24話「ゴスロリ少女」

 夕飯を済ませた俺たちは、それぞれの部屋へと向かった。

 隣の部屋はアリスの部屋であり、リシュア、マリリンと横並び。


 掃除の際にリシュアがタンスやらクローゼットを物色しまくり衣類品を用意してくれたおかげもあって、俺たちはありがたくパジャマを拝借させてもらっている。


 ふかふかベットも埃ぽくなく、どんな掃除のテクニックを使ったのだろうか。

 窓から月明かりが射し込む中。

 さて、寝るかと瞼を閉じた頃。

 コンコンとドアをノックする音とともにマリリンの囁き声が聞こえた。


「ハジメ氏、起きてますか?」


 マリリンは身長が極端に低く、俺の胸辺りまでしかない。

 必然と上目遣いになる。

 

「どうしたんだい?」 

「ん~なんだか寝付けないのであります」

「だったら得意の眠り魔法で寝ればいいんでないの?」

「ハジメ氏がおっしゃることはごもっともなのですが、血が薄まっているとは言え我は淫魔族の末裔。その血が騒ぐのでしょうか? ところで少々態度がそっけない気がするんですがハジメ氏は我がお嫌いなんですか?」

「そんなことはないけど……」

「我は今夜の為にハジメ氏のベットは特に念入りに掃除したのであります」


 日も浅いと言うのにこの積極性。一体なんなんだ。

 好意をもたれるのは嬉しいよ……でもいろいろ何か違う気がしてならない。

 それに隣の部屋にはアリスもいるのだ。

 違う意味で身の危険も感じる。


「やはり……ハジメ氏はマリリンがお嫌いなようなのです……」


 煮え切れない態度をしているとマリリンがしゅんと落ち込んだ。

 う~ん困ったなぁ……。

  

「じゃあ、ちょっとだけ中に入るか?」


 ヤレヤレと思いながらベットに腰を落とした。

 マリリンはベットに座るとスリッパを脱ぎ、素足を子供のようにぶらんぶらんさせている。

  

「ハジメ氏!」

「……な、なんだい?」

「ちゅーしてくれませんか?」


 やはりそうきたか……。

 月明かりに反射するマリリンの琥珀色の瞳。

 とても魅惑的だ。いかんいかんと、頭を振った。

 

「……ダメでしょうか?」

「あ、いや……ダメってゆーか。マリリンはどうして俺と、ちゅーしたいんだい?」

「先日の告白、ハジメ氏はお忘れになられたのでありましょうか? マリリンはハジメ氏が好きなのであります!」


 そう言われてもなあ……。

 墓地での謎めいた舌打ちも気になるし、そもそも急展開すぎて頭が追い付かない。


 とはいえ……エロと理性のバトルは、エロに軍配があがった。

 ちゅーぐらい別にいいよな?


「んじゃ、ちょっとだけ……」

「あ、はい、なのであります」


 マリリンは俺を受け入れるように瞼を閉じる。

 ドキドキしながらマリリンに顔を近づけていると、突如、奇怪なうすら笑いが場を支配した。


「うふ。うふふふふっ」


 ――――ん? なんだ?


「マリリンなんか言ったか?」

「いえ、ハジメ氏じゃなかったんですか?」

「いや……俺は何も言ってないぞ……」

「……では、誰の声だったのでございましょう」


 まさかアリスが金属バットを持って棒立ちしてないよな。

 恐る恐る部屋の周囲を見渡すと、一人の少女が俯き加減で、亡霊のように佇んでいた。


「ぎぃ、ぇええ! だ、誰?」


 思わず悲鳴あげそうになったが。ぐっと堪えた。

 亡霊のような少女は、ゆらりゆらりと左右に振り子のように揺れている。

 少女は黒のゴシック調のドレスを纏い、黒髪にはヘッドドレスが飾られている。

 肌の色は原色のホワイトに限りなく近く、紅い瞳が血を求める吸血鬼のように血走ってもいた。


「は、ハジメ氏……ま、まさか……お、お化けでは…………きぃ、きゃぁぁ」


 悲鳴をあげかけたマリリンの口を、俺は咄嗟に塞ぐ。

 マリリンの悲鳴が、アリスとリシュアに届くと厄介だ。

 二人が駆けつけてくると、後々めんどうなことになる。


「……ハ、ハジメ氏は、お化けが恐くないんですか?」


 マリリンが震え声で俺に抱きつくと、手に力がぐっとこもる。

 本来の俺は幽霊やら亡霊の類は大の苦手なのだが、この異世界。

 スケルトンもいればゾンビだっている。

 恐くないと言えば嘘になるが、幽霊も魔物って感覚に近いものに脳内変換されていた。

 とりあえずマリリンを守らないとな。


「うふ、うふふ。君は先日、魔王を倒した少年のようね」


 亡霊のような少女の口から、大人びた言葉が漏れる。


「妾は、この魔城のオーナーよ。うふふ。あなた達、ここをモーテルか何かと、勘違いしてるんじゃないかしら」

「……も、もーてる? もーてるって何のことだ?」

 

 ボソッと呟いた俺の言葉をマリリンが補足した。


「ハ、ハジメ氏、モーテルとは……や、宿のことです」

「ああ、なるほど。つまり管理人のおでましってことなのか?」


 俺は亡霊のような少女を一瞥した。


「そうよ。あなた達、誰に許可をもらって泊ってるのかしら、うふふ」

「だってもう魔王はいないんだぜ?」

「だからといって所有者が魔王だなんて限らないでしょ? あなたが魔王を倒したせいで、こちらは借金の返済で頭を痛めてるのよ。この魔城を建造するのにどれだけの金がかかったと思ってるのよ」

「は、はあ……」


 気の抜けた返事をしながら、俺が亡霊少女の話に耳を傾けると。

 なんでも、この魔城は100年ごとに復活する魔王に貸し付けする予定で、三千年ローンの30回払いで亡霊少女が建てたものらしい。

 ところが今回の魔王は一銭も家賃を払うことなく、消滅してしまったとのことだった。


「そう言われてもなぁ……マリリン」

「あわわ……」


 マリリンはよっぽどお化けが苦手なのか、未だブルブルと震えている。

 その様子を見て苦笑いしてると、亡霊少女が辛辣な表情で魔城を建造したときの契約書を突き出してきた。

 その契約書には魔城の所有者名と、ローンの支払方法が明記されている。

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