第八話「俺の嫁」
とんがり帽子にねじれた杖。
杖の先が淡く光を放っている。
パッと見の印象は背丈が低い。
7歳の俺と変わらない気がする。
一言で言うなれば魔女っぽい。
黒い衣装に
魔女っ子と言えば女の子だ。
杖の先端の光から顔が浮き彫りになる。
素顔は可愛らしい少女だった。
鼻がちょっぴり低く耳がエルフのように尖がってもいた。
少女の後ろからもう一人、少女が覗かせる。
魔女っ子の外套の後ろにいたのはマリーステラこと俺の娘のマリーだった。
「やあ、マリー。その子は一体誰なんだい?」
俺はベットに座るように身を起こした。
マリーが慌てるように口元に指をあてる。
「しー! パパ、大きな声ださないで」
まあ、大きな声をだすなと言われれば特にだす理由もない。
部屋に入るとマリーがそーっと音を立てないようにドアを閉めた。
「今からパパに大切な話をするんだから、パパ、隣に座ってもいい?」
「別にいいけど……そちらの方は?」
「魔法ママだよ」
「え? それって俺の嫁になった人?」
「そうだよ」
俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
29歳の俺の属性はロリ属性だったのか?
身長も7歳の俺とさほど違いがない。
魔法ママとやらが俺の方へと歩を進めた途端。
どてぇ!!! 部屋に物音が響いた。
暗くて躓いたのか「ドテェ」と魔女っ子が前のめりに転んだのだ。
「魔法ママ、大丈夫?」
マリーが助け寄るが俺が一足先に助け起こした。
転んで、にへらと笑みを浮かべた魔女っ子は、自然な青い髪に青い瞳でサファイヤのように瞳がきらめいていたのだが、瞬時にはちきれんばかりの涙目となる。
「王子……いえ、ルーシェ……」
眼前に立つ魔女っ子が俺のガウン風のパジャマを掴み口元をへの字にし、か細い声を発した。
「ルーシェの元気な顔が見れて嬉しいのです」
転んで痛かったから涙目だと思いきやそうではないようだ。
彼女は嗚咽を堪えながら俺に抱きついてきた。
俺からしてみれば初対面だが、彼女からしてみれば感動的なご対面なのかもしれない。
そう……未来の俺は殺されてるんだから……。
「ごめんなさい……ルーシェ……過去のルーシェからしてみれば初対面なのに……でも、あまりにも嬉しくて辛抱できませんでした」
中学生ぐらいの少女にしては口調が丁寧だと思った。
「あ、いえ、マリーからある程度の話は聞いてましたので……未来の俺は殺され、家族も殺されると……」
魔女っ子は俺からそっと離れた。
瞳は涙で潤んでいたが瞳の奥からこの子の芯の強さを俺は感じ取った。
「魔法ママもパパの隣に座りなよ」
「そうですね……。私も隣に座らせて頂きますね」
二人は囁くように小さな声で語り始めた。
「ルーシェ、私は時魔導師で名をドロシーと申します」
「時魔導師?」
「時空を操る魔術に長けてる魔術師のことです」
「魔法ママは、魔術師の中でも高位の称号を持つ
マリーが補足してくれた。
やはりこの世界に魔術はあるんだ。
「その若さで高位の魔術師だなんてドロシーは凄いんだね」
「いえ……私は……」
ドロシーが恥ずかしそうにモジモジしてる。
「私はルーシェよりもずっとずっと遙かに年上なのです」
「……え? それって俺と同じように転生者ってこと?」
「ルーシェが勇者に挑む前日。その話を聞かされた時は私もマリーも驚いたものです。懐かしいですね……。私は幼く見えますが300歳を超えてるんですよ」
ほえー……。
ほんと見た目は中学生ぐらいなのに……。
「で、マリーが俺とドロシーの子なんだね?」
「それも違います……。マリーの実母は勇者に殺されました……未来で生存確認できた家族は今のところマリーだけなのです」
「な、なるほど……」
「本来は時間軸に干渉する魔術は禁忌なのです。……でも、あんなにも悲惨な未来なら……せめて…………ルーシェが元気に生きている未来が一つぐらいあってもいいと私は考え禁忌を侵しマリーとともに時空間魔術でこの時代にやってきたのです」
俺は考え込んだ。
死んでも構わないぐらいに考えていたからだ。
前世の俺は何一つ親孝行できなかったクズ野郎だ。
両親を失ってから何でもない日常の中にこそ幸せがあったのだと気づかされた。
それは喩えブサメンな俺であったとしてもだ。
いや……違う。
ブサメンを理由に人生そのものを放棄し逃げ続けてきたのだ。
「ドロシー、よかったら教えてくれないか? 俺は何をするべきなんだ?」
「私とマリーがこの時間軸に干渉しルーシェとこうしてお話してる時点で既にルーシェの歩む道標に変化が訪れたやもしれません。この時代に生きてるルーシェは私とマリーが知る未来のルーシェではありません。だから多くは語りません。私が全てを語ることによって、今の時代のルーシェの人生を束縛したくはないのです」
「…………」
「ですが……ルーシェに生きててほしい。私からルーシェに伝えられるのは明日会う召喚勇者のうちの二人の男女に注意してください。ほとんどの者が達が黒髪の中。一人だけ茶色い髪の男の子がいます。もう一人は一見大人しそうに見える女の子ですが、茶色い髪の男の子とは恋仲です。しかも、その二人は中でもずば抜けた人外の力を秘めています。ルーシェも家族もその二人に惨殺されたのです」
「えーっと、たしか俺が殺されるのは二十歳になった頃だよな?」
俺はマリーに確認した。
「うん、そうなんだ。パパがもう少し強かったら良かったんだけど……幼い頃のパパは魔術の修行もサボり気味でイケメンを理由に女の子のケツばかり追ってたんだって、ねえ、魔法ママ」
「そ、そうですね……」と、ドロシーは遠慮がちに呟く。
実際、そうなんだろうな……。
ドロシーやマリーから、こんな話を聞かされてなかったら俺はイケメン補正を理由に遊び回ってただろうな。しかも王子様だし……きっと金に苦労することも無いのだろう。
「パパ、もうそろそろ、お別れかも……」
「え? なに? 唐突に……お別れ?」
「魔法ママの魔力が尽きちゃう……もうすぐ元の未来に強制送還されちゃうよ」
元の未来? 強制送還?
突然、マリーは何を言ってるんだ?
「二人ともいなくなるって意味なのか?」
「そうだね……マリーも魔法ママもずっとパパといたいよ。でも、そうもいかないの」
「ルーシェ……最後に私の手を握ってくれませんか?」
俺の膝にドロシーとマリーが手を乗せてきたので、二人の手を強く握り尋ねた。
「あと、どれぐらい持ちそうなんだ?」
「1分くらいかな? 魔法ママ?」
「はあ? 1分だって?」
マリーとドロシーの身体が半透明になっていく。
「パパ会えて嬉しかった」
「私もまたルーシェに会えて、とっても幸せでした」
「お、おい、マジかよ」
「元気でねパパ」
「ルーシェ、幸せになってください」
二人の温もりが消えた……。
何だこの喪失感は……。
俺は茫然とした。
寂しさが込みあげてきた。
特にマリーとは過ごした時間が一日にも満たないが、孤独に異世界に転生してきた俺の良き理解者でもあり家族だった。
茫然としてると誰かがドアをノックしてる。
俺はドアに駆け寄った。
マリーとドロシーが再度未来からやってきたのかもしれない。
期待を込め俺はドアを開けた。
そこには眠たそうに目を擦るメアリーがいた。
「ルーシェ様、誰かいるのですか? ぼそぼそ声が聞こえてました」
「あ、いや……誰もいないよ」
「そうなのですか?」
メアリーは部屋に入り様子を窺ってる。
「ルーシェ様の寝言だったんですね」
「そ、そうなのかな……」
俺は誤魔化すように頬をポリポリと掻く。
「メアリーは睡眠の続きをとってきます」
メアリーはそう言うと寝ぼけてるのだろうか?
俺のベットに潜り込んだ。
「ルーシェ様、おやすみなさい」
ヤレヤレと思いながら、俺は暖炉の前のソファーの上に寝そべった。
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