7話「俺の妹が……」

 ドアが開く。


「あ、バカっ! 勝手に開けるな! って……遅かった」

「あれ? 何その格好? それに誰なのあの子?」


 ワンピース姿の妹の視線は、一瞬でアリスを捉えた。

 万事休すか……。


「女神アリスティアだよ」


 アリスは微動だにせず、平然と自己紹介をした。


「え! 嘘~! もしかして……この子。話題になってる女神様?」


 妹は口を塞ぎ驚いてる。


「あ、そっか……あんだけテレビで騒いでるんだ。知ってて当然か。つーか受け入れはえーな」


 妹はどたどたと俺の聖域に不法侵入すると真っ先にアリスに飛びついた。

 その瞬間、「パキッ」と、イヤな音がしたので、妹の軌跡を追ってみると……。

 お、俺の……寒空行列で鼻水流しながらやっとこ手に入れた、エロゲーのパッケージが、儚くも粉砕されていた。


「おにぃちゃん! この子、凄く可愛いね! 髪色なんて……自然な桃色だし、瞳も宝石みたい!」


 ――――ああ、俺の大切なコレクションが……。


「おにぃちゃん聞いてる?」

「あ、ああ、あんま口外すんなよ。報道陣やら押し寄せて来たら、大変なことになるんだからな……」

「私はそんなバカじゃないよ! ヒキニートのおにぃちゃんとは違うんだから!」

「あー、はいはい……。ユイ、俺はちょいと風呂ってくるわ……後よろしくな」

「あ、おにぃちゃん!」

「な、なんだよ……?」

「その鎧。全然似合ってないよ!」

「う、うるせー!」




 ◇◇◇



 

 ボロボロの鎧を脱ぎ棄て、俺は風呂に浸かってる。

 一時はどうなるかと思ったが、ある意味理解ある妹で助かった。

 とりあえず王様に会うから、すっきりしておしゃれしなきゃな。




 ◇◇◇




 夕方。

 俺達は夕飯で食卓を囲んでいる。

 なんだかんだでアリスは、一晩泊ることになった。

 

「アリスちゃんは今晩、泊って行きなさい」


 俺の母だ。無論、アリスは妹の部屋に泊る。

 親父が、ぷはーっと、アルコールの入ったジョッキをテーブルに戻すと


「へ~アリスちゃんはテレビで話題の女神様なのか。いやはや驚いたよ。アリスちゃんが我が家にいたら、ワシも女神様の恩恵で出世できるかな。わっはっは!」


 ……ってどんだけ、理解力たけーのかよと、突っ込みたくもなる。

 だが、この状況は俺にとって幸いじゃないか。


「パパ聞いた? ヒキニートのおにぃちゃんが勇者なんだって。世も末だよね~」と、妹のユイが厭らしい笑みをこぼすと、続けざまに「おにぃちゃんってヒキニートの癖に、コミュ力はそこそこあるのが不思議なんだよね……ただスケベだけど……」と、フォローを入れたつもりなのだろうか?


 そんな中。

 アリスが屈託のない笑みで、俺の母を見つめながら


「これ、ハンバーグって言うんだね。とっても美味しいよ」

「アリスちゃん、おかわりは遠慮なく言ってね。いくらでも焼いてあげるから」




 ◇◇◇

 



 翌日の朝。


「おっし!」


 黒のジーンズに黒生地のデニムジャケットに着替えた俺は、再度アリスの守護星のユーグリットに旅立つ準備を整えた。

 

「ハジメ。気をつけていってらしゃい」


 俺の母だ。ヒキニートの俺が異世界とは言え、外に出るもんだから涙を流して喜んでいる。

 

「いいな~。私も学校なかったら一緒に行ってみたいのに」


 そう言う妹は制服姿。

 

「ハジメ。男ならビシッと決めてこい!」


 ネクタイをきゅっと締め、親父が満面の笑みを飛ばす。


「まあゲームみたいな世界だから、あんま心配すんなよな? もう魔王もいないんだ。異世界で何か土産でも買ってくるよ」


 昨晩。事情はおおよそ説明済みだ。

 

「ハンバーグとても美味しかったんだよ」

「アリスちゃんまた作ってあげるから、いつでもいらっしゃい。ハジメのことよろしくね」


 アリスはにっこり微笑むと、俺に視線を移した。


「ハジメ行こうか!」

「そうだな。じゃあ行ってくるよ!」

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