第二十話「条件」
「お前、誰だ?」
「無粋ながら、私も決闘を申し込ませて頂きますわよ」
シャーロットは爽やかに微笑む。
郷田はシャーロットの身体を舐めまわすように見た。
そして厭らしい笑みを浮かべる。
「悪くねぇな」
唐突なシャーロットの乱入にフィルは唖然とし、師匠を見上げる。
そしてフィルがシャーロットに対して抗議した。
「師匠、僕は勝てますっ! だからこの決闘だけはやらせてください! この郷田だけは許せないのです!」
フィルは郷田を指差しながら睨んだ。
「あなたが、どんなに喚こうが無駄よ。私は国王陛下との契約を忠実に果たすまで」
シャーロットと国王の間には一枚の契約書が交わされていた。
その契約書には『いかなる場合であろうと王子を守ること』契約の条件として、したためられていた。
つまり決闘であろうが、シャーロットは己の任務を果たすだけと言う。
なかなかに強引ではあるが、シャーロットの立場からしてみれば理が叶ってるとも言える。
「し、しかし……師匠っ!」
フィルは困惑している。
フィルからしてみればシャーロットの発言は、郷田よりフィルの方が実力が劣っていると公言しているようなものだ。
「こらこら、何をしておるのじゃ? この決闘は神聖たる女神のアリスティアの下にて行われるのじゃ、乱入など持っての他だぞ!」
シメオンが慌てながら前に出た。
「これが神聖な戦いなのかしら?」
「な、なんとっ! 神を冒涜するかっ!」
声を荒げるシメオンに対し、シャーロットは強く否定した。
「違うわ! 冒涜してるのはあなたの方よ。こんな決闘を女神が望んでいると本気でお思いかしら? それに私にも戦う理由があるのよ。先日の竜王様、襲撃事件の件よ」
そう言ってシャーロットは郷田に鋭い眼差しを送る。
竜王とシャーロットは長年の友だそうだ。
郷田はシャーロットに睨まれても微動だにしない。
「お前、なんも知らねぇんだな? 竜王っていやあ、勇者に倒されるのが宿命なんだよ。なぁ、そうだろ骨山?」
郷田の後方で骨山が「そうだそうだ!」と、同調する。
清家と間宮は黙って様子を窺ってるだけだ。
シメオンはその後も、なんだかんだと言いがかりをつけているが、シャーロットは意にも介さず軽々と論破していく。
口論で負けたシメオンが「ぐむむ」っと、唸った。
「もうよい! 郷田が二人の挑戦を受ければよいまでだ!」
そう声を張り上げたのは、オースティン侯爵だ。
「双方ともやりたがってるのだ。好きにさせてやるのがよかろう」
オースティンの言葉を聞いて国王が立ちあがろうとした。
しかし、ヴィンセントが王の腕を掴み、睨みを利かす。
……やっぱり王様は、何か弱みを握られているのだろうか?
さすがに俺もここぞとばかりに、出しゃばろうとした。
今のは非礼極まる行為であろうからだ。
名分は立つ。俺だって王族だ。
見た目7歳の俺の発言がどれほど意味を成すのか分からないが、俺は一歩踏み出した。
ところが俺より一足先にウルベルトが豪語した。
「今の陛下への行い、無礼であるぞ! ヴィンセント!!!」
ウルベルトは、ギリギリと奥歯を噛みしめ、拳に力を込めた。
「無礼なのは貴様だ。身分をわきまえよウルベルトよ」
ヴィンセント王子の声を初めて聞いた。
ドスの利いた低い声だ。
いや、それだけじゃない。
何かを瞬時に俺は感じ取った。
ヴィンセントの三白眼の眼光から、強い念のような波動が押し寄せてくる。
俺は魔術で軽く逸らした。
途端、隣のメアリーが震えだす。
恐怖に憑かれたかのように蒼白だ。
メアリーはその場に項垂れるように膝をついた。
メアリーだけでない。
ウルベルトの様子もヘンだ。
膝がガクガクと震えだした。
それでも何とか踏ん張って堪えてるようだ。
しかしウルベルトの目も死んだ魚のようになり、脅えていた。
なるほど、そう言うことか。
こいつ……ただものじゃない。
やつに睨まれた者は恐怖で支配されるようだ。
だとしたら、王様が黙りこくってるのにも納得がいく。
「もう、いいだろ? いい加減、始めようぜ!」
郷田が悪態をつく。
そしてこともあろうに、とんでもないことを口に出した。
「エルフの姉ちゃんよ、決闘受けてやるよ。ただし俺様にも一つだけ条件がある。あんたも契約を盾にしたんだ。だったら俺様が勝ったら俺の奴隷になる契約を交わしてもらうぜ!」
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