第三十一話「告白」

 決心したものの、いざ告白しようとしたら躊躇ってしまった。

 前世の俺は告白しただけで『告白魔』たる不名誉なあだ名で罵られた。

 とうの昔のことだが、走馬灯のように蘇る。


 あの日、あの場所、あの時のことを……。


 また深く心が傷ついてしまうのだろうか。

 ――――胸が不安でいっぱいになってきた。

 

「ルーシェ様……そんなに思いつめた顔をして、具合でも悪いのですか?」


 メアリーが心配そうな眼差しを送ってくれる。

 郷田は死んだ。

 死んだが、俺は未だに将来の不安が拭えない。

 何故なんだ……?


 ――――確実性だ。

 確実性が乏しいからだ。

 

 未来で俺や俺の家族を惨殺した男。

 茶髪だとドロシーとマリーから聞いた。

 クラスメートのうち茶髪の男は郷田だけ。

 だからと言ってそう結論付けていいものではない。

 そう、まだ見ぬ未来に確実なことなんてある訳ないのだ。


 だったら……この世界でも前世の世界同様に引き籠って生きていくか?

 そうすれば、誰も殺されることがないかもしれない。

 だが、それでいいのか? それが生きてるって言えるのか?

 俺は今度こそ幸せな家庭を築きたい。


「二人に話したいことがあるんだ」


 勇気を振り絞り言葉を紡いだ。

 二人が俺の方へと振り向く。

 俺の真剣な空気を察してくれたのか、二人とも静かに耳を傾けてくれている。


「メアリーは元より、ドロシーにとっても大事な話なんだよ」


 ドロシーの耳がぴくりと動く。


「メアリーは知ってるよね? 僕が病で二週間ほど伏せっていたこと、そして目覚めた時、7歳以前の記憶が失われていたこと」

「あ、はい……あの時は死ぬほど心配したんですよ」


 ――――そう俺はメアリーに嘘をついていた。

 記憶は失ってない。そう言わざるを得なかっただけだ。


「実は……未だに何も思い出せていないんだ」

「やっぱり……そうだったんですね……」


 メアリーは、薄々感じていた。

 でも、そこには敢えて触れずにいてくれたようだ。

 俺が気を煩わせることがないように。


「私は、あの日以来ずっと、ルーシェ様のご様子を窺ってました」


 両親は変化には気がついてないようだが、身近にいつもいるメアリーは気が付いていた。

 

「今のルーシェ様は、まるで別人のようです」


 メアリーの何気ない一言が重くのしかかってきた。

 俺は俺であって俺ではない。

 そんな想いに駆られたからだ。

 

「私にも聞かせたい話とは、なんなのでしょうか?」


 ドロシーが俺をじっと見る。

 青く透き通る瞳。

 どんな話でも真に受け止めてくれそうな、包容力を感じさせる。

 そして俺はドロシーに言った。


「僕は一度……君と出逢っているんだよ」


 そこで一旦、言葉を止めても、ドロシーはじっと変わらず見つめてくる。

 

「それはアカデミーの卒業式の日じゃない。ずっと最近のことなんだよ」


 ドロシーが首をかしげ考え込んだ。

 同時にメアリーまで口元に指を当て考え込んでいる。

 俺は今度、メアリーの方へと振り向いた。


「実は僕……7歳以前の記憶があるんだよ」

 

 正確には前世の世界の29歳以前の記憶なのだが。

 俺の言葉にメアリーは更に困惑した。

 言っていることが支離滅裂だからだ。


「理解に苦しむかもしれないけど、本当なんだ。でも……7歳以前の記憶はこの世界とは違う世界の記憶なんだ」


 ついに言い切った。

 言ってしまった。


「……違う世界?」

「うん、そうさ。違う世界さ。二人には信じがたい話かもしれないけど、僕には……召喚されてきた勇者達と同じ世界の記憶があるんだよ」


 ここまで話して二人とも俺の言葉の意味を理解した。

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