第十一話「空白の7年間の記憶・前編」
「メアリー僕はもう疲れたよ」
召喚勇者の称号授与式から自宅に戻った俺はベットの上で足をぶらーんぶらーんしている。
ベットの前の椅子にはメアリーが座っている。
今夜は王宮にて勇者歓迎の晩餐会。
晩餐会にはメアリーも誘った。
召喚勇者の儀式で将来俺を殺すかもしれない男の顔を見てきた。
彼らはゲーム的に言えばレベル1だ。
彼らの強さが気になった俺は戻る前にシメオンに尋ねた。
少なくとも勇者の称号を得た郷田の強さは各地に点在する魔王の強さに匹敵するらしい。
ただ、力の使い方が不慣れなため現段階では本領は発揮できてない。
その為、これから一年間、召喚勇者達は魔逢星襲来に備えての訓練が始まるようだ。
父の話によると魔逢星とは千年に一度の周期で接近する彗星のようだった。
そしてその魔逢星より邪神が降臨するらしい。
邪神が降臨すると世界各地の魔王達は抗うことも叶わず、支配下に置かれるという伝承とのこと。
つまり召喚勇者達は邪神対策の為に召喚されたという訳だ。
しかもこのミッドガル王国の建国者レヴィ・アレクサンダー・ベアトリックス一世は千年前、異世界から来訪した旅人だったらしい。
じゃあ、俺自身は何者なんだ?
その鍵を握るのはもしかしたら俺の空白の記憶。
正確にはこの世界での7歳までの人生に何かヒントがあるんじゃないだろうか?
王間にて隣にいた亜麻色髪の少年は俺のことを魔術師と言っていた。
俺は俺自身の過去を探るため、これからメアリーに打ち明けるつもりだ。
7歳以前の記憶が消失してると。
「メアリーちょっと話ずらいことがあるんだけど……」
「どうされましたか? ルーシェ様」
「実は僕……記憶喪失になってるみたいなんだ……」
俺の問いかけにメアリーは神妙な顔で思い耽った。
「もしかしたらと思ってました。ルーシェ様のご様子が些か不自然でしたので……それでどの辺りの記憶が曖昧なんでしょうか?」
「……全部なんだ」
「……ぜんぶ?」
「そう……全部」
「ルーシェ様、確認いたしますが、全部と申されましたら生まれてから今日までのことを指しますよ?」
「僕って二週間ほど目覚めなかったんだよね? 本当は目覚めた後、何も覚えてなかったんだよ」
メアリーは瞳孔を広げ絶句した。
「ルーシェ様、それは真ですか? 私の名前や奥様のお名前、覚えていらしゃいましたよね?」
「それは……ほら、周りの会話でそーじゃないのかなぁ……的な? あ、だからって心配しないでほしいんだ。本当は記憶が喪失してること誰にも伏せておくつもりだったんだけど、どうしても僕は僕自身のことが知りたくなちゃってさ」
「と、とうぜんです……で、でも、どうしたことでしょ! やはり高熱のため? いえいえ、旦那様と奥様に直ぐにでもご報告しなければ」
動揺し慌て始めたメアリーの腕を俺は掴んだ。
「父上と母上には心配かけたくない。メアリーにだけ話したんだ。内緒にしておいてほしい」
俺は真剣な目でメアリーを見つめた。
メアリーは意を決したように「わかりました」と言ってくれた。
「メアリーは僕のこと、どれぐらい前から知ってるんだい?」
「私がこの館で旦那様にお仕えしたのはルーシェ様が誕生する二週間前です。ルーシェ様のことはご誕生された日より存じ上げてます」
俺が生まれた日より俺のことを知っていてくれた。
これほど心強いことはない。
「メアリーって歳いくつなの?」
「私は16です」
「僕は7歳みたいだからメアリーは9歳の頃からここにいるんだね」
「そうなりますね……」
メアリーは昔を思い出すかの様に口元に指を当て天を見上げた。
できれば誕生した頃から知りたい。
この身体、最初は俺自身の身体じゃないと思ってた。
しかし身体的特徴が明らかに俺自身のモノで左腕にあるホクロもそうだが、手相そのものが俺自身のモノなのだ。
顔だけ有難いことにイケメンになってるが。
「メアリーの知ってる僕を誕生から話してくれない?」
俺は会心の笑みを思い浮かべメアリーにお願いした。
「わかりました、ルーシェ様。ルーシェ様はこのお屋敷にて、お生まれになりました。それはもうこの世のモノとは思えないほど可愛い赤ちゃんだったんです」
ほうほう……俺は可愛い赤ちゃんか。
「……ただ」
「ただ?」
「ルーシェ様は……赤ちゃんの頃よりスケベでした……」
「え? 赤ちゃんの頃から?」
「乳のでない私の胸までも……あ、申し訳ありません、私ったらなんて失言を……忘れてください!」
赤ちゃんの頃からスケベ? イマイチ、ピンとこないが、まあ……いっか。
メアリーの顔が怯えたように青くなってる。
どうしてなんだ?
「メアリー、どうしたんだい? 顔が真っ青だよ」
「不敬でしたよね……。ルーシェ様が罪だと感じられたならメアリー謹んで罰をお受けします」
いやいや、何言ってるんだ? 不敬罪だなんて……。
「メアリーって大袈裟だなぁ」
「おゆるし頂けるんですか?」
「何とも思ってないよ。メアリー、僕の友達になってよ?」
「と、ともだち……ですか?」
「うん」
俺が屈託のない笑みで言うとメアリーは胸に手を当て安堵した。
「赤ちゃんの頃はだいたい分かったよ。それからの僕はどうなんだい?」
「はい、ルーシェ様は利発な子で1歳の頃には読み書きができるようになってました。私も含めご両親もたいそうびっくりされてました。この部屋は私の部屋と旦那様の書斎を挟んでるのですが、ルーシェ様は私が読み聞かせる絵本では飽き足らず、自ら旦那様の書斎にある魔術書を読み漁っておいででした」
異常なまでの天才児ではないか……。
俺が驚いてるとメアリーは一旦、言葉を止めた
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