3話「スライムでムリゲー」
――ん? なんだこいつ?
すぐ近くに玉ねぎ型のスライムの他に、ドロドロと地を這う粘液状のものがいた。
動きも鈍そうだし、こいつで試してみるか!
とりあえず、ぶっ刺してみた。
ぬるりとした感触が剣から伝わってくる。
しかしダメージを与えた手ごたえが一切感じられない。
スライムは刺した刀身など、目もくれずに平然と移動する。
……なんつーか、舐められてる気がするな。
ならばと思い、やたらめったら突きまくる。
途端、スライムが酸を噴いた。
「うげぇぇ! 気持ち悪い! うわ、なんだ! シャツが溶けてるぞ! スライムって雑魚じゃねぇのかよ!」
シャツを脱ぎ棄ててると巨大な影が……っておい。嘘だろ!
スライムが俺の身長ほどそりあがり、俺を飲み込もうとしている。
慌てて逃げ出し息も耐え耐えで、脂汗がどっとにじみ出た。
スライムだと思って舐めすぎた。マジで死ぬかと思ったわ……。
ふと気がつくとアリスが防具を胸に立っていた。
「――ハジメ?」
「ああ、アリスか……」
アリスは俺を見ると、何故だか胸に抱いてた防具をボトボトと地面に落とす。
「いやあああああああああああ! ハジメなんで素っ裸になってるの!」と、恥ずかしそうに目を覆う。
「へ? 素っ裸? んなバカな? ――――ってなんだああああああ! 短パンどころか……ぱ、ぱんつまでもが……と、溶けて……」
焦りながらも最後の砦を死守した。
「もう! 早く防具を身につけてくださあああああああい!」
「ご、誤解すんなよ……? 露出狂のヘンタイとかじゃないんだからな。そうスライム。スライムの仕業なんだ!」
狼狽しながら防具を身につける。
慌て過ぎて革のブーツを履くところですっ転ぶ。
着替えを終えた俺は安堵。
ただチラッと見やると、アリスは未だに頬を染めている。
「あ、あのさ……」
「な、なに? アリスは何も見てないよ」
「いや、そうじゃなくて、スライムって物理属性無効なのか?」
赤っ恥をリセットするためにも、真面目な話を振ってみる。
「スライムは火魔法で焼いちゃうか氷魔法で凍結させるのがいいみたいなんだ。いくら神器でも刺しただけじゃ簡単にスライムは倒せないよ」
神器でも倒せないスライムって、どんだけチートなんだよ。
「じゃあ、準備も整ったし魔王退治にいこっか。さあさあ、行くよ!」
「へっ? 今から?」
「うん、今なら魔王も復活したばかりだし、取り巻きもいないと思うんだ」
最初は勇者だとか異世界だとかで浮かれてたけど……。
あの時、街を消滅させたほどに、漲ったエネルギーはなんだったんだ?
俺は本当に強くなってるのか?
全然強くなった気がしないのだが……。
正直な話RPG最弱レベルのスライムですら、あの強さだ。
圧倒的な力が覚醒してる気もまったくしなければ、ラノベのような異世界人特有のアドバンテージの片鱗すら、感じえなかったぞ。
そんな俺の儚い想いなど露知らず。
アリスは桜色の髪をそよ風になびかせ、唐突に振り向くと照れた笑み浮かべた。
「ハジメはカッコイイよ!」
「いきなり何言ってるの?」
「だって、魔王と戦うなんて、歴戦の冒険者でも嫌がるんだよ? それなのにハジメは躊躇う事もなく「どんと俺に任せな!」だもん! アリスの自慢の勇者だよ」
今更ながら俺も、その歴戦の冒険者の教訓をあやかりたい。
重い……重いよ。今の俺には果てしなく女神様の期待が重いよ。
「ハジメどうしたの? 足取りが鈍いけど、どこか怪我でもしちゃってた?」
「あ、いや……きゅ、きゅうに腹の調子が……」
魔王退治は明日にでも、いや勇者の栄光は他の誰かに譲ろう。
演技で顔をしかめてると
「それは大変なのです! 慈愛満ちたる聖なる福音よ……光となり生命の息吹なり……
「ま、魔法なのか?」
「うん、アリスは回復魔法だけは得意なんだ」と、柔らかい笑みをこぼすと続けざまに照れた笑みで、「でも……ハジメほどじゃないよ。魔王を封印するなんて、賢者様にだってムリなんだから」
――――って、何この状況。
まさかゲームの話をクソ真面目に話してるんじゃないだろうな。
あ! しまった! そう言う事か……やっと理解した。
この女神。
地球の知識は、ほぼ皆無。
不思議と言葉を交わせていたからか、さほど疑問を感じえなかったのだが。
よくよく冷静になって考えてみろ俺。
チャンネルを間違えただとか、最初っから天然ぶりを惜しげもなく、発揮してたじゃないか!
「さあ、魔王は目前だよ!」
俺の異世界ライフ早くも詰んだかも……。
もうムリ魔王退治なんて絶対ムリ! これってなんてムリゲーなんだよ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます