5話「究極の爆裂魔法」

 俺はレイピアを魔王に向け突進した。

 そうこれは夢だ。

 あまりにも現実離れしてるじゃないか。

 夢ならヒーローのように、土壇場で何かしらの力が覚醒する奇跡が起きるかもしれない。

 ところが俺の淡い期待など瞬時に粉砕された。

 魔王は軽々と俺の渾身の剣撃を受け止める。

 魔王にしてみれば受け止めただけなんだろう。

 しかしレベル差と言うものだろうか。

 俺は派手に後方に吹っ飛ぶと、魔城を支える円柱に激しく激突した。


 ぐわああああ!!!

 全身の骨が砕け血反吐を吐いた。

 ダメだ……異世界、舐めてた。リアルすぎる。

 

 ちょろいなんてことはなかった。

 魔王の強さは本物だ。


 ――――意識が薄れていく。し、死ぬ……。


究極回復魔法アルティメットホーリネス!!!」


 すかさずアリスが駆け寄って、回復魔法を詠唱してくれた。

 虫の息だった俺は瞬時にモリモリと全快。


「ハジメ!!! だいじょうぶ?」

「あ、ああ……何とかな……」


 アリスの回復魔法の威力に感動を覚えつつも、もうダメだと戦意は完全に消失していた。

 こりゃああ、何回やっても勝てる気がまったくしねぇぇぇ!!!

 もう逃げるしかない――――そうだ! テレポートがあるじゃないか!


「な、ア……アリス……もう死にそう……。ここはひとまずテレポートで脱出しよう。この世界に来た時のように、テレポートで瞬時に部屋に戻れるんだよな? おいっ!」

「だめだよハジメ。逃げるなんて!」

「なにこの状況で意地張ってんだよ! 見ただろ! 俺死ぬとこだったんだぞ!」

「意地なんて張ってないよ! ハジメ、どうして魔法で戦わないの? 魔王を封じ込めてたじゃない!」


 ――それってまさか。この期に及んでゲームに話か?


「も、もしかして……あの光る板がないと、封印魔法は使えないの?」


 ど、どんだけっ、天然なんだよおおおぉ!!!

 いや、違う。違うぞ……ちゃんと誤解を解かなかった俺のミスだ。

 恥を忍んででも、本当のことを言うべきだった。

 ああ、もう駄目だ。おうちに帰りたいよ。


「ハジメっ! だったら契約魔法を使うんだよ!」


 枯れかけた草のように虚脱状態の俺に、アリスがまたしても妄言を。


「……アリス様、何かおっしゃいましたか?」

「もう、しっかりしてよ! ハジメ! ――ほら……えっと、アリスと、ちゅ、ちゅーしたじゃないっ……ハジメにはアリスと契約した時点で、アリスの魔法とは真逆の力を秘めた、契約魔法が身についてるんだよ!」


 契約魔法って封印魔法の与太話とは別の話なんだろうか?


「……その、なんだ? 俺もアリスのように、魔法が使えるって意味なのか?」

「そうだよ!」


 なんだろう……この今更感……。


「ちゃんとアリスを守ってよっ! ハジメとアリスは一心同体、一蓮托生。どっちかが死ぬともう片方も死んじゃう、契約になってるんだよっ」


 どちらかが死ぬと二人とも死ぬ契約だって?


「契約って勇者なりきるって、意味じゃなかったのか?」

「ち、ちがうよ!」

「魔法を授けるための儀式なんだよ!」

「んなこと聞いてねぇぇぇぞ! ゴラァァァ!!!」

「だって! 言わなくてもわかってるって思ったんだ!」

「わ、わかるかよ! このオタンコナス!!!」

「あーひどい! 女神のアリスに酷いこといったああああ!」


 チートって言葉は通じなくても、オタンコナスは通じるんだな。


「わかった。もういいから早くその魔法の使い方を教えろ!」


 歩はゆるいが着実に魔王は剣を振りかざし、迫ってくる。

 距離的に10メートルほどか?

 

「いつまで、ごちゃごちゃぬかしている。我に恐れをなしたか? それとも逃げる算段か? 決して逃がしはせぬぞ!」


 アリスはそっと俺の胸に手を添えた。


「ハジメ、ここで聞くんだよ。己の魂に問いかけて!」


 ――――――――トクン。 

 脳裏に契約魔法の呪文が浮かんだ。

 な、なるほどな。


「他愛もない勇者よ。そして女神よ。トドメを刺させてもらうぞ!」


 魔王が鬨の声をあげ、弧を描き跳躍した。

 魔剣の剣先が俺達を襲う。


「滅べ! 勇者よ!」

「ハジメっ!」

「ああ! わかってる! 滅ぶのは俺たちじゃない! いっけけええええぇぇぇ!!!」


究極爆裂魔法アルティメットエクスプロージョン!!!」

究極回復魔法アルティメットホーリネス!!!」


 魔王の眼前に凝縮した光のエネルギーが集まると、瞬時にエネルギーが弾けた。

 眩しいほどの閃光と爆発が、跳躍中の魔王を襲った。


「バカな……我は……魔王ベルゼビュート……最も気高き我が…………こ、こんな矮小な……」


 魔法は究極の爆裂魔法であった。

 俺たちも爆発に飲み込まれる。

 だがアリスの究極の回復魔法で、ダメージは瞬時に回復する。

 爆発の中で肉体は破壊と再生を、幾度となく繰り返していた。


 魔王は塵のように消滅した。

 床に魔剣がカランと音を立て転がった。


「ふう……なんとか生き残れたみたいだな……」


 想像絶するチート級の破壊力だった。

 ――――だがアリスの回復魔法がなかったら、こっちまで爆発に呑まれ消し飛んでいたと痛感。


 ほっとし隣のアリスをみた。

 アリスも俺を見ていた。


「おっしゃあああ! 魔王を倒したぜ!」

「やったねぇ! ハジメっ! 世界は救われたよ!」

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