25話「ぼったくり」

「慈善事業じゃないですのよ。料金はちゃんと払って頂きますわよ?」


 借金で首が回らないのは嘘ではないようだ。

 世界を救った俺であったが、魔王を倒したことにより救われない者も蔭にはいるのだなぁと。


「急にそんなこと言われてもなぁ……」

「4名様一泊分で金貨400枚ですわ」


 それって一人頭の宿代が金貨100枚じゃねぇか。

 この世界の貨幣価値の基準が曖昧な俺でも、ボッタクリだと容易に想像がついた。


「そんな金持ってる訳ねぇだろ?」

「うふふ、王様からたんまり恩賞を、貰ってるんじゃなくって? 嘘なんてついてもお見通しなのよ」


 どうしたものかと考え、お金を入れてる袋を取り出して、中のコインを取りだした。手のひらに銅貨が3枚、ポロっとこぼれた。


「色々訳ありで、これが俺達の全財産なんだ」


 亡霊少女が俺の手のひらを覗きこもうとした瞬間、マリリンが絶叫をあげた。


「きゃああああああああああああああああああああああああああぁぁぁ!!!」


 さすがの俺も度肝を抜けれるほどのビビった。

 背後から聞こえたマリリンの悲鳴にも驚いたが、亡霊のような少女の首が胴から離れポロンと床に転がると白目をむいたのだ。


「う、うふふ。失礼。あまりのことに気が動転し、首の付け根が緩んでしまいましたわ」


 亡霊少女は生首を拾い上げると元の場所へ嵌めこんだ。

  

「ゆ、ゆるんでしまったって……どんだけふざけた構造してんだよ! なあ、マリリン? ……って、お、おい!」


 マリリンは今ので気を失ってしまっていた。


「ああ、困りましたわ……まさか、あなた達がこんなにも貧乏だったなんて……どう責任とって頂きましょうか」

「せ、責任……?」

「不法侵入した挙句、エッチなことしようなんて最低ですわね……その上、お金がないなんて救いようがないですわ」

「つーか……借金っていくらあるんだ?」

「君の目は節穴なの? ここに書いてるあるでしょ! 金貨400枚よ……」


 そう言いながら先ほどの契約書を再度、俺の眼前に突き出してきた。

 よくよく見てみると1回の返済金額が金貨400枚。

 つまり魔城建造にかかった費用は、30回払いだと金貨12000枚と言う事になる。


「おぃ、亡霊……」

「亡霊呼ばわりなんて失礼ですわ。妾はそんな下等な存在ではありませんことよ。こう見えても吸血鬼。妾の名はティモ。ちゃんと名前で呼んでくれないかしら? うふふ」

「まあ亡霊じゃないのはよーく理解したけど、借金全額負担させようなんて、どんだけ悪徳なんだよ!」


 亡霊というより金の亡者と言ったところか。

 相手にするのがほとほとバカらしくなってきた。

 そんなタイミングでドンっと勢いよくドアが開く。

 部屋に飛び込んできたのはエルフの魔剣使いでもあり、精霊召喚を得意とするエレメンタルマスターのリシュアだ。

 リシュアもネグリジェで姿であった。

 リシュアって華奢だと思ってたが、着やせするタイプなんだな。

 でるとこはしっかりでてるじゃないか。


「ハジメ殿っ! マリリンの悲鳴が聞こたぞ!」


 リシュアは慌てた様子で、マリリンの元に駆け寄り揺さぶる。


「マリリン大丈夫か? む? ……返事がない、まるで屍のようだ」

「リシュア心配するな。マリリンは気を失ってるだけだ」

「もしやこの者に何かされたのでは?」

「されたつーか、なんつーか。直接的には何にも……」

「ハジメ殿、なに、ぼんやりしてるのです! 気は確かなのですか! ぬっ? しまった。魔剣がない。とってまいる!」


 リシュアは吸血鬼ティモを睨むと、慌てて魔剣を取りに部屋へと戻った。


「ふうう……」

「なんて慌ただしい方なのでしょ。魔剣ってあれかしら。うふふ」


 ティモと名乗った吸血鬼、亡霊少女が冷やかに笑った。

 再度、ドアが乱暴に開く。


「妖魔め! 魔剣の錆にしてくれる!」


 俺は剣呑な表情のリシュアを落ち着かせた。


「リシュア、慌てるな! この子は敵じゃない。借金で首が回らない哀れな少女なんだ」

「意味がわかりませぬ!」


 俺はリシュアに今までの経緯を話した。


「なるほど……借金を苦に自殺し亡霊になったんですか……」


 ちょっと違うけど、まあいいだろう。

 リシュアが憐れみの目で吸血鬼ティモへと振り返った。


「ちょ……ちょっと……リシュアさんっておっしゃいますの? そんな憐れみの目で見るなんて失礼じゃございません? いえ、そんなことよりも、その魔剣を持っていって、よく無事でいられましたわね」

「無事ではない。ハジメ殿のパーティにいなければ、今頃どうなってたか分からぬ」

「まあ、そんなことよりも魔剣のレンタル料は、金貨400枚ってとこかしら? うふふ」


 ティモは机にある紙とペンを手に取るとカキカキ始めた。

 宿代と魔剣の使用料を含め、金貨800枚の請求書だった。


 俺はヤレヤレ気味に、「どんだけがめついんだよ……」と、溜息をついた。

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