第二章
第九話「王城へ」
「ルーシェ様、死んでお詫びします!」
目覚めるとメアリーが物騒な発言をした。
どうやら俺のベットで寝てしまった挙句、寝床を失った俺がソファーで寝ていた状況に困惑し混乱してるようだ。
別に大したことじゃないからから軽い笑顔で、
「気にしないでいいよ」
「気にしますっ! メアリー一生の不覚です。もはや死してお詫びするしかございません!」
大袈裟だと思うよ。
「死ぬぐらいなら、その命、俺が預かるよ」
「ルーシェ様、いつから、ボクじゃなくオレになったのですか? やっぱり怒ってるんですね」
今までの俺はオレではなくボクだったのか。
こりゃボクにしといたほうが無難かもな。
「あ、いや僕は怒ってないよ。メアリーが死ぬなんて言って脅迫するからびっくりしたんだよ」
「脅迫ですか?」
「僕にはそう聞こえたよ。メアリーが死んだら僕は喜ぶどころか悲しいよ」
メアリーの顔が酒でほてったように赤く染まった。
「あー! ルーシェ様、大変です。早くお着替えしなくては、これから王城にて勇者様の称号授与式なんです」
ああ、そういやそうだったな。
「ねえ、メアリー」
「なんでしょう?」
「マリー見かけてないよね?」
「マリー?」
「マリーだよ。マリーステラって女の子だよ」
「なに訳の分からないこと言ってるんです。旦那様がお待ちかねかもしれません。早く着替えましょう」
「マリーのこと覚えてないの?」
「とっても素敵な名前ですね」
質問にメアリーは考え込むものの、不思議なことにマリーのことを覚えてないようだ。
しかし、マリーに肝心なこと聞きそびれてしまったなぁ。
マリーは誰との子なんだ?
29歳の俺だが、マリーは頼りがいある娘だった。
メアリーが俺の衣装を持ってきた。
貴族ぽい青基調の服に半ズボンだ。
半ズボンなんて何年振りだろうか。
ぶっちゃけ小学生以来かもなぁ……。
ドアが乱暴に開いた。
「ルーシェリアよ! いい歳こいて寝坊してしまったぞ!」
そこに現れたのは父のアイザックだった。
「父上、おはようございます」
「おお、さすが我が子だ。準備万端のようだな」
俺の様子を見た親父はこれでもかと言うほど満面の笑みだ。
王城には俺と親父の二人で向う。
母とメアリーは留守番だそうだ。
玄関まで見送りにきている。
俺は異世界にきて初めて外に出た。
へぇ……これが我が屋の外観か。
絢爛豪華な洋風の館であった。
庭も広く芝生が綺麗に手入れされている。
庭には厩舎があり親父が馬を引いてきた。
「さあ、乗るがよい!」
親父が馬をなだめながら自慢げに言う。
あぶみに足をかけ鞍に跨った。
俺が跨ると親父が俺の背後に跨る。
「では、行って参る!」
「あなたお気をつけて」
「旦那様、ルーシェ様、いってらしゃいませ」
親父がゆるい笑みを浮かべてるのが容易に想像付いた。
美女二人が花を咲かせるような微笑みで見送ってくれた。
パッカパッカと石畳を進む。
ヨーロピアンな街並みを眺めながら馬は最初の角を折れた。
うおおおお!
城だ!
荘厳な佇まいの王城が目の前に突然現れた。
前世の距離感で喩えると自宅から近所のコンビニほどの距離しか進んでない気がする。
徒歩で良かったんじゃないのか?
城の吊橋に守衛が二人いる。
寝坊した親父が偉そうに「ごくろう」と呟く。
城壁を抜けると花と緑の庭園が広がってる。
途中、噴水と両手剣で剣撃を受け止めるポーズの黄金製の像があった。
城の入口で俺達は馬を降りた。
馬は守衛が城の厩舎に預けるようだった。
「召喚勇者の称号授与式は王の間だ」
「父上、称号授与式とは何なのです?」
「ん? 前にも説明したはずだが?」
「あ、そうでしたね」
前っていつだろう? 二週間前ってことかな?
俺は29歳の精神年齢だが、この身体の7歳以前の記憶がまったくない。
寝込んでたことを原因に再度尋ねてみても良かったが、見ればわかるだろうと結論付けた。
マリーのことを尋ねようとも思った。
だが、メアリーが覚えてないのだ親父に聞いても無駄だろう。
城内へと繋がる入口に庭で見た黄金製の像がまたある。
誰の像だと思い台座に刻まれた名を見るとレヴィ・アレクサンダー・ベアトリックス一世と刻まれていた。
初代の王様なんだろうな。
これが城内か。
天井が遙か上空で美しい細工や彫刻が掘られている。
真紅の絨毯が三階分の階段に轢かれ俺と親父は真っ直ぐ進んだ。
壁には俺の部屋にもあった同じ紋章の壁掛けや武具が飾られている。
王間に辿り着くと親父が王様みたいな冠を被ってるオッサンを陛下と呼んだ。
王の隣に偉そうな恰幅のいいオッサンがいる。
更に、その隣には三白眼で真っ黒な衣装を纏った男が不敵な面構えで佇んでいる。
「おそいぞ! アイザック!」
親父を睨むように豚ぽいオッサンが鼻息を荒くした。
「兄上、申し訳ありません。つい寝坊してしまって……」
話を聞いてると相関図が絵にかいたように見えてきた。
怒鳴った恰幅のいいオッサンは親父の兄のようだ。
次男坊でオースティン公爵と言うらしい。
人相悪い黒ずくめの男はオースティン公爵の子息でヴィンセント王子。
長男が王で名前はエイブラハム。
こりゃあ……覚えるのが大変だわ。
親父は王の実弟で三男なのはよーくわかった。
「やあ、ルーシェリア」
俺の名を呼ぶ少年がいる。
「どうしたんだい? びっくりしたような顔して?」
俺と同じ亜麻色髪の少年だ。
屈託のない笑みで俺に手を差し伸べてきた。
握手したらいいのかな?
俺が手を差し出すとぎゅっと握りしめられた。
「彼ら召喚勇者は実に頼もしいが、僕らだって修行してるんだ。異世界の人間なんかに負けられないよな? ルーシェリアもそう思うだろう? この世界は僕らの世界なんだ。頼りきってるだけじゃだめだ。君が寝込んでる間も僕は修行して剣の技量を随分とあげたんだ。師匠のおかげだよ」
俺はこの少年の名を知らないが、悪い気がしない。
きっと俺の親友候補なんだろう。
「ルーシェリアは魔術の方はどうだい? わずか7歳で
俺が魔術師? あらたな事実が発覚した。
とはいえ……この身体の記憶が無いんだ。
魔法の使い方なんてわかるはずがない。
「ルーシャリアほんと、どうしたんだい?」
「あ、ごめんよ。緊張しちゃっただけなんだ」
「そうなの? ならいいんだけど……病気はもう平気かい?」
「うん。水飲んだらすっかり良くなったよ」
「あの水を飲んだのかい? だったら大丈夫だね」
俺は少年に微笑み返した。
恐らく、俺の周辺の人物が王族なんだろう。
玉座の全面の両サイドにいる人達が貴族なのかもしれない。
「お! いよいよ召喚勇者がくるみたいだよ」
隣の亜麻色髪の少年が俺に告げた。
先頭を歩くのは昨晩、食事を共にした白い法衣を纏ったシメオンってオッサンだ。
シメオンの後ろから見覚えのある服装の一団が姿を現した。
俺はあまりの出来ごとに絶句した。
……どういうことなんだ?
――――嘘、だよな。
信じられない……いや、信じたくない。
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