第十九話「森エルフ」

 もし俺の仮説が正しければ、フィルの命は危ない。

 しかし俺は何故、そう感じたのだろうか?


 転生したばかりの俺は王宮事情には疎い。

 疎いが、この場に激しい違和感を覚える。

 ドス黒い何かを感じる。


 王様と叔父上は兄弟のはず。

 フィリップ王子は国王の一人息子だろ?

 それなのに辛辣な表情の国王はともかく、オースティン公爵とヴィンセント王子は、平然と国王の両翼に佇んでいる。

 佇んでいると言うよりは、有無言わせない態度で抑えつけている。

 そんな印象だ。

 前世でイジメに合ってた俺ならではの嗅覚。

 

 間違いない。

 

 王様とフィルはこの場で孤立しているぞ。


 もし俺なら自分の家族に身の危険が及ぶならば、心配で気が気でない。

 ましてや命のやりとりをしようものなら、全力で阻止する。

 叔父上もヴィンセント王子も王様の身内なんだよな?

 

 それなのに想いやりの欠片も感じない。

 それどころか乾いた冷笑。

 フィルは見殺しにされる。


 …………あっ! そういうことか。

 奴らはグルだ。

 オースティン公爵とシメオンは繋がっているんだ。

 フィリップ王子が死んだらどうなる?

 誰が得する?

 考えろ。


 オースティン公爵だ。

 派閥だ。

 この王国には派閥があるんだ。


 それも国王の一派よりもオースティン公爵の方の派閥が強い。

 昨夜の晩餐会。

 フィリップが決闘を申し込んだ直後。

 あの拍手。

 場の半数以上が手を叩いていた。

 

 普通に考えれば誰かが即刻止めに入るだろ。

 もしや俺の親父も?

 このタイミングで外交で出立。

 厄介払いか?


 だったら気づけよ親父……。


「坊ちゃん……」

「ん?」


 ウルベルトが小声で囁いた。


「シメオンのやつ……裏切ってるやもしれませんぞ?」


 シメオンのおっさんは病気で伏せっていた俺を助けた人物。

 俺はそう認識している。

 だから、どちらかと言うと今までは身近な存在な気がしていた。


 己のこの世界での7年間の記憶がないのが悩ましい。

 記憶があれば、もっと早くに気づけたはずだ。

 

 あのエルフの女性は味方なのか?

 フィルの師匠だもんな。

 仮に敵だと仮定したなら、とことん窮地に追いやられているぞ。


 フィルとシャーロットが王様の前にいった。

 何やら話をしている。


 王様ってこの国のトップだろ?

 ハッキリ言えよ、この勝負は中止にすると。

 ところがその思いもむなしく、オースティン侯爵はシメオンに合図するかのように手をあげた。

 合図を受け取ると、シメオンは「うむ」と頷き


「これより、フィリップ王子と勇者郷田の決闘。準備が整い次第、神聖たる女神アリスティアの名の下で開始しすることとする」


 そう告げた。

 国王は何か弱みでも握られてるのか? 

 それとも王様もグルなのか?

 いや……それはない。

 

 あの王様の表情。

 ……俺の方が見ているだけで胸が痛む。

 フィルの親父には親父なりの事情があるやもしれん。


 郷田がベンチより腰をあげた。

 へらへらと厭らしい笑みでフィルに歩み寄る。


「ビビってこねーと思ってたぜ」

「それを言うなら貴様の方だ!」

「生意気なやつだ。てめぇ後悔すんぞ!」


 シメオン側には骨山と清家と間宮がいる。

 王の傍にはオースティンとヴィンセント。


 俺達は両サイドの陣営が見渡せる場所に陣取った。

 シメオンのおっさんの一言で勝負が開始される勢いだ。


「ちょっと、待って頂けるかしら?」


 一人の女性が歩み出た。

 フィルの師匠のシャーロットだ。


「提案があるんですけど、いいかしら?」


 颯爽とそよ風に髪をなびかせるシャーロット。

 そのシャーロットが突如、細身の剣を鞘から抜刀した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る