27話「社長」
数日後。
村長さんが100人ほどの大所帯で魔城温泉まで訪ねてきてくれた。
村の人口は200ちょい。
約半数の村人が温泉を愉しみに来てくれたことになる。
「おお、いい湯だ! 仕事の疲れも吹っ飛ぶな」
男湯、女湯など隔てる壁もない。
大理石の大浴場だ。
なので交代で湯を愉しんでもらった。
ことのほか評判もいい。
多くの村人が大満足で帰って行った。
「おっしゃー! まずは大成功だ!」
俺は満足な笑みを浮かべた。
夕方になると出現できるのかティモが姿を見せた。
「調子はどうじゃハジメしゃちょー」
社長? ああ、そうだった。
一応、俺の立場は便宜上、温泉を経営する社長という立場になっている。
もちろん、社長なんて言葉は亡霊少女は知らない。
俺の元の世界では、経営者は社長と呼ぶのだと冗談で言っただけだ。
「まあ、上々の滑り出しさ。今は村人しかこないけど、これから賑やかになっていくと思うぜ? それに宿泊もできるように、部屋の掃除も進めている。泊り客に料理も振る舞えるようになれば、そこそこの稼ぎになると思うぜ」
俺は温泉の入浴だけなら銅貨3枚と価格設定した。
泊りは銀貨1枚。
今のところは料理まで手をつけられそうにないが、魔城には寝泊まりできそうな部屋が300を超える。
連日、満員だと一日当たりの売り上げは銀貨200枚以上だろう。
ちなみにこの世界での貨幣は銅貨100枚で銀貨1枚。
銀貨100枚で金貨1枚だ。
上手く軌道に乗れば単純に、一日金貨3枚を稼げる計算だ。
それだと一年かからずに金貨800枚貯まるだろう。
大繁盛した場合の話ではあるが。
「入浴料をもうちょい値上げできんのか?」と、ティモが言う。
「入浴料は安くてもいいんだ。ハーベストの村の者はタダだろう? それに遠方からくる者たちは、ほとんどが泊りだと思うぜ? 入浴料を破格の設定にしてるのは宣伝の為でもあるんだ」
「うむむ。妾には良く分からん。しゃちょーに一任するだけじゃ」
初登場時は「うふふ」と、不気味な笑みをこぼし、首まで床に転がってみせたティモであったが、経営に関してはちんぷんかんぷんらしく、素直に俺の言う事に頷いてくれている。
◇◇◇
村長さん達が村人を引き連れて訪れた日より、二週間が過ぎようとしていた。
この頃になると物珍しいものでも見に来たように、王都から足を運んでくれる観光客が日増しに増えて来た。
しかし、その頃になるとリシュアはともかく、アリスとマリリンが不満の声をあげ始めた。
「いいよね……ハジメはさ。応援スキル使ってるだけだから」
「ハジメ氏が羨ましいです。我など寝る間も惜しんで掃除や洗濯の日々を送ってます。ハジメ氏のような昼寝スキルがあればと思う次第です」
その不満は日々加速する。
「もうう、アリスは掃除ばかりイヤだよ~」
「我もこれ以上寝不足が続きますと、自らの眠り魔法で永遠の休眠を頂こうかと考えておりまする」
アリスとマリリンの不満と比例して日々忙しくなっていく。
いくら3人に応援スキルで無理を強いても、限界はおのずと訪れそうだ。
人手が足りないな。
「求人でも出すことにするか」
俺の言葉に一同が注目する。
「これ以上、忙しくなると、どうにもなんないだろ? 人を雇うのさ」
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