6話「帰還」
「世界を救ったなんて実感はこれっぽちもないが、やったんだよな、俺達!」
「うん! ハジメのおかげだよ!」
「ところで魔王を倒した報告ってどこでするんだ? なんて言ったって俺達はこれから、しょっぽい装備と、しょっぽい小遣いもらってこれから旅立つ、しょっぽい勇者なんかじゃねぇもんな。既に世界を救った勇者。いや遥か遠い未来まで英雄譚として語り継がれる偉業を成し遂げたんだぜ!」
うひひ。ただのヒキニートな俺が世界を救った英雄になったんだ。
今後の好待遇をあれやこれやと想像しただけで、鼻血がでそうだ。
「ハジメ鼻血がでてるよ? おかしいな……アリスの回復魔法は最強なのに」
「これは気にすんな。男の勲章みたいなもんだ。で、どこで報告すんだよ? そんなに考え込んで? 王様とかじゃねぇのかよ?」
「へ~いろいろ詳しんだね」
「って……おい? 分かってなかったのか? こんな場合、王様か冒険者ギルドだろうよ。ところで王様のいる城ってどこにあんだ?」
「アリスはこの星の地上なら、どんな場所にでも瞬間移動できるんだよ」
「そりゃあ安上がりで便利だな。さすがこの星の守護女神様。回復魔法も最強で天然具合も最強。ちょっとばかり尊敬してしまいそうだ」
「ねぇ……ハジメ。そこはかとなくバカにしてるよね?」
「なーに、不貞腐れてるんだよ。あ、そうだ。報告の前に一旦家に帰って、ひとっ風呂浴びてすっきりしたいな。悪いけど家にテレポートしてくれないか」
「むううう、お風呂に入ったらすぐ戻って報告いくんだよ?」
「もちろんだとも!」
ぷくっと頬を膨らましながらもアリスは俺の手に触れた。
魔城の景色が霞んだと思った瞬間には、俺とアリスはカビ臭い部屋にいる。
◇◇◇
「またしても一瞬で俺の部屋じゃないか! 実はもう二度と戻れないとか、言い出すんじゃないかって、内心ちょっと心配してたんだぜ?」
そう言ってアリスへ振り向くと、ゲームパットが気になるのかしきりに弄っている。
「何してんだ? ゲームでもしたいのか?」
「……ハジメの封印魔法ってこの世界じゃ、げーむっていうの?」
ああ、そうだった。
この女神。地球のことは良く分かってないんだったな……。
しょうがねぇな。風呂入る前に教えておくか。
もうあんな切羽詰まった状況なんて、起こり得ないと思うけど、地球は我が故郷。
アリスにもそれなりに地球の知識があったほうが、俺も助かるだろうしな。
そう思いハードの電源とテレビの電源をONにする。
チャンチャチャチャンチャチャチャチャーン♪
オープニング音楽が流れタイトル画面が表示された。
えっと……たしかラスボス直前のセーブポイントがあったはずだ。
アリスはしかめっ面とも興味津々とも、どっちとも取れる表情でテレビと睨めっこしている。
-Lv99 勇者ハジメ
「これが俺のマイキャラなんだぜ?」
「まいきゃら?」
「平たく言えば俺の分身だ。まあ見てなって!」
途中に出現するモンスターを、なぎ倒す度にアリスはいちいち大げさに驚く。
「ねぇねぇ、ハジメ。今の魔物もこの中に封印されてたの?」
こりゃあラスボスよりも手ごわいな。
「アリスは物事の根本から大きな勘違いをしてるんだぜ? そもそもこれはテレビって言う家電製品の一つで、封印魔法なんかじゃない。人類が生み出した叡智とでも言えばいいのかな」
アリスの表情が余計に困惑した。
困ったなぁと思いながらもゲームを進めると、ラスボス部屋まで辿り着いた。
「わあああ! 大変だよ、ハジメまた魔王が復活しているよ!」
「なーに心配するなって、まあ見ときな」
カチャカチャとゲームパットのボタンを連打し、大技を繰り出す。
「貴様が……かの伝説の勇者であったとは……不覚であった。だが、我が魂は決して潰えはせぬ。さらばだ勇者。100年後……貴様の子孫を蹂躙してくれようぞ……グハッ!」
魔王が消滅した。
「ほらな、楽勝だろ? って……アリス。なに、プルプル震えてんだ? トイレでも我慢してるのか?」
「ち、ちがうよ……。アリスにもなんだかわからない。わからないけど……沸々と感情が込み上げてくるんだよ」
「沸々って……」
アリスはなんとも掴みどころのない、悩ましい表情だ。
「わ、悪りぃ……俺ちょっくら風呂入ってくるわ……ってなにつかんでるの?」
「ハジメって……この世界の勇者じゃなかったの? アリスは何かとんでもない勘違いしてた?」
「なんつーかアレだ。俺はこの世界で勇者に憧れてるゲーマーだ。でもまあ無事魔王を倒せたんだ。結果オーライじゃないか」
コンコン。
ドアを叩く音がした。
「おにぃちゃん! 誰かいるの?」
「うわっ! こりゃやべーぞ! こんな時に使途襲来か!」
「お、おいっ、アリス! このベットの下に隠れろ! 妹だ!」
「え、え? なあに?」
「いいから早く!」
「ちょ、ちょっとハジメムリだよ!」
無理やりベットの下に押し込むが、鎧やら剣やらが引っかかって押し込めない。
俺もこの世界じゃあり得ない格好だし、アリスの衣装は正直エロい。
こんな状況見られでもしたら大変な誤解を受け、俺は一生やつの財布の紐だ。
「おにぃちゃんドアあけるよ」
ドアノブに飛びついたのだが一足遅かった。
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