2話「素晴らしき世界!」
ふわっとした白い光に包まれると、俺は見知らぬ草原に立っていた。
透き通る青い空に美味しい空気。
そこらじゅうに巨大なキノコが生えている。
少なくとも日本の風土とは違うと肌身で感じるぞ。
「ここはユーグリットって世界なんだ。光側の神々が管轄してる星のひとつで、アリスが担当してる星なんだよ」と、にっこり。
「……っておい、俺の街が無残なことに……」
とまあ……思い悩んでいたのだが。
直後、アリスのお姉様よりテレパシーで連絡が入った。
『全て元通りだから安心してね。えっと……ハジメくんだっけ? 魔王を倒したらチャラにしてあげるわ。おバカな妹だけど、よろしくね!』
――全て元通りなら問題ない。
ならば、異世界ライフを楽しませてもらうとしよう。
「ここはもう日本でもなければ、地球でもないんだろ? 実際、地球とどれぐらい離れてる星なんだ?」
俺はアリスに尋ねた。
「アリスにわかることは、ハジメの住んでる地球って星は神々の領域を指す、『セフィロト』に喩えると、宇宙の隅っこの片田舎で、とうの昔に神々から見放された辺境の星ってことぐらいかな」
「う~ん。それとなく地球がけなされてる気がしないでもないが、地球が田舎ってことは理解した。つまり銀河系をすっ飛ばして、遥か彼方の異世界に来てるってこったろ?」
「その認識で間違いないと思うよ」
まあ女神視点だ。
宇宙規模なら地球なんて、ちっぽけなものなんだろうな。
「さっそく魔王退治に向かうよ。復活した魔王の居城はあそこだよ!」
アリスが指差す方向を眺めると、丘陵の上に聳え立つ巨大な城が見えた。
「へぇ~、随分と立派な城じゃないか。あれが魔王の居城なんだな」
「うん、アリスの守護する星を、魔王の魔の手から守るんだ!」
「まあまあ、そんなに急かすなって。つまりあれだろ? 日本から来た異世界人の俺は既にこの世界では、ぶっ飛んだ存在になっていて、魔王なんてワンパン。俺のターンで終了って設定なんだろ?」
「そうだよ! ハジメはアリス専用の勇者だもん。魔王なんて楽勝だよ!」
中世ヨーロッパさながらの魔王の城を眺めてると、これこそがTHE異世界だと感慨深い気持ちが自然と込みあがってきた。
ラノベやネット小説の中だけの話だと思っていたけど、まさか俺の身にこんな幸運が舞い降りるとは思ってもみなかったな。
「おっと、アリス。あそこにいるのは、スライムじゃないのか?」
草原に青いゼリー状のものが、ぴょんぴょんと跳ねまわっている。
「よく知ってるね。部屋にあった賢者の本の知識なんだね」
「まあ本だけの知識じゃないけどな。まずはコテ調べにスライムでも退治してみっか! その腰にある剣。ちょっと貸してもらえないか?」
アリスは腰に帯剣してた剣を鞘ごと取り外し、満面の笑みで貸してくれた。
――え、なにこれ? おもっ!
見た目より全然重いじゃないか。
細身の剣でレイピアって感じなのに……。
アリスって割と力持ちなのか?
俺って契約したことにより、俺だって強くなってるんだよな?
そんなことを考えながら、レイピアを鞘から抜いた。
刀身は、ぼんやりと光を放っている。
「へ~、なかなか良さそうな剣だな」
「うん、アリスは使ったこと無いけど、その剣は神器のひとつなんだよ」
「神器ってマジ? そりゃヤベェ火力かも……。レアどころかレジェンド級なんじゃないのか? 幸先いいじゃないか。軽く魔王をいなしてやるぜ!」
それと……やっぱ女神と異世界って言ったらチートはお約束だ。
大惨事とは言え、もの凄いエネルギーを発したんだ。
凄い力が身についてるに違いない。
「ところでさ、俺にはどんなチートがあるんだ?」
「えっ!? ちーと?」
「まあ、このままでも異世界人の俺は十分、チート級の強さになってるのかもしれないけど、異能の力を授けてくれたんだろ? だったら、ぜひとも試してみたい」
俺の言葉にアリスは考え込んだ。
さてさてどんな能力を発揮できるのだろうか。
わくわくするぜ!
「チートってなあに?」
「あれ? わからない? コインを稲妻のように飛ばせる異能の力だとか。他人のスキルを奪う強奪系だとか、某悪役みたいな時間停止とか時間飛ばしとかいろいろあんだろ?」
「――――ううぅ……ちーと、ちーとって……」
分かりやすく説明したつもりだったのだが、前にも増して考え込んでいる。
傍から見ていると熱暴走で、煙があがりそうなPCのようだ。
「ち、ちーとってなんなんですかあああ!!!」
「あ、こら! そんなことぐらいで涙ぐむなっ! ないならないでいいんだ! 俺が悪かった。ちぃーっと俺の服装って勇者ぽくないだろ? Tシャツに短パンだし……ほら靴だって履いてないんだ」
「なんだ、服装のことだったんだね。気がつかなくてごめんね。靴がないんじゃ歩くのも大変だよね」
「お、おう。そうなんだよ……」
まさか涙ぐむほど考え込むとはな。
自分本位なご都合主義を押し付け過ぎちゃったかな。
もう既に勇者なんだ。
別にチートなんてなくても平気だろう。
少々自嘲気味に反省してると
「村でハジメの防具、買ってくるね!」と、アリスはそう言うと駆け出した。
後ろ姿を見送ると柵に囲まれた小さな村が視界に入った。
一人になった俺はレイピアを素振りした。
うん、少々重いけど、なんとか扱えそうだ。
神器だもんな。重いのは当然だよな。
その神器を振れるだけでも、俺は大したものなのかもな。
よし、まずはスライムで剣の性能はもとより、己の強さの確認もしなくちゃ。
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