は求人を出すことだ。

 この国の諸事情に首を突っ込む余裕など今はない。


「お姉さん?」

「はい?」

「魔城温泉で働いてくれる人の募集をだしたいんですけど……」

「あら、人手が不足するほど儲かってるのね? 求人を出したいならこの紙に仕事の内容と報酬を記入して提出してくれたらいいわよ」


 ちなみに冒険者ギルドから雇用者の紹介があり、雇い入れを決めた時点で冒険者ギルドに雇用者に支払う報酬の10パーセントを、支払わないといけないらしい。


「記入が済んだらカウンターに持ってきてくれるかな?」

「あ、はい。よろしく頼みます」


 さーて、どうすっかな。

 求人募集用の用紙に書き込んでたら、リシュアが戻ってきた。


「すまぬなハジメ殿。ついつい話が長くなってしまった」

「ああ、別に気にすんなよ」


 俺がリシュアに笑みを送るとリシュアも微笑んだ。

 その直後、俺の耳にあからさまな罵詈雑言が聞こえた。


「あの少年って迷惑な爆裂魔法使いなんだよな。なんでリシュアちゃんが、あんなトンチキ野郎と行動を共にしてんだ?」

「あー、あの女神とか自称してた頭のおかしい少女がいる一団のリーダーか、リシュアちゃん、何か弱みとか握られてるんじゃねぇの?」


 エルフのリシュアは人間の俺よりも数倍耳がいい。

 リシュアの耳にも当然、俺やアリスをバカにする声が当然届いている。


「ぬ、ぬうううう……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る