20話「神属性」

「ハジメ殿! 大変ですぞ! 今の回復魔法の余波で墓場の死人がアンデットとして復活したようだ」


 リシュアが魔剣を構え、全員に注意を促した。


「って……マジかよっ! 回復魔法っていや、アンデットに対して、ダメージ与えるのがデフォだろ!」


 俺の叫びにアリスが瞬時に反応。


「アリスの回復魔法は、神属性なんだよっ!」

「神属性ってなんだ? んなもん、聞いたこたーねーぞ!」


 どうやらマリリンの治癒を遠隔でしたことによって、その余波が波紋のように広がり、中途半端にアンデットとして復活させてしまったらしい。


 この墓地にはおよそ、100人ほど埋葬されてると聞いていた。

 ところが、復活したアンデットの数は300を軽く超えそうだ。

 所狭しとアンデットが地面より、モコモコと這い出してくる。


「て、敵……増やしてどうすんだよっ!」


 俺は狼狽しながらアリスを見た。

 何故だかアリスは不機嫌そうに頬を膨らましている。


「では、我が再度、究極の眠り魔法をっ!」

「あ、まて、マリリン。この状況でお前らが寝た後に、また何かあったら対処しきれん。ここはひとまず逃げよう」

「しかし、逃げると言ってもこの数だ。たやすく逃げ切れないぞ。それにこれだけのアンデットを蘇らせてしまったのだ。このアンデットどもが近隣の村々を襲うやもしれん」


 たしかにリシュアの言う通りだ。

 討伐依頼を受けたにも関わらず、魔物の数を増やした挙句、逃げ帰ったとあっては今後のクエストの受注にも影響を及ぼしそうだ。


 爆裂魔法なら300体ほどのアンデットなど瞬時にイチコロだろうが、しかしそれでは墓石まで破壊してしまう。


「アンデットを消し去るような魔法はないのか? アリス?」

「アリスは回復魔法しか使えないんだよ」


 となると。

 リシュアの魔剣の力に頼るほかない。

 

 とはいえ。

 全てをリシュアに押し付けるのはあまりにも酷だ。

 リシュアなら快く了承してくれるだろうが、魔剣を振るうと加速して魂が削られる。

 リシュアが苦痛で顔を歪める姿を見たくはない。

 そしてリシュアが俺に指示を仰ぐ。


「ハジメ殿、どうするんだ?」


 アリスとマリリンは次々と地面から這い出るアンデットに戦慄し、膝がガクガクと小刻みに震えている。

 俺たちは完全に包囲されていた。

 一か八かだ。

 俺は全員をかばうように両手を広げた。

 そしてトリックスターのスキル。

 ルーレットを発動させると全員に伝える。


 クラスチェンジして得たトリックスタースキル。

 ルーレットは、攻撃対象に数ある中のデバフをランダムに与えるものだ。

 今はまだLv1だが、使えば使うほど経験値は蓄積されている。

 

「だ、だいじょうぶなのでしょうかハジメ氏。それよりはまだ、我が眠り魔法のほうが……」


 マリリンが心配そうに俺を見る。

 アリスからちょっとした皮肉めいた言葉を吐く。


「ネタスキルでも逃げるチャンスぐらいはできるかもだよ」


 頼もしいのはS級冒険者のリシュアだけだ。


「いざとなれば、あたしの魔剣の餌食にしてくれようぞ!」


 俺がルーレットを発動すると、スケルトンどもは腹を抱えて笑いだした。

 真夜中の墓地にカクカクと顎を鳴らす音が響き渡る。

 なんとも不気味だ。


 腹を抱えて地面を叩くスケルトンもいれば、空洞の目に涙を浮かべてるかのようなスケルトン。

 俺達は唖然とした。


 俺は己のスキルがバカにされてるようで不機嫌になる。

 こんにゃろー! みてろよ!

 再度スキルを発動させた。

 一呼吸さえおけば何度でも試みることができる、謎スキルでもあるんだ。


 途端、バカ笑いしてたスケルトンどもが静かになった。


「ハジメ氏。石化してカチコチですよ」


 マリリンが杖の先でスケルトンをコンコンと、叩いて確認する。


「おお! これならば近隣の村や人々が襲われることもない。さすがハジメ殿だ。……しかしスケルトンのオブジェクトか……なんともおぞましい光景だな」


 リシュアは一瞬、眉をひそめたものの感心したとばかりにハジメを褒めた。


「へへん! どんなもんだい。すんげぇだろ。なあアリスもそう思っただろ?」

「どうしたんだアリス?」

「ハジメの脳内はいつもエロゲーのことばかりなんだね」

「な、なんだ? ヤキモチなのか?」


 俺もあれはまずかったと今更ながら反省している。

 しかし何だろう……淫魔族の少女(少女は見た目だけ)ってだけで、魅了されたように自制が利かなくなる。(言い訳)なんだろうか。


 冒険者ギルド発行のプレートは一応、完了済みの文字が浮かび上がっていた。


「我は、お腹が空きました」


 全員がマリリンの言葉にうなずいた。

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