第三章
19話「真夜中のギルドクエスト」
闇夜の中。
月明かりが一人の少女を照らしていた。
その少女の名はマリリン。
漆黒の衣装を纏う琥珀色の瞳の魔女っ子だ。
◇◇◇
「我が最強の眠り魔法で永久の床に尽きし、アンデットどもを思う存分懲らしめるのです!」
古びた墓地にてマリリンがそう叫ぶと呪文を詠唱した。
「太古より眠り姫たる乙女よ。我との盟約に応じ、この者たちを永遠なる夢見の時に封印せよ!
俺とマリリンの周囲にいた5,6体のスケルトン型のアンデットがバタバタと倒れ、最後にマリリンも己の魔術で眠った。
俺達のパーティは真夜中になると、墓場を徘徊すると噂されるアンデットの討伐依頼を受けて来たのだ。
マリリンの眠り魔法は強力で効果範囲も広い。
なので、マリリンの眠り魔法に対し耐性のある俺だけがマリリンに付添い、アリスとリシュアは、およそ100メートルほど離れた場所で待機している。
「おーい! アリス、リシュアもう大丈夫だぞ~!」
遠くに待機してる二人に呼びかけた矢先、悲鳴があがった。
「きゃああああああ……い、痛いのです……」
マリリンの悲鳴?
マリリンに視線を飛ばすと、新たなスケルトンが上半身だけ地面から這い出し、槍でマリリンを一突きしていた。
マリリンの衣装から血が溢れ、瞬時に顔色が青ざめていく。
「え、まじで……?」
仰天する間もなくスケルトンが、マリリンにもう一撃加えようとしている。
俺は上半身だけむき出しのスケルトンの頭部を、素早く足蹴り。
蹴られた頭部は、サッカーボールのように転がる。
頭部を失いオロオロとしてるスケルトンの槍を奪い放り投げると、マリリンを抱きかかえ俺は叫んだ。
「アリス! リシュア! マリリンが大変だ! は、早くっ! 回復魔法を!!!」
マリリンは口元から血を流し苦悶の表情でハジメに囁いた。
「ハァハァ……ハジメ氏。今までお世話になったのです。マリリンを外の世界に、誘ってくれて感謝してるのです」
「バ、バカ! 何言ってんだ? し、しっかりしろ! すぐにでもアリスが駆けつけてくれる!」
「あの世に旅立つ前にお願いがあるのです」
「な、なんだ言ってみろ?」
「我は……ちゅー、ちゅーと言う物に憧れてます。冥途の土産にハジメ氏。ちゅーしてもらえませんか?」
顔を赤く染めたマリリンの唇から、生温かい吐息が漏れる。
俺は冷静に考えていた。
仮にマリリンは死んでも、アリスの魔法で瞬時に蘇生されるだろう。
でも、折角ちゅーできるチャンスなのだ。
アリスにちゅーをされたことはあるが、あれは頬だ。
死にゆくマリリンの表情は、恍惚で麗しく色っぽかった。
「わ、わかった! ちゅー、ちゅーすればマリリンは満足なんだなっ!」
今にも息を引き取りそうなマリリンに、ちゅーしようとした唇を近付けるが。
俺とマリリンの身体が温かい光で包まれる。
「は、早くっ! ハジメ氏!」
マリリンが何か焦ったようにせかす。
「お、おう!」
ここで体育会系の返事をするのも、ヘンだと思ったが咄嗟にでたのは、「おう」だった。
マリリンが両腕を俺の首にまわしてくる。
「ハジメェェェェェェェェェェェ!!!」
アリスとリシュアが必死の形相で俺達の元へと駆け寄る。
「今、マリリンに何、しようとしてた?」
「あひ?」
「マリリンの傷はもう塞がってるんだよ」
マリリンが一突きされた胸部を俺は見つめた。
衣装は血で汚れているものの、血があふれ出てる様子がない。
「ちっ!」
……え? 何故だかマリリンが舌打ちした気がした。
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