第十一章
第七十六話「冒険者ギルド」
魔法都市エンディミオンより帰還し、数日。
城塞都市ミラドールの街中をのんびりと散歩している。
一人で、だ。
何故に?
館にいるのが煩わしいのだ。
次から次と祝辞を述べに門閥貴族達が、ご令嬢を連れ我が家の門をまたぐ。
俺のご機嫌窺いは勿論、若い娘を次々に紹介される。
その度に、ハリエットはご機嫌斜めになる。
メアリーやドロシーに至っても、ジト目で俺を見るありさまだ。
俺も男だ。
中には飛びきり可愛い子だっている。
俺の意志とは無関係に、思わず身体が反応し、鼻の下を伸ばしてしまう。
そう俺は有名人なのだ。
王子で、この甘いマスク。
その上、世界最強クラスの超魔術師。
誰もが俺に憧れる。
誰もが俺に羨望の眼差しを向ける。
だから今日は、目立たないようにボロのローブを纏い、顔も少し暖炉の炭で汚した。
有名人は大変なのだ。
ちょっと違うけど……芸能人と似たようなもんだ。
これなら、王子とバレない。
うん、バレるはずがない。
一度、庶民の中に溶け込んでみたかった。
お忍びの視察だ。
冒険者ギルドだ。
冒険者ギルドに向ってるのだ。
冒険者ギルドは男のロマンだ。
熱いモノが全身に滾る。
「あのう、冒険者ギルドってどっちですか?」
「あの角の先にあるよ」
行商人ぽい人に聞いた。
あの先か。
うふふ、王子だと気づかれない。
ただ貧乏そうなガキが、道を尋ねてきた。
彼はそう思ったに違いない。
俺の変装は完璧だ。
木造二階建て、見上げるとデカイ看板。
開きっぱなしの扉。
冒険者だと一目でわかる者達が出入りしている。
うん、ここが冒険者ギルドだ。
なんだか、わくわくしてきたぞ!
中へと入ってみる。
テーブルが幾つもある。
豪快に笑う者。
浮かぬかをしている者。
負傷し傷の手当てをしてる者。
装備自慢してる者。
パーティで作戦ぽいものを練ってる者。
様々だ。
奥に受付のカウンターがある。
そこには愛想振りまく綺麗なお姉さんがいる。
彼女がこの冒険者ギルドのマスターなんだろう。
依頼のビラを受け取ったり、報奨金を手渡したりしてる。
まずは掲示板を確認したい。
コルクガシの樹皮で作ったボードに、依頼書がピンで止められている。
冒険者ギルドにはランクがあり、A・B・C・D・E・Fとランクが6段階ある。
また、それとは別格のS級というのもがある。
ある程度の事前情報はメアリーから入手済みだ。
ほう、ランクごとに依頼書は分けられて貼られているのか。
Fランクの依頼書から順に見ていく。
まるで、ハローワークの新着掲示板だなぁ。
無職のヒキニートだった俺でも、一度ぐらいは嫌々足を運んだ事はある。
Fランクは、労働的な依頼が多い。
農産物の収穫や店のお手伝いのようなもの。
犬の散歩依頼や、逃げ出したペットの捜索依頼まである。
Eランクは、薬草になる草花の収集や、用心棒の募集などが目立つ。
Dランクは、獣の肉や毛皮などの素材集めが多い。
Cランクは、魔物退治依頼がグッと増える。
Bランクは、冒険者ギルドが管理してるダンジョンの捜索などもあった。
そしてAランクには、逃亡した召喚勇者、3名の捜索なんてのもあった。
依頼主は法王庁のアルマン司祭だった。
依頼書とは別枠で、冒険者が仲間を募る掲示板もあれば、『傭兵団に加入しませんか? 朝昼晩三食付き』ってのもあった。
とりあえず俺の目標はCランクにしておく。
ダンジョンに潜れればOKだ。
C級冒険者になれば、一つ上のBランクの依頼も受けられるシステムだからな。
ダンジョンの最下層にある魔力結晶の入手が最終目的だ。
「お姉さん、冒険者登録にきました」
笑顔で明るく話しかける。
だが、お姉さんは少々困ったように眉を潜めた。
みすぼらしく、貧乏そうなガキが今の俺。
それでも、登録料さえ払えばギルド登録はしてもらえる。
「まず、こっちの書類に記入して貰っていいかな? 文字が書けないなら代理で書いてあげるわよ?」
「文字は書けます、大丈夫です」
名前と身元の連絡先、後は特技などを軽く書くだけのようだ。
しかし、どうしよう。
記入したら一発で、バレてしまう。
バレた瞬間、この場が激変する。
俺のファンがサインを求めてくる。
それだけなら、まだいい。
俺のご機嫌を取ろうとする輩に絡まれるのが、一番面倒なのだ。
お姉さんの視線が痛い。
筆が止まってる俺を不審そうに眺めている。
そして、クスッとお姉さんが微笑んだ。
「心配しないでいいわよ、内緒なんでしょ? ルーシェリア王子」
……げ、バレてた。
でも、俺の変装を察してくれたようだ。
「仕事柄、王城には足を運ぶのよね。何度もお見かけしてるわよ」
「あはは、最初からバレてたのね……」
「はい、これがギルドプレートよ」
受けっとったギルドプレートを見た。
これはS級冒険者のギルドプレートじゃないのか?
間違えたんじゃないの?
「ミスじゃないわよ? 超魔術師の称号はS級以上なのよ。はい、こっちがパーティ用のリングよ。そのリングを嵌めてる者同士がリングを重ねると、同じパーティメンバーとして見做され、カウントされるわよ」
パーティかぁ。
そうだよな、冒険って言ったらパーティだ。
リングは皆の分も貰っとくか。
パーティリーダがS級なら他のメンバーは仮にF級でも未登録でも、一緒に依頼がこなせるらしい。
ただし、それは冒険者ギルドの管理の外で、何かあった場合の責任はパーティのリーダーが、その責務を負うようだ。
「これで、ギルド登録は完了よ」
「はい、ありがとうございます」
魔術師ギルドもそうだが、ギルドには国境がない。
登録すれば、どこの国でも依頼が受けれるのだ。
「お姉さんっ!」
「なぁに?」
「魔力結晶を入手するのに、お勧めのダンジョンってありますか?」
「う~ん、そうねぇ……この国の王子様に提案するのもヘンな話だけど、ファリアスにある迷宮がこの辺りだと一番のお勧めかなぁ」
お隣のファリアス帝国に、世界最大級の地下迷宮があるようだった。
地下100層に及ぶ大迷宮と囁かれてるそうで、最下層まで辿り着いた者は未だかつて、いないらしい。
見聞を広めるにもいいと思った。
それに、それだけの大迷宮なら、きっと良質の魔力結晶があるはずだ。
魔力結晶を入手して、俺は過去や未来を旅する。
時の旅人になるんだ。なーんてなっ!
超魔術の称号が、思わぬところで役に立った。
称号なんて、どうでもいいと当初は考えていた。
だが、よくよく考えればソーニャもユーグリットで宮廷魔術師になる為に、魔法学園に通ってたんだもんなぁ。
やっぱ、資格ってあった方が、この時代でも有利に働くんだなぁ……。
今頃になって顔が緩み、にやーっとしてきた。
マリリンのヤツ、元気にやってるかな?
イジメられたりしてないかな?
あの性格なら大丈夫そうだけど……。
それに、ラルフとミルフィーがいる。
二人にもしっかりお願いしてきた。
今頃、学園生活を満喫してるに違いない。
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