第十三話「魔術本」

 これが魔術書か。

 茶褐色の表紙には『黄金の夜明け』とタイトルが記され六芒星が描かれている。

 とりあえずパラパラとページをめくる。

 古本特有の粉臭い匂いが鼻をついた。

 挿絵も盛り込まれイメージしやすいように工夫されている。


 ――――1ページ目をめくった。


 まずはじめに。

 この魔術書は魔法都市エンディミオンが王道魔法と認めたものだけ記載するとある。


 ――――2ページ目をめくる。


 魔術の基本理念が書かれていた。


 1、魔術とは知識と理解の探求である。

 2、禁呪の魔術に触れることを禁ずる。


 ――――3ページ目は魔術体系が記されている。


 1、四大元素魔術

 2、精霊魔法

 3、神聖魔法

 4、付与魔術


 この世界の魔法は己の体内に宿る魔力を持ちいるものを魔術。

 神や精霊の力を借りる魔術は魔法ということになってるようだ。

 その他にも羊皮紙に描いた魔法陣に魔力を注ぐことによって、発現する魔道具の一種もあるようだ。


 うーん……どうもこれは魔術書というよりも学校の教科書ぽい印象だな。

 年に一度、魔法都市エンディミオンでは魔術の認定試験があるらしい。

 ちなみに俺の魔術師としての称号に関しての記載はないかな?

 俺の魔術師とのしての称号はそのままで魔術師ソーサラーなんだが。


 ――――4ページ目にあった。 

 

 1、初級魔術の使い手:魔術見習いメイジ

 2.中級魔術の使い手:魔術師ソーサラー

 3、上級魔術の使い手:魔導師ウィザード

 4、王級魔法の使い手:魔導師ハイ・ウィザード

 

 更にこの上には上位の称号もあるようだ。

 聖級から帝級と続き。

 最高位は神級で魔導師アーク・ウィザードだ。

 

 なんだ……思ったより俺は下の方じゃないか……。

 また魔法都市エンディミオンでは精霊魔法や神聖魔法はジャンル外とのこと。

 更に『古代魔法』というものがあるらしいが失われた禁呪とのことだ。

 最初のページで禁ずるとあったのは『古代魔法』を指すのかもしれないな?


 俺からしてみればドロシーの時魔術こそが、禁呪の部類になる気がする。


 まあ、何か試してみるか。

 とりあえず簡単そうなものをダメ元で……。

 イメージ画じゃ人差し指の先に炎が揺らめいてる感じだ。


「闇夜を照らす灯火よ、出でよ」


 魔術書に書いてある呪文を口走ってみた。

 

 陽炎のように揺らめく小さな火球が俺の指先に出現した。

 おろ? 割と簡単ではないか。

 いや、それとも俺って天才なのだろうか。

 火球のやり場に困った俺は、消えるように念じてみた。

 揺らめくともし火の勢いが弱まっていき、消滅した。


 もしかして詠唱は必要ないのでは?


 だったら……。

 イメージだけでやってみるか。


 指先にぽっと火球が出現した。

 消すことができるなら、火球を更に大きくすることもできるはず。


 イメージを膨らますと火球はみるみる大きくなっていく。

 同時に体内の魔力の流れを敏感に感じる。


 なるほど。


 どこまで大きくできるのだろうか。

 ゴルフボールほどのサイズの火球が、ソフトボールからドッチボールサイズになる。

 まだまだいける。

 魔力を更に火球へと加速して送る。


 さすがにこれ以上はまずいな。

 魔力の消費で倒れそうだからではない。

 

 火球のサイズが直径1メートルを超えそうなのだ。

 熱い。部屋が熱い。


 解き放てばいいのだが、部屋の中だ。

 さすがにこれ以上のサイズはまずいと思い、俺は火球を消滅させた。


 今度は複数の火球をイメージする。


 両腕を左右に広げ、火球を俺の頭上に半円を描くようにイメージする。


 ひとつ、ふたつ、みっつ……。


 7つの火球が出現した。


 そのまま解き放てば複数の敵にも対処できそうだ。


 火球を消滅させた。


 他にはどんな魔術が載ってるのだろうか。

 ページをパラパラとめくっていく。


 火球の他にも、氷の矢や、岩砲弾、真空の刃など、様々な魔術が記載されている。

 

 どれもが簡単にできた。

 なにも難しいことはなかった。


 しかし、残念なことにこの本には基本的なことしか書かれていない。

 俺は、中級魔術の使い手、魔術師ソーサラーらしいから更に高ランクの魔術も操れるはず。


 ならば試してみたいと思い、外にでることにした。

 館の玄関先で、メアリーに呼び止められる。


「ルーシェ様、おひとりでどちらに?」

「部屋じゃ魔術の練習は難しいから外にでるんだよ」

「でしたら、お待ちください。メアリーもお供します」


 魔法の練習ならうってつけの場所があるらしい。

 王城にある魔術の練習場だそうだ。


 しかしなあ。

 かつてのクラスメートに顔を合わせるのは、今は避けたい。

 何かしらの接点ができたことによって、俺や未来の家族が殺されたのかもしれないからだ。

 俺の準備が整うまでは、なるべく顔を合わせたくない。

 準備とは無論、己の力の向上と能力を知ることだ。

 

「王城の他に訓練できる場所はないの?」


 俺の問いかけにメアリーは真剣に考えてくれている。


「魔術師ギルドでも魔術の訓練はできますよ」


 この世界での記憶を失ってる俺にメアリーが教えてくれた。

 しかも魔術師ギルドには俺の師匠がいるらしいのだ。


「そこに案内してくれる?」


 メアリーはにっこりと微笑むと、俺の手を取ってくれた。


「ここより、さほど遠くありません。向かいましょうか」

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