第三十九話「召喚者達」

「えーっと、どれどれ?」


 誕生日の翌日。

 俺達は事件の調査に本格的に乗り出した。

 ミッドガル王城の裏手の丘陵にはアリスティア教の神殿がある。

 俺とメアリーは神殿まで足を運び、召喚勇者の名簿をチェック中だ。

 二人で名簿を覗き見ている。


 名簿には総勢35名の情報。

 この世界の住人は日本語は読めない。

 だが、正確性を重視したのだろう。漢字で表記されていた。

 ざっと全員、目を通した後、評価の高い13名に注目した。


 0  八代勇作 :男 軍師(B)

 2  天音結衣 :女 名誉国民(A)

 4  一条春瑠 :男 賢者(S)

 7  桐野悠樹 :男 勇者(S)

 9  架塚戒真 :男 名誉国民(S)

 10 如月澪  :女 名誉国民(S)

 14 郷田武志 :男 ――――死亡(SS)勇者

 15 白鳥渚  :女 名誉国民(S)

 16 清家雫  :女 ――――罪人(S)聖女

 17 園崎梨花 :女 名誉国民(A)

 20 姫野茶々子:女 聖女(S)

 21 骨山スネ夫:男 ――――死亡(E)名誉国民

 24 間宮悠介 :男 ――――罪人(SS)賢者


 これ以上の情報は開示されてないようだ。

 しかし名前を見ていると、遥かなるノスタルジーを感じた。

 俺も不登校にならなければ、ここに名が刻まれていたのかもしれない。


 それでも、才能のある奴の目星はついた。 

 一応、これを見る限り、郷田と間宮の才能は突き抜けているんだろうと思う。

 恐らく現勇者の桐野が死んだら、また名誉国民の中から次の勇者が選ばれるのであろう。

 ある意味。使い捨て感……半端ない。

 そう考えると、かつてのクラスメート達にも同情の色を隠せない。


「さて、用も済んだし、戻るとするか」

 

 そうメアリーに声をかけると、名簿を見せてくれた司祭が、「王子、もうお帰りになられるので? よかったらどうです? 彼らの訓練でも見ていかれたら?」


 笑顔でそう言う。

 シメオンの代わりに召喚勇者の担当になった司祭らしい。

 先日の称号の授与式でも見かけた顔だ。

 随分と若い気がする。二十代前半ぐらいだろうか。


 ウルベルトにはシメオンを殺した毒の流れを追ってもらっている。

 俺とメアリーはこの後、再度ドロシーに会いに行き、間宮の話の整合性の裏を取りにひとっ飛びする予定だった。


 しかし、目の前の司祭の押しも強い。

 以前なら元クラスメートに会うのに、拒絶反応もでた俺であったが、あの星空の夜、覚悟を決めていた。

 もう人生から逃げないと。


 ならば、彼らの日常を見て置くのも悪くないとも思った。

 

 俺とメアリーは司祭に案内され、神殿の屋内にある円柱立ち並ぶ、広場へと足を踏み入れた。


「うりゃあああ!!!」

「てぃ!」

 

 訓練中なのだろう。模擬戦をしてるようだった。

 彼らはもう、学生服を身につけていない。

 それぞれが、その才にあった装備を身につけていた。

 剣が得意なものは鎧を、魔術が卓越してるものはローブを纏っていた。

 彼らを目の当たりにして、俺は彼らの髪色に注目した。

 茶髪に染めてるやつはもういない。

 全員、黒髪黒眼である。


「皆の者、休憩時間だ!」


 司祭がそう叫んだ。

 昼時だ。俺も少し腹が減ってきている。

 メアリーが作ってくれた弁当もある。


 俺達もここで食事をすることにした。

 円柱の一角にメアリーが布を敷いてると、数人のクラスメート達が近付いてきた。


 見覚えがある。


 勇者の桐野と、賢者のなんちゃら、それに姫野の三人だった。

 咄嗟にメアリーが警戒の色を示したが、彼らに敵意は感じられない。

 それは、彼らの体内ある魔力の流れに乱れが感じられないからだ。


「ルーシェリア王子ですよね? お初にお目にかかります。桐野悠樹と申します。今後は、ユウキと呼んで貰えたら嬉しいです」


 さすがクラス一のイケメンだ。

 身長も高くスタイルもいい。

 強面の郷田と違って、本物の勇者って雰囲気を漂わせている。

 白銀の鎧に青いマントも似合ってるしな。


「僕は一条春瑠と言います。ハルと呼んでください。ところで……僕なんかが賢者でいいのでしょうか?」


 男なのか女なのか分かりにくい中性的な顔立ちだ。

 背も低く一見したら見間違える可能性もある。


「王子知ってますか? 僕らの世界にはラノベやアニメとかあるんですけど、この世界って……まさに、って…………もう」


 ハルの言葉を遮るように後ろの女子が前にでてきた。


「私は姫野茶々子。チャチャって呼んでくれたら嬉しいですわよ」


 少々、きつい顔立ちだが、美人だ。

 クラスでは清家より姫野のほうが人気はあった。

 たしか陸上部で運動神経も抜群で、才色兼備とか言われていたな。

 

 礼儀正しく挨拶されたんだ。ちゃんと返しておこう。

 彼らも笑顔だ。俺も笑顔で、


「君達が勇者、賢者、聖女なんだね。よろしく頼む、で、こっちがメアリーだよ」

「はい、メアリーです。ルーシェ様のお目付け役をしています。皆さん、よろしくお願いします」


 メアリーは丁寧にお辞儀して挨拶を返した。


「王子様、よかったらご一緒に、お昼とってもいい?」


 姫野茶々子がそう言って来た。

 俺も興味がわいた。

 突然、異世界に召喚されたんだ。

 どんな気持ちでいるのか気になる。


 俺は茶々子の提案を快く受けることにした。

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