26話「吸血鬼のティモ」
翌日の朝。
昨晩、現れた吸血鬼少女ティモには断固、金などないと突っぱねた。
そして明朝には出ていくとティモに告げると、偉そうな態度が一転し泣きついてきたのだ。
詳しく話を聞くと100年前も魔王はあっさりと倒されてしまったらしく、ローンの返済が200年分(2回分)滞ってるらしい。
まあだからと言って、俺にティモを助ける義理などないのだが、リシュアの魔剣に呪いをかけた魔界皇帝の居場所を知ってると言いだしたのだ。
そこで魔界皇帝の居場所を教えるから、借金返済を手伝ってくれと懇願された。
さすがにすんなりと亡霊少女も教えない。
少しでも借金返済の見通しが、つきそうになったら教えるとのことだ。
胡散臭いとも思ったが、ティモと魔界皇帝が交わした契約書を、リシュアと昨晩覗きこんだ。
そこには金貨12000枚の貸付人の名前に魔界皇帝とあった。
以前王都のダンジョンの最下層にて出会った邪神メフィローネは、魔界皇帝の呪いだと俺達に教えてくれていた。
どうやら嘘ではなさそうだ。
そこで俺は地下の温泉を解禁し、観光地にしたらどうだと提案したのだ。
ちなみにティモは陽の光が苦手らしく明るい時間には出没できないらしい。
そんな訳で夜明けとともに消え去った。
で、俺達は揃って厨房で朝食を囲っている。
「ねえ、ハジメ。アリスは何も聞いてないよ?」
「そりゃあ、アリスは寝てたからな……それにしょうがないだろ? さすがに根なし草って訳にもいかないしな」
昨夜の亡霊騒ぎでマリリンが俺の部屋へと押し寄せたのは、有耶無耶になってほっとしている。
「しかし……ハジメ氏。我は亡霊が恐ろしくてたまりません。ふかふかベットは諦めます。これならリシュア氏の住む樹の上の小屋の方が落ち着くと言うものです。とはいえ……リシュア氏の為です。仕方ありません」
「すまぬなハジメ殿。皆にも迷惑掛ける」
リシュアは寝不足でしんどそうだ。
その点、俺は昼寝スキルで15分寝て、スッキリするのはありがたかった。
「でも、これからどうするの?」
アリスがもぐもぐしながら俺を見る。
「まずは宣伝かな? ハーベスト村の村長さんに相談してみようぜ」
「おお! それは妙案だ! 温泉など王都にもない。皆も喜ぶだろう」
リシュアが手を叩いて褒めてくれた。
◇◇◇
俺達はハーベスト村へと訪れた。
小さな村落で村長の家はひと際目立ち直ぐに見つかった。
村長は白い見事な髭を蓄えた、絵にかいたような村長だ。
穏やかな笑みを浮かべ、プカプカと煙草をふかしている。
俺達は村長が入れてくれた茶を啜りながら、魔城の地下にある温泉を宣伝してくれと頼んだ。
「魔城の地下に温泉があったとは驚きじゃのう。しかし魔城となると、村の者は恐れてなかなかに近づけんだろうな」
「そこを何とかうまく言い繕ってもらえないでしょうか?」
「ふ~む」
村長は難しい表情をしながらも思案してくれてる。
「もうすぐ村長選なのじゃよ」
日本で言うところの総裁選や、選挙のようなものだそうだ。
「どうじゃ、わしが一肌脱いでやる代わりに、村の者はタダにしてくれんかのう。貧しい村じゃ。温泉がタダとなれば村人も喜び、わしも村長選に勝てる。ダメならこの話はなかったまでじゃ」
そう言って、そっけない顔をする村長に、リシュアが噛みついた。
「そ、それでは我らは一銭たりとも儲からないではないですか!」
アリスもマリリンも村長の申し出に、明らかに困惑の色をみせている。
だが俺は違った。
むしろそれぐらいの条件、快く飲んでやろうと考えていた。
「リシュア、この村の人達だけタダって条件でお願いしようぜ!」
「な、なんと! ハジメ殿……しかしそれでは、ちっとも儲かりませぬ」
「それがそうでもないんだよな」
「ほう……」
俺の言葉に村長がニヤリと笑みを漏らし、感心を示した。
「若いの、よーわかってるのう」
「村長さんが言うように俺たちが宣伝したところで、来客は見込めないだろう。ヘンな吸血鬼まで住み着いてんだ。それなら村人にタダで使ってもらい、口コミで宣伝してもらった方がいい」
農村のハーベスト村は王都との交易で生計を立てている。
村人たちが安心して温泉を愉しんでくれたら、その噂はおのずと王都までも広がり多くの観光客が見込めると、俺は考えに到っていた。
「じゃあ、村長さん。そんなこんなでよろしく頼むよ」
「わしの方も願ったりかなったりじゃて、若いのよろしく頼むぞ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます