第七十七話「フェリエール城」

 親父を説得するのは容易かった。

 最近は俺を一人の男として、接してくれている。


 フェリエール城に到着。

 ミッドガルの国境を守備する軍事都市だ。

 

『主よここまでで、良いのか?』

「うん、ドラちゃんは目立つからね」


 焦ることはない、時間はたっぷりあるのだ。

 ついでに、伯父上に軽く挨拶しておこう。

 何か情報を得ることができるかもしれない。

 普段、伯父上はここにいる。

 フェリエールの守備兵に、第七王子が訪問してきたと伝える。


 城郭の外の広場では一個小隊が訓練していた。

 ミッドガル王国が誇る精鋭部隊。


『エンディミオンの白き鷹と呼ばれる王国騎士団』だ。


 その総指揮官の男の名は、バーソロミュー・ヘルムート侯爵。

 伯父上の懐刀でもある腹心だ。

 

 暫くすると、伝えた守備兵が戻ってきた。

 今回の旅はダンジョン攻略戦だ。

 剣の腕を磨きはじめたメアリー。

 付与魔術師のドロシーに、白竜のクララ。

 北の聖女のハリエットに俺での総勢4名と一匹だ。


 戦力としては申し分ない。

 一騎当千の俺がいる。

 彼女らは既に旅行気分である。


 伯父上の許可がでたらしい。

 俺達は守備兵に案内され城内へと進む。


 渡り廊下の先から、黒衣を纏う男が、カツカツと歩いてくる。

 王位継承権第三位のヴィンセント・フェリエール・シュトラウスだ。

 前方から歩いてくる奴の腰辺りを見た。

 あの鞘に収まってるのが、暗殺剣なんだろう。

 奴との距離が縮まってくる。

 ビディの話を聞いたせいで、握り締める拳に汗がにじみ出る。

 超魔術師といえども、至近距離で一刀両断されれば一巻の終わりだ。

 

「ルーシェリアか、フェリエールに何の用だ?」

 

 奴の三白眼が俺を睨んだ。

 睨んではいるが、敵意も闘気も感じない。

 一戦交える気はないようだ。


「挨拶に来ただけです」

「フッ、そうか。ところでメアリー」

「あ、はいっ!」

「貴様は教養があると聞く、望むならフェリエール家で雇ってやってもいいのだぞ」

「ヴィ、ヴィンセント王子、お戯れを……」

「まぁ、よい。父上が待っておる。さっさと行くがよい」


 そう言って俺を一瞥すると何事も無かったように、ヴィンセントは去っていった。

 その後ろ姿に俺は、あっかんべーしてやった。

 メアリーをナンパするのは、テメェには百万年はえーんだよ!

 と、心の中だけに収めといた。

 

 伯父上の待つ一室に入った。

 さすが王位継承権第二位の部屋だ。

 見たこともない調度品の数々。

 ソファーの座り心地も半端ない。

 あまりの柔らかさに埋もれるように座った。


「伯父上、お久しぶりでございます」

「お前から尋ねてくるとは、珍しいこともあるもんだな」


 伯父上は俺にとってグレーな存在だ。

 正直なところ、敵なのか味方なのか、分からない。

 

「初めまして、おじ様。ユーグリット王国のハリエット・マリー・ド・ゴールよ」

「ほうう、ユーグリットの姫君も一緒とは、驚くな。まぁまぁ遠慮するな、皆も座れ」


 メアリーとドロシーも挨拶すると、ゆっくりと腰を落ちつけた。

 クララはドロシーの頭の上がお気に入りのようだ。

 もはや、ドロシーの頭の上がクララの棲みかになってしまっている。


 俺は伯父上に尋ねてみた。

 ファリアス帝国動きについて。

 

 すると伯父上は深刻な表情を隠さなかった。

 帝国が攻めてくることは、今はない。

 そう語るが、油断ならないという。


 まず第一に郷田が竜王を襲った件だ。

 郷田に命令したのは、法王庁の司祭で、今は亡きシメオンだ。

 その背後には、伯父上も一枚噛んでいると睨んでいたが、話を聞くとそんな気がしなくなってきた。


 本気で頭を痛めてるのだ。

 竜王が一声あげれば、1000の魔物の軍団ができあがる。

 しかも、あの浮遊城が古代の遺産でもあり、強力な古代兵器だということも知ってるようだった。


 だが、その点は心配ない。

 と、俺、個人は思っている。

 竜王様には復讐だとか、そんな気はさらさらないと、俺は知っているからだ。

 しかし、ミッドガル王国としては、あの一件で長年の友好に亀裂が入ったと見ている。

 そう見て取るのは、ミッドガル王国だけではない。

 帝国もそう見てるだろうと伯父上は言う。


 更に、ミッドガル王国と法王庁の関係もギクシャクしている。

 郷田の件も去ることながら、俺が神殿で召喚勇者を惨殺した件。

 3名の召喚勇者が逃亡した件。

 他にも法王庁との問題は、山のようにあり頭を痛めているらしい。


「で、ルーシェリアよ。花咲く氷の女王の一件も真で、あるのだな?」

「はい……」


 花咲く氷の女王はユーグリット王国の守護竜だ。

 その竜が、惨殺された事件は、ユーグリットの人々の心を激しく動揺させた。

 

「大まかな位置関係は、こんな感じなんですか?」

「うむ、そうだ」


 東に海を挟み、ファリアス帝国。

 西に竜王城。

 その更に西には法王の御座がある、神聖王国がある。

 北には、同盟国のユーグリット王国。

 大陸を挟んで南の向かうと、ラルフの出身地でもある砂漠の王国がある。


 そして、ミッドガル王城のある城塞都市ミラドールより少し南西にある小さな島。

 そこに魔法都市エンディミオンがある。


 魔法都市エンディミオンは独自の自治権も所持してるが、領土的にはミッドガル王国に所属しているのである。


 伯父上に聞きたい。

 何故、伯父上の子息が俺の命を狙ったのか。

 

「心配せずともよい。ミッドガルの精鋭はファリアス帝国に引けを取らぬ」


 にこやかな笑みで、伯父上がそう言った。

 俺の不安を解消してやろうと思ったのだろうか。

 ヴィンセントのことを聞くタイミングを逃してしまった。

 

 そして、まだ発表されてないが、次の召喚勇者の3名。

 水面下で既に決定事項らしい。


 今度は女勇者らしい。

 その勇者は、白鳥渚だった。

 賢者が架塚戒真で聖女が如月澪らしい。

 

「ルーシェリアには申し訳ない決定だが、飲んでくれ」


 あの普段から偉そうな伯父上が俺に頭を下げた。

 何か深い事情があってのことだろう。

 それ以上は、聞かないでくれと言わんばかりであった。


 


 ◆◆◆




 フェリエール港に停泊してる巨大な軍船を眺めながら、俺達は海を渡る。

 海を氷結させながら。

 無論、俺の魔術で。


 途中に小さな島があるので、目立たないように大周りする。

 対岸は最初から、見えている。

 たいした距離では無い。

 桐野悠樹達も、こうやって渡ったのだろう。


 そして、俺達はファリアス帝国領内に踏み込んだのであった。

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