第十八話「陰謀」

 翌日の朝。

 ベットから颯爽と起き上がった俺は、窓から外の風景を眺めた。

 昨日、俺が降り積もらせた雪は解け始め、徐々に普段の景色を取り戻していた。

 そして旅支度を済ませた両親と軽く挨拶を交わす。


「では、行って参る! ルーシェリアよ、後のことは頼んだぞ!」

「はい、父上母上、お気をつけて!」


 玄関先まで見送った。

 北方のユーグリット王国へと外交で向かうのだ。

 両親は少ない従者を引き連れ馬車にて旅立つ。


 昨晩、親父はシメオンの自宅まで押し掛け、何やら話をつけてきたそうだ。

 もちろん、フィリップ王子の件でだ。

 どんな話をしてきたのか父は多くは語らなかった。

 一言、決闘自体が行われない。

 父はそう語ると、俺の肩を軽く叩いた。

 

 フィリップ王子は感情的になりやすい性格ではあるものの、人柄も良く正義感溢れる少年で、皆に慕われてる理想の王子であるらしい。


 俺から見ても好少年だ。

 彼が傷つくところを見たくはない。


 俺はメアリーと騎士ウルベルトを引き連れ王城を目指す。


「坊ちゃん、そんなに心配することはございません」

「だといいんだけど……」


 親父がもっとも信頼を寄せている部下ウルベルトは、我が家の執事として昨晩正式に迎えられた。

 

 両親はこれより半年は戻ってこない。

 つまり俺の世話係として雇ったようだ。


「いざって時はメアリーが止めに入ります。ルーシェ様は危険なこをしないでくださいよ?」


 親父は決闘自体が行われないと言っていたが、果たしてそうなのだろうか。

 俺はどうも腑に落ちない。

 

 本来ならあの場でシメオンが郷田を一喝し、オースティン公爵も止めに入るべきではなかったのだろうか。


 それどころか、決闘の流れまで誘導したのはあの二人だ。

 俺は嫌な予感を拭えぬまま、王城にある緑あふれる庭園まで足を運んだ。


 決闘は庭園で行われる。

 到着した。

 見物人は限られた人間だけのようだ。

 ざっと見渡しても数えるほどしかいない。


 王様に叔父上、それに郷田と教師の八代に骨山と間宮と清家とシメオン。

 あと、漆黒の衣装を纏っているヴィンセント王子。

 

「やあ、ルーシェリア」


 後ろから声をかけられた。

 フィリップ王子だ。


 そのフィリップ王子の付き人なのだろうか。

 フィルに返事を返す間もなく俺は見惚れてしまった。


 なんて綺麗な女性なんだろう。

 

「どうだい、ルーシェリア羨ましいだろ」


 フィルはそう言って、はにかむ。

 エルフかぁ……たしかに羨ましいと思った。


「お初にお目にかかるわね、ルーシェリア王子」


 見た目も美しいが声音も奏でるように美しかった。

 黄金色の髪色は陽射しで煌めき、エメラルドのような瞳。

 身体の線も細く、すらっとしている。

 

 何よりも特徴的なのが耳だった。

 ビディと同じだ。

 同じだけど彼女の肌は透き通るように白い。


「紹介するよ。僕の師匠のシャーロットだよ」


 シャーロットは緑の衣装を身にまとい、腰には細身の剣を帯剣している。


「これはこれは、生ける伝説と言われるシャーロット殿にお目通りが叶うとは、ウルベルト感極まります」

 

 彼女は森林をこよなく愛する森エルフで名を、シャルル・シャーロットと言うらしい。

 なんでも千年前の魔神戦争でミッドガル王国を建国した英雄レヴィ・アレクサンダー・ベアトリックス一世と肩を並べて戦った英雄のようだ。

 そんな伝説上の英雄がフィルのお師匠様だったとは、いやはや驚かされるものである。

 と、言う事はフィルもかなりの実力者と見ていいのだろうか?


 俺には竜王の強さも郷田の強さもわからない。

 わからないが、竜王っていやあ、とあるゲームじゃラスボスだ。

 フィルは感情的になって勝算なしで決闘を申し込んだと見ていたが、そうじゃなかったって言う事なのだろうか?


 いや、大丈夫だ。そもそも決闘自体が行われない。

 親父がそう言ったのだ。

 シメオンもこの場にいる。

 なんだかんだいって決闘はご破算になるのだろう。


 シメオンが近付いてきた。

 恐らく、中止もしくは何やら策を持ってきたのだろう。

 そう思ったのだが。


「王子っご健勝でございますな、さあ勇者殿がお待ちかねですぞ。シメオンは公平に勝負の判定を下しまする。思う存分、力を振るってくだされ」


 はあ……?

 このおっさん、またしても何を言っているのだ?

 昨晩、親父と話し合ったはずではなかったのか?


 シメオンのおっさんの口元が微かに歪んだ。

 俺は見逃さなかった。

 瞬時、俺は理解した。


 この一連の流れ。

 フィリップ王子を亡きものにせんとする、陰謀ではないのだろうかと。

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