30話「面接・前編」
夕暮れ時、俺とリシュアが冒険者ギルドに戻ると、早くも求人を見た者達から、「ぜひとも依頼を受けたい」との、声が上がってるとのことだった。
応募してくれたのは冒険者ギルドのお姉さんの話によると、元気な男の子と獣族の女の子の二名のようだ。
本当はもっと時間をかけて沢山の応募の中から選出したいのだが、アリスやマリリンの不満を考えると、そうも言ってられない。
主な仕事は接客と掃除で簡単だし、応募に来てくれた内の二名は可愛らしい女の子ときた。
怒涛のごとく応募が押し寄せても対処しきれないので、一旦募集を打ち切ることにした。
「3人とも帰らずに待ってるみたいだけど……どうする?」
冒険者ギルドのお姉さんが俺にそう伝える。
「なら、今からでも会ってみようと思います。面接用に一室お借りできますか?」
「二階の客室でどう? 今晩はどうせ宿泊するんでしょ?」
言われてみれば、もっともだ。
「じゃあ、それでお願いします」
直接、冒険者ギルドのテーブルを囲っても良かったが、採否の決定は各個人に伝えたいと考えた俺は、二階の宿泊用の部屋へ1名ずつ案内してほしいと、リシュアに伝えた。
面接官の経験などない俺は、ドラマなどで見た面接シーンを思い浮かべるしかない。
「そういや……採用の基準ってあんのかな?」
「ハジメ殿が気にいった者を選べばいいだけだと思う」
俺の言葉にリシュアが答えた。
実際、究極のとこそうなんだろうな。
俺は部屋にある机と椅子を動かし、対面で面接ができるように工夫する。
「まあ、こんなもんかな? 準備もできたし、呼んできてくれる?」
「誰から呼べばいいのだ?」
「誰でもいいよ」
最初に面接に訪れたのは、小生意気そうなガキんちょだった。
「オレ、カッツってんだ! よろしく頼むぜ兄貴!」
貧相な革鎧に身を包んだ栗色短髪の少年で、目つきの悪い。
12歳らしい。
初対面で兄貴呼ばわりか……なんとなくお調子者って感じがするな。
そう考えながら俺は適当に、質問してみることにした。
「えっと、そうだなぁ……志望の動機ってあんのかな?」
俺の質問はドラマの見よう見まねである。
求めてる人材は接客や掃除、将来においては調理もお願いできそうな者である。
「志望の動機?」
「ああ、何故、応募してくれたのかなぁって」
「んなもん決まってるだろ! 兄貴のパーティだ! しかも兄貴のパーティにはS級冒険者のリシュア姉ぇもいるんだぜ? これ以上、オレの野望を達成するのに都合のいいパーティなんて他にないだろ!」
目をギラギラさせ胸を張る少年を見ながら、俺は深くため息をついた。
この少年、ちゃんと仕事内容を見たのだろうか?
魔城温泉の求人であって、そもそもパーティの募集ではないのだ。
「兄貴、なに溜息なんてついてんだよ。オレは役に立つ男なんだ。パーティに誘っておくれよ」
「ちゃんと張り紙、読んだのか? これはパーティの募集じゃないんだぞ? 魔城温泉の経営に、携わってくれる人材の募集なんだよ……」
俺は張り紙をカッツに見せ、ここ読めという感じで指で示した。
「オレは全然構わないぜ? パーティに入れてくれるなら雑用でもなんでもこなしてやるさ」
「そう言われてもなぁ……掃除や洗濯なんてできるのか?」
「……将来、英雄志望のオレが? フッ、兄貴バカなこと言っちゃいけないぜ? 掃除なんかで英雄になれるわきゃーねーじゃん」
「なんでもこなすって言ったよな……その中には掃除も洗濯も含まれてるんだぞ。残念だけど今回は採用を見送らせてもらうよ」
俺はそう伝えると、隣で様子を窺ってたリシュアに目配せした。
「えっと……リシュア」
「はい」
「次の人、呼んでもらっていいかな?」
ヤレヤレと思いながら、リシュアに次の面接者を呼ぶように頼んだ。
「ちょ……兄貴! オレの面接、まだ終わってねぇだろ!」
カッツは頑として、その場を動こうとしない。
「オレは兄貴が、ウンと頷くまで、ここを動かねぇぞ!」
困ったなあ……。
「ハジメ殿っ!」
「ん? なんだいリシュア」
「この子はどんなクラスについてるのだ?」
俺は応募用紙に目を通した。
名前:カッツ
種族:人間
年齢:12歳
クラス:シーフ
自己ピーアール:カッツと呼んでくれ! よろしく!
「えーと、クラスはシーフって書いてあるな」
「ほう、シーフなのか」
「おう、オレはシーフなんだ宝箱の罠の解錠やギミックの探知はお手の物なんだぜ!」
「ハジメ殿、シーフは使えるクラスだぞ!」
リシュアは瞳をきらめかせ、そう言うが、俺が求めてる人材とはかけ離れている。
たしかにシーフは使えそうではあるのだが……いかんせん性格に難なりそうだ。 俺は深く考えてるフリだけした。
リシュアにも悪いけど断固、断るつもりだ。
「たしかにシーフは役に立ちそうだな……だが…………」
俺の言葉にカッツが食いついた。
「――ってことは兄貴?」
「ああ、やっぱ……今回は見送らせてもらうよ」
「えぇぇ!!! な、なんでだよおおおぉぉぉ!!!」
「掃除や洗濯ができないんじゃ、困るんだ。まあ、そう落ち込むな。また機会があったらよろしく頼むよ」
にへらと笑みを浮かべ、俺はカッツの肩にポンと手を置いた。
あれだけ頑なだったカッツだったが、不思議と素直に退出して俺もリシュアも呆気にとられた。
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